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ノストイ〜帰還物語〜第二部 作者:紫苑璃苑

第18回   Y-13

                      ○○○


 ノースに入ってから数日が経った。

 あれから何度かノースと話した。彼らとお話できたのは、わたしとナギとウェーア。共通点はワグナー・ケイだ。
 でも、どうしてウェーアが?って事になるんだけど……それは本人がこっそり教えてくれた。

「俺の先祖がラルクと戦ったっていうのは聞いただろ?その時にもらったらしいんだ。剣の鍔(つば)元にあるやつ――ほら、これだ。ただの宝石に見えるだろう?誰にも言うなよー?恥ずかしいからなー」
カラカラ笑って去っていった。

 彼の剣は代々受け継がれていて、ケイのおかげか何回使っても刃こぼれせず、曇りもしない。いつまでも新品同様って訳だ。日本刀なら三・四人ぐらいで限界だったかな?西洋の剣なら一人か二人切れればいい方だ。戦場じゃあ、次々に武器を替えるか、撲殺していくしかないとか言ってた。恐ろしや恐ろしや…。


 話は変わってお昼頃。


 危険〜
 危険!
 逃げろー 逃げろー
 離れる 川
 わー


 わたしとナギとウェーアの頭に、子供の甲高い声が警鐘を鳴らした。
「川?」


 そお〜
 当たり!
 離れる 離れるー
 早く 離れる
 るー


「何でまた、川なんだ?」
ウェーアが荷物を運びながら聞く。ナギはフォウル兄妹に警告を伝えていた。わたしも荷物、移動させなきゃ。


 秩序〜
 乱した!
 人間 人間ー
 人間 追い出す
 すー


 耳を疑った。私たちの他に人がいるなんて初耳だ。
 驚いているわたしの背後で、小さな舌打ちが聞こえた。絶対ウェーアだ。他にする人なんていない。なんでこうも、いろんな事を話したがらないんだろう?

 と、そこへ

「お!丁度いい。ちぃーと助けろや、ガキ共!!」

どこからか飛び降りてきたガサツな声は、それが人に物を頼む態度?ってぐらいに驕慢(きょうまん)なおじさんだった。

「おっさん、誰さ」
「おっさんじゃねえ!おじ様って言え、おじ様って。あるいは“素敵な”って付けてもいいからよ」
さび色の髪と髭を持った目つきの鋭いおじさんは、ニヤリと答えた。顔も格好もなんだか怖い。わたしは一番近くにいた人の背中に隠れた。

「リビール…だったか?」

わたしが隠れさせてもらった背中は、迷惑そうな雰囲気だった。やっぱり、知ってたんだ。
「おう!えーっと―――」
「ウェーア」
「そうウェーア!ウェーアだったなぁ」
おじさんは片目を包帯で覆っていた。そっちじゃない方を嬉しそうに細める。
 
 けど……。

「いったい、どうなされたのですか?助けてくれとは…?」
「おう!そうだった。たーきぎをよう、面倒くせぇからそこら辺のモンぶった切って使ってたらいきなり――」
「ああ、なるほど」
「落ちていない木を使ってはダメなんですよ」
ウェーアは納得して、アルミスさんが教えてあげた。
「あぁ?何でだよ」
「それは―――っ!?何だ?」
「今度は何さ!?」
急に地面が揺れだした。地震――んー?違う?

「やっべ!もう来やがったのか!?――おい!ここから出るにゃーどっちいきゃーいいんだ!」
おじさんはひどく焦って私たちに聞いた。もしかして…これがノース達の言っていた危険?

それにしても、適当に走っているだけでも、すぐにノースから出られると思うのに…。

「リビールさん、寒いところはお嫌いですか?」

切羽詰っている所に、ナギののんびり声がやんわり尋ねた。
「あぁ?かなり苦手だぜ。それが―――」
「でしたら、あちらの方へ、川伝いに行けば外へ出られますよ」
と、おじさんが言いかけたのを遮って、ナギは一方を指した。おじさんはお礼も言わずに駆け抜ける。

「―――おじさん!おじさん……どれだけ殺せば気がすむの…?」

わたしはおじさんが森の中に消える前に、そう口走っていた。どうしてなのか、何でそんな事を言ったのかは当のわたしにもわからない。
「………はんっ知るかよ」
おじさんは一瞬驚いて、悪意に満ちた笑みを浮かべ――消えた。

そしてすぐに、

「うおっ!?いきなり来やがった!!―――って、」

 ―――ザバーン!


「こっち、寒いじゃねーかーぁ!!!!」


 雪の降りしきる方から、殷々と叫び声が聞こえてきた。

 しばらくして、何かが川をさかのぼって来た。

「水蛇(ヒュドラー)…?なるほど、追跡者にはもってこいだな」
鎌首を持ち上げた巨大なヘビは、ウェーアの言葉に反応したのか頭をこちらに向けて、

「………………え?」

笑った。

 目を細めて口の端を吊り上げたんだから、たぶんそうなんだろうけど…。
 私たちが冷や汗を流している間に、ヘビは頭から石版に、それこそ溶け込むように消えていった。


「……もっと、生き物を大切にした方がいいさね」


 わたしはロウちゃんに賛成。





 〜あい。〜
  これにてノース編終了です。この次は…いつ更新できるでしょうかねぇ?この先データが消えてるんで、それを打ち込みながらの掲載となるので、遅くなると思います。  悪しからず。
  
  ここまで読んでくださった皆様に、感謝と労いの言葉を。
  
  お疲れ様でした。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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