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「そろそろ教えてくれても、いいんじゃないですか?」
依然として続く迷路で、アルミスさんは唐突に尋ねられました。 「え?何を、ですか?」 「あなた達は、何のためにファタムまで来たんです?ウェーアさんは知る必要はないと言っていましたが…」
そういえばそうでした。アルミスさんとロウちゃんは、今回の目的を知りません。ただ、ファタム・ゾウムへ行きたいとお伝えしただけです。 お教えしてしまってもよろしいのでしょうか。アルミスさんは口が堅そうですけれども…。
「さあ、何のためなのでしょうね」
「…やっぱり、教えてはくれませんか」 私がとぼけると、アルミスさんは残念そうに苦笑いをして肩を落とされました。 「ごめんなさい」 「いえ。……ナギさん、気付いてますか?」 私には、彼の言おうとしていることがわかりませんでした。何のことだろうと首を傾けますと、アルミスさんが突然立ち止まられて――
――― ひた ひたっ。
「!?」
私は背筋が凍りつきました。姿は見ることができませんが、いつの間にか追けられていたようです。おそらく、今度は動物ではなく人間大のものでしょう。
「誰、でしょうか」 再び歩き出しますと、後ろの方も何事もなかったかのように、ひたひたとついて来ました。けれども、足音の間隔が先程より狭くなっています。 「他の三人だったら、こんな事はしないでしょう。わかりませんが、今はどするか…」 「そうですね…。とりあえず、逃げますか?」 潜めた声が、あちらに聞こえたのでしょうか。私が言った途端、
――ひたたたたたたたた……
あちらの方が走り出しました。穴の中なので反響しているのかもしれませんが、足音は複数に聞こえます。
「早く!!」
アルミスさんに手を引かれ、私も走り出しました。けれども、後ろの方はとても足が速く、すぐに追いつかれてしまいそうです。
息が切れ始めました。道はずっと真っ直ぐで、曲がるようなところはありません。
「―――っ!?」 後ろから来ていたはずの一人が、私たちの頭と天井の間を飛び越え、目の前に立ちはだかりました。
「なっ、何!?」
壁の明かりにボンヤリと姿を現したのは、体中どろどろと溶けていて、顔には大きな口しかない化け物でした。目は、おでこの辺りから出ている触角の先にあります。
引き返そうと後ろを振り返りますと、こちらにも同じような怪物がいました。 「何なのでしょう、これは」 「わかりません。ただ、自分達を狙っている事は確かですね」 じわり、じわりと私たちは壁側へ追い詰められていきます。
逃げ場がありません。
私たちは、このような所で殺されてしまうのでしょうか。
ついに、アルミスさんより大きな怪物は、グワッと口を開きました。
「っ!!」
私は咄嗟に目を瞑り、身を固めます。が、
「すみません!!」
アルミスさんが叫び、私の体は宙に浮きました。 次いで来る衝撃に悲鳴を噛み殺し、何が起きたのかを理解する前に、私はアルミスさんに抱えられてその場から離れていました。
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自分は泥の怪物が自分達に襲い掛かる瞬間、ナギさんに断りを入れて抱え上げ、怪物達の間に飛び込んだ。
彼らの背後に抜けられたのはよかったけれど、その時肩から落ちてしまった。痛みに顔をしかめながらもどうにか立ち上がって、駆け出す。 「あ、アルミスさん、降ろしてください。私、走れますから」 ナギさんはそう言ってくれたけど、追っては足が速く、そんな事をしている余裕がない。 自分は申し訳なく思いながらナギさんの言葉を無視して、咄嗟に見つけた横道に入る。
「ナギさん、まだ追って来てますか?」 「姿は見えませんが、まだ来ているようです。――アルミスさん、そこ!!」 ナギさんに言われて彼女の示す方向に目を向けると、自分の肩ぐらいの高さに穴が一つ、開いていた。
ナギさんを先に行かせて後からよじ登ると、すぐに泥の怪物がこの通りに入ってくる気配がした。 穴は人ひとり通るのがやっとで、上へ上へと登っていた。肩越しに振り返ると、怪物が自分の足を掴もうと手を伸ばしている。けど、相手は肩幅が広すぎてそれ以上は入って来れなかった。
後ろに戻ることはできないから、自分達は這うようにして穴を登るしかなかった。
ナギさんはまだいいかもしれないが、自分にとっては狭くて苦しい。
早く外の空気が吸いたいと思った。
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