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ノストイ〜帰還物語〜第二部 作者:紫苑璃苑

第25回   Z-5

                       □□□

 「そろそろ教えてくれても、いいんじゃないですか?」

 依然として続く迷路で、アルミスさんは唐突に尋ねられました。
「え?何を、ですか?」
「あなた達は、何のためにファタムまで来たんです?ウェーアさんは知る必要はないと言っていましたが…」

 そういえばそうでした。アルミスさんとロウちゃんは、今回の目的を知りません。ただ、ファタム・ゾウムへ行きたいとお伝えしただけです。
 お教えしてしまってもよろしいのでしょうか。アルミスさんは口が堅そうですけれども…。

「さあ、何のためなのでしょうね」

「…やっぱり、教えてはくれませんか」
私がとぼけると、アルミスさんは残念そうに苦笑いをして肩を落とされました。
「ごめんなさい」
「いえ。……ナギさん、気付いてますか?」
私には、彼の言おうとしていることがわかりませんでした。何のことだろうと首を傾けますと、アルミスさんが突然立ち止まられて――

 ――― ひた  ひたっ。

「!?」

 私は背筋が凍りつきました。姿は見ることができませんが、いつの間にか追けられていたようです。おそらく、今度は動物ではなく人間大のものでしょう。

「誰、でしょうか」
 再び歩き出しますと、後ろの方も何事もなかったかのように、ひたひたとついて来ました。けれども、足音の間隔が先程より狭くなっています。
「他の三人だったら、こんな事はしないでしょう。わかりませんが、今はどするか…」
「そうですね…。とりあえず、逃げますか?」
潜めた声が、あちらに聞こえたのでしょうか。私が言った途端、

――ひたたたたたたたた……

あちらの方が走り出しました。穴の中なので反響しているのかもしれませんが、足音は複数に聞こえます。

「早く!!」

アルミスさんに手を引かれ、私も走り出しました。けれども、後ろの方はとても足が速く、すぐに追いつかれてしまいそうです。



 息が切れ始めました。道はずっと真っ直ぐで、曲がるようなところはありません。

 「―――っ!?」
後ろから来ていたはずの一人が、私たちの頭と天井の間を飛び越え、目の前に立ちはだかりました。

「なっ、何!?」

 壁の明かりにボンヤリと姿を現したのは、体中どろどろと溶けていて、顔には大きな口しかない化け物でした。目は、おでこの辺りから出ている触角の先にあります。

 引き返そうと後ろを振り返りますと、こちらにも同じような怪物がいました。
「何なのでしょう、これは」
「わかりません。ただ、自分達を狙っている事は確かですね」
じわり、じわりと私たちは壁側へ追い詰められていきます。

 逃げ場がありません。

 私たちは、このような所で殺されてしまうのでしょうか。



 ついに、アルミスさんより大きな怪物は、グワッと口を開きました。

 「っ!!」

 私は咄嗟に目を瞑り、身を固めます。が、


「すみません!!」


 アルミスさんが叫び、私の体は宙に浮きました。
 次いで来る衝撃に悲鳴を噛み殺し、何が起きたのかを理解する前に、私はアルミスさんに抱えられてその場から離れていました。


                     □□□


 自分は泥の怪物が自分達に襲い掛かる瞬間、ナギさんに断りを入れて抱え上げ、怪物達の間に飛び込んだ。

 彼らの背後に抜けられたのはよかったけれど、その時肩から落ちてしまった。痛みに顔をしかめながらもどうにか立ち上がって、駆け出す。
「あ、アルミスさん、降ろしてください。私、走れますから」
ナギさんはそう言ってくれたけど、追っては足が速く、そんな事をしている余裕がない。
 自分は申し訳なく思いながらナギさんの言葉を無視して、咄嗟に見つけた横道に入る。


 「ナギさん、まだ追って来てますか?」
「姿は見えませんが、まだ来ているようです。――アルミスさん、そこ!!」
ナギさんに言われて彼女の示す方向に目を向けると、自分の肩ぐらいの高さに穴が一つ、開いていた。

 ナギさんを先に行かせて後からよじ登ると、すぐに泥の怪物がこの通りに入ってくる気配がした。
 穴は人ひとり通るのがやっとで、上へ上へと登っていた。肩越しに振り返ると、怪物が自分の足を掴もうと手を伸ばしている。けど、相手は肩幅が広すぎてそれ以上は入って来れなかった。

 後ろに戻ることはできないから、自分達は這うようにして穴を登るしかなかった。

 ナギさんはまだいいかもしれないが、自分にとっては狭くて苦しい。

 早く外の空気が吸いたいと思った。





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Novel Editor by BS CGI Rental
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