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ノームの家は森の奥にあった。
さすがに土の精霊の家とだけあって、変わった家なんだろうなーって思っていたら、アシュレイさんのお店“ノーム・ホル”とそう変わりはなかった。マンホールのようなフタが入り口になっていて、中は質素ながらも趣(おもむき)のある部屋だった。天井はアルミスさんが屈まないと頭を打つ程度で…まあ、私たちに支障はない。
「食べ物持ってくるからテキトーにくつろいでるんだな。あ、そっちの方に水浴びできるところがあるから、入ってくるといいんだな」
ノームが一つのドアを指した。 「んじゃ、お言葉に甘えて。お姉様方、一緒に入りましょうよ。お背中流しますよ」 「ええ、そうしましょうか」 わたしは後でいいって言ったんだけど、“今頃恥ずかしがってるの?”とナギに笑われた。そしたら、 「仕方がないんだな、オイラが一緒に入ってやるんだな」 と、土の精霊がそんな事を言って、なぜかウェーアが“ダメだ”と睨んだ。ノームは逃げるように出て行った。
あんなぬいぐるみみたいな体でお風呂に入れるのかなと思いながら、わたしは二人に引っ張られて浴室へ向かった。
中は薄ボンヤリと黄色く光っていて、自然にできた池は、ひんやりとした心地よさで私たちの汚れを落としてくれた。
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ノームとやらは食材を採りに、セリナ達は水浴びに行き、ここには俺とフォウルだけになった。
「どう思う」
出し抜けに聞いた。
「どう、と言われましても…怪しい、としか」
やはり、彼もそう感じていたか。
我々の落とされた落とし穴と、罠の張り巡らせられていた横穴には、光を発する植物が生息していなかった。と、言うことは比較的新しく作られた穴だという事になる。それに加え、足元ばかりに張られていた罠の数々。疑問に思っていたが、仕掛けた本人があの矮躯(わいく)ならば納得がいく。 さらに、泥人形。どろ…ぎょん?とか言っていたか。どのような意図でその名を付けたのかは解りかねるが、あれを作り、我々に嗾(けしか)けたという事は確かだ。にもかかわらず、自分の家に招待しに来たとは…。何かを企(たくら)んでいるとしか思えない。
だが、何をされるのかがわからない今、十分に警戒しながら、もらえるものはもらって行く事にしよう。
「俺がいない間、よろしくな」
さっぱりとした顔で出てきたセリナ達を一瞥(いちべつ)し、フォウルに言い置いた俺は、ノームにかけられた土を落としに行った。
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全員がそろって、部屋の中を物色したりお喋りしたりしていると、家の主が帰ってきた。 両手にたくさんの食べ物を抱えていたから、手伝ってあげた。上にまだあるらしい。皆が次々に席を立つ中、ウェーアだけがさも当たり前のように座ったまま。
「ウェーア、ここ宿じゃないんだからさ、少しは手伝ったらどう?」
半ばあきれて声を掛けると、ひどく不思議そうな表情で顔を上げた。けれどすぐにハッとなって、 「あ、ああ。そうだな」 慌てて腰を上げた。
久し振りにまともな食事を頂いた私たちは、まだ何かをしているノームに色々と聞いていた。
「ここでは動物を食べたりしてはいけないと聞いていたのですが、よろしかったのですか?」 「あれは木になる肉を使ってるからいいんだなー」
ファタムには食用の肉が木に成るようだ。想像つかない。
「なぜ俺たちを落とし穴に落として、あの泥人形を嗾けたんだ?」 「あ、あ〜れをぉやったのはー、オイラじゃぁないんだなぁぁぁ」 「あれ?けど、ノームが作ったどろ…何とかって言ってたじゃん」 「おっお〜茶が入ったんだなぁぁぁぁ」 「あ、ありがとノーム」 よろよろと危なっかしげにお茶を運んできたノームにお礼を言うと、ナギとウェーアが同時に溜め息を漏らした。
――ずずずず〜
しばらく誰も何も言わずにお茶をすすって、
「………!?こ、これは…」 「あ、れ………?」
急に視界がぐにゃりと歪んで―――
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