さらに数十日が経って、私たちはノースにお別れを告げた。 どうやらノース専用の抜け道があるらしく、いつの間にか険しい山脈は背後にあった。 代わりに、目の前には広範囲にわたる緑の海。爽やかな草の香りが漂い、緑の波は光に弾けていた。その奥には森がある。そこに土の精霊がいるんだろうか。
「さて、さっさと行くか。早く終わらせて、魚肉でもいいからあり付きたい」
もちろん、食料がない訳じゃない。ノースにいる間、果物を乾燥させてチップを作ったり、日持ちのいい木の実なんかも集めた。 けれども、残念ながら魚やお肉は手に入らなかった。ノースによると、普段は動物も魚もいるが、人間が入ると姿を隠すようになっているらしい。それはファタム・ゾウムでも同じ事。
“ファタムにいる間はルニアー動物を狩ったり、殺したり、傷つけてはいけない”
と言われた。だから私たちは、少しの間ベジタリアンでいなきゃいけない。ちょっと物足りない感じがするけどね。
腰まである草を掻き分けながら、道なき道をクダラを引いて歩いていると、
「あれ?」
不意に、視界の隅で何かが動いた。音は、私たちの足音で消されて聞こえなかった。 「どうした」 先頭を行くウェーアが振り向いた。その時にはもう、わたしは列から外れていた。
「何かが動いた」 「セリナお姉様、私も見たいです!」
後ろにいたロウちゃんも飛び出すと、ウェーアが慌てた様子で追って、戒(いまし)める。
「待て。何が出るのかわからないのに迂闊(うかつ)に近付くのは―――」
ウェーアの言葉が途切れた。甲高い悲鳴と驚愕の呻きがそれを追う。
「ウェーア!?」 「ロウ!!」 アルミスさんとわたしの声が重なり、一瞬にして消えてしまった二人の所へ―――
「――っ!?きゃああぁぁぁ…………!!」
突然の浮遊感の後、わたしは空がどんどん小さくなっていくのを見た。
「……ん?うっ―――いっっったぁ〜」
気が付いたら、暗いところにいた。
「………どこだろ、ここ」
打った所を宥(なだ)めながらどうにか立ち上がって、周りを見回す。
わたしのいる所だけ、スポットライトのように照らし出されている。他は真っ暗。それでも、壁がそびえ立っているのは判別できた。
上を見上げれば覗き込むように茂る草と、遥か彼方にある青い空。
つまりここは穴の中。しかもかなりの深さだ。
それに加えてわたしは一人。荷物は上で、ロープもない。
壁を登ろうにも、土が軟らかくてすぐに崩れてしまう。
………いきなり、絶体絶命の大ピンチってとこかな。
ああ、遠くに居りますお父さん、お母さん―――
―――頭ん中、真っっっ白です。
〜ども〜 え〜、今回からノストイ物語、新章『Z〜罠〜』です。 タイトルからして、そして始まり方からして大体予想がつくと思います。ええ。すみません、わかりやすいタイトルにして。 まあ、“どんなことが起こるのか”ということを楽しみにしていて下さい。
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