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ノストイ〜帰還物語〜第二部 作者:紫苑璃苑

第19回   ノストイ Z〜罠〜


 さらに数十日が経って、私たちはノースにお別れを告げた。
 どうやらノース専用の抜け道があるらしく、いつの間にか険しい山脈は背後にあった。
 代わりに、目の前には広範囲にわたる緑の海。爽やかな草の香りが漂い、緑の波は光に弾けていた。その奥には森がある。そこに土の精霊がいるんだろうか。


「さて、さっさと行くか。早く終わらせて、魚肉でもいいからあり付きたい」

 もちろん、食料がない訳じゃない。ノースにいる間、果物を乾燥させてチップを作ったり、日持ちのいい木の実なんかも集めた。
 けれども、残念ながら魚やお肉は手に入らなかった。ノースによると、普段は動物も魚もいるが、人間が入ると姿を隠すようになっているらしい。それはファタム・ゾウムでも同じ事。

“ファタムにいる間はルニアー動物を狩ったり、殺したり、傷つけてはいけない”

と言われた。だから私たちは、少しの間ベジタリアンでいなきゃいけない。ちょっと物足りない感じがするけどね。




 腰まである草を掻き分けながら、道なき道をクダラを引いて歩いていると、

「あれ?」

不意に、視界の隅で何かが動いた。音は、私たちの足音で消されて聞こえなかった。
「どうした」
先頭を行くウェーアが振り向いた。その時にはもう、わたしは列から外れていた。

「何かが動いた」
「セリナお姉様、私も見たいです!」

後ろにいたロウちゃんも飛び出すと、ウェーアが慌てた様子で追って、戒(いまし)める。

「待て。何が出るのかわからないのに迂闊(うかつ)に近付くのは―――」

ウェーアの言葉が途切れた。甲高い悲鳴と驚愕の呻きがそれを追う。

「ウェーア!?」
「ロウ!!」
アルミスさんとわたしの声が重なり、一瞬にして消えてしまった二人の所へ―――



「――っ!?きゃああぁぁぁ…………!!」



 突然の浮遊感の後、わたしは空がどんどん小さくなっていくのを見た。
















「……ん?うっ―――いっっったぁ〜」

気が付いたら、暗いところにいた。

「………どこだろ、ここ」

打った所を宥(なだ)めながらどうにか立ち上がって、周りを見回す。

 わたしのいる所だけ、スポットライトのように照らし出されている。他は真っ暗。それでも、壁がそびえ立っているのは判別できた。


 上を見上げれば覗き込むように茂る草と、遥か彼方にある青い空。

 つまりここは穴の中。しかもかなりの深さだ。

 それに加えてわたしは一人。荷物は上で、ロープもない。

 壁を登ろうにも、土が軟らかくてすぐに崩れてしまう。

 
 ………いきなり、絶体絶命の大ピンチってとこかな。




 ああ、遠くに居りますお父さん、お母さん―――






 ―――頭ん中、真っっっ白です。






 〜ども〜
  え〜、今回からノストイ物語、新章『Z〜罠〜』です。
  タイトルからして、そして始まり方からして大体予想がつくと思います。ええ。すみません、わかりやすいタイトルにして。
  まあ、“どんなことが起こるのか”ということを楽しみにしていて下さい。


 

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Novel Editor by BS CGI Rental
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