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「セリナ!?」
ウェーアさんとロウちゃんが急に消えてしまったと思ったら、今度はセリナがフッと姿を消してしまいました。 そして、私が一歩踏み出した瞬間、
「――きゃっ!?」
足元が抜ける感覚に襲われ、次いで背中を強打しました。しばらく背中と肺の痛みに息を詰まらせていますと、傍らからの呻き声を耳にしました。 「あ…、アルミスさん、ですか?大丈夫ですか?お怪我は…?」 「平気です。ただのかすり傷で」 とりあえず、ホッとしました。 けれども、クダラは地上に残ってしまい、当然荷物も上です。何かあってはいけないと、食料と水だけは身につけていましたので、それに困ることはないと思いますが…。
それにしても、 「落とし穴、のようですね。とても登ることはできそうにありませんし…」 「どうにか抜け出す方法を考えますか?」 そうおっしゃったアルミスさんに私は、ニッコリと笑顔でお返ししました。
「あら、考えるだけでは意味がありませんよ?ここは行動あるのみ、ということろでしょう?」
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「いったたたたたたぁ〜。もう、何なのさ!―――って、ここどこさ?」
あたいの頭ん中、ただ今大混乱中。いきなり落っこちちゃうんだから、びっくりしたさ。
「おい」
起き上がったあたいを迎えたのは、ものすんごくキゲンの悪そうな、イヤーな声。 「あれ?赤目菌、そんなところで何してるさ」 「寝ぼけているヒマがあったら早くどけ。男菌とやらを感染させてやってもいいんだぞ」
あたいのシタジキになっていた赤目菌――ウェーアとか言うヤツ――はかなりのゴキゲンナナメ状態とみたさ。
(は〜、こんな事ぐらいで怒るなんて大人じゃないさね〜ぇ。)
けど、感染させられるのはゴメンだから、しかたなくどいてやったさ。(ああ、なんて心の広い女なんだろ、あたいって) 一人感心していると、小さな舌打ちと“高いな”って言う声がしたさ。それにつられた訳じゃないけど、あたいも上を見上げた。
遠くの方に青くてきれいな空と、草が少しだけ見える。あとはまるーく全部土。まるで、タテに立てられてる筒の中さ。 (兄さやお姉様たちの声は聞こえないし…どうしたんだろ。このまま赤目菌なんかと二人っきりなんて絶対にイヤさ!早くこっから抜け出さなきゃ!)
そう気合を入れていると、いつの間にか赤目菌がいなくなってた。まさか、一人で逃げたんじゃ―――って思って振り返ると、そいつはいた。
「何やってんのさ」 しゃがみこんで何かやってるそいつの背中を、つま先で軽く蹴ってやった。 「………………」 けど、こいつはちょっと動いただけで何も言わなかった。
(まさか、出られそうにないからってゼツボーに浸ってんじゃないさねぇ。あ〜ぁ、これだから男菌は―――)
「…あっ」
赤目菌が明かりを点けると、そこには横穴があったさ。 あたいは似合わないモノクル片眼鏡なんかかけて、ずーっと何もない横穴を見ている赤目菌の横を、 「何でさっさと行かないのさ」 って、言いながら通りすぎて暗い穴の中に入ろうとした。
「ロウ――」 「何さ!」
あたいは記念すべき第一歩をふみ出しながら、なれなれしく名前を呼ぶ男をにらむ。そしたら、 ―――ヒュッ
って、何かがうなって、土に突き刺さるニブイ音が足元でしたさ。
「…ワナがあるから気を付けろ」
全く変わろうとしないしゃべり方で、赤目菌がつぶやいた。
あたいの足のすぐ手前には、細い矢が突き刺さってたさ。
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