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ノストイ〜帰還物語〜第二部 作者:紫苑璃苑

第21回   Z-2

                     □□□

 「セリナ!?」

 ウェーアさんとロウちゃんが急に消えてしまったと思ったら、今度はセリナがフッと姿を消してしまいました。
 そして、私が一歩踏み出した瞬間、

「――きゃっ!?」

 足元が抜ける感覚に襲われ、次いで背中を強打しました。しばらく背中と肺の痛みに息を詰まらせていますと、傍らからの呻き声を耳にしました。
「あ…、アルミスさん、ですか?大丈夫ですか?お怪我は…?」
「平気です。ただのかすり傷で」
とりあえず、ホッとしました。
 けれども、クダラは地上に残ってしまい、当然荷物も上です。何かあってはいけないと、食料と水だけは身につけていましたので、それに困ることはないと思いますが…。

 それにしても、
「落とし穴、のようですね。とても登ることはできそうにありませんし…」
「どうにか抜け出す方法を考えますか?」
そうおっしゃったアルミスさんに私は、ニッコリと笑顔でお返ししました。

「あら、考えるだけでは意味がありませんよ?ここは行動あるのみ、ということろでしょう?」



                      □□□



「いったたたたたたぁ〜。もう、何なのさ!―――って、ここどこさ?」

 あたいの頭ん中、ただ今大混乱中。いきなり落っこちちゃうんだから、びっくりしたさ。


 「おい」


 起き上がったあたいを迎えたのは、ものすんごくキゲンの悪そうな、イヤーな声。
「あれ?赤目菌、そんなところで何してるさ」
「寝ぼけているヒマがあったら早くどけ。男菌とやらを感染させてやってもいいんだぞ」


 あたいのシタジキになっていた赤目菌――ウェーアとか言うヤツ――はかなりのゴキゲンナナメ状態とみたさ。

(は〜、こんな事ぐらいで怒るなんて大人じゃないさね〜ぇ。)

 けど、感染させられるのはゴメンだから、しかたなくどいてやったさ。(ああ、なんて心の広い女なんだろ、あたいって)
 一人感心していると、小さな舌打ちと“高いな”って言う声がしたさ。それにつられた訳じゃないけど、あたいも上を見上げた。

 遠くの方に青くてきれいな空と、草が少しだけ見える。あとはまるーく全部土。まるで、タテに立てられてる筒の中さ。
 
(兄さやお姉様たちの声は聞こえないし…どうしたんだろ。このまま赤目菌なんかと二人っきりなんて絶対にイヤさ!早くこっから抜け出さなきゃ!)

 そう気合を入れていると、いつの間にか赤目菌がいなくなってた。まさか、一人で逃げたんじゃ―――って思って振り返ると、そいつはいた。

「何やってんのさ」
しゃがみこんで何かやってるそいつの背中を、つま先で軽く蹴ってやった。
「………………」
けど、こいつはちょっと動いただけで何も言わなかった。

(まさか、出られそうにないからってゼツボーに浸ってんじゃないさねぇ。あ〜ぁ、これだから男菌は―――)

「…あっ」

 赤目菌が明かりを点けると、そこには横穴があったさ。
あたいは似合わないモノクル片眼鏡なんかかけて、ずーっと何もない横穴を見ている赤目菌の横を、
「何でさっさと行かないのさ」
って、言いながら通りすぎて暗い穴の中に入ろうとした。

「ロウ――」
「何さ!」

あたいは記念すべき第一歩をふみ出しながら、なれなれしく名前を呼ぶ男をにらむ。そしたら、
 
 ―――ヒュッ

って、何かがうなって、土に突き刺さるニブイ音が足元でしたさ。



「…ワナがあるから気を付けろ」



 全く変わろうとしないしゃべり方で、赤目菌がつぶやいた。


 あたいの足のすぐ手前には、細い矢が突き刺さってたさ。


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Novel Editor by BS CGI Rental
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