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ノースに入ってから数日が経った。
あれから何度かノースと話した。彼らとお話できたのは、わたしとナギとウェーア。共通点はワグナー・ケイだ。 でも、どうしてウェーアが?って事になるんだけど……それは本人がこっそり教えてくれた。
「俺の先祖がラルクと戦ったっていうのは聞いただろ?その時にもらったらしいんだ。剣の鍔(つば)元にあるやつ――ほら、これだ。ただの宝石に見えるだろう?誰にも言うなよー?恥ずかしいからなー」 カラカラ笑って去っていった。
彼の剣は代々受け継がれていて、ケイのおかげか何回使っても刃こぼれせず、曇りもしない。いつまでも新品同様って訳だ。日本刀なら三・四人ぐらいで限界だったかな?西洋の剣なら一人か二人切れればいい方だ。戦場じゃあ、次々に武器を替えるか、撲殺していくしかないとか言ってた。恐ろしや恐ろしや…。
話は変わってお昼頃。
危険〜 危険! 逃げろー 逃げろー 離れる 川 わー
わたしとナギとウェーアの頭に、子供の甲高い声が警鐘を鳴らした。 「川?」
そお〜 当たり! 離れる 離れるー 早く 離れる るー
「何でまた、川なんだ?」 ウェーアが荷物を運びながら聞く。ナギはフォウル兄妹に警告を伝えていた。わたしも荷物、移動させなきゃ。
秩序〜 乱した! 人間 人間ー 人間 追い出す すー
耳を疑った。私たちの他に人がいるなんて初耳だ。 驚いているわたしの背後で、小さな舌打ちが聞こえた。絶対ウェーアだ。他にする人なんていない。なんでこうも、いろんな事を話したがらないんだろう?
と、そこへ
「お!丁度いい。ちぃーと助けろや、ガキ共!!」
どこからか飛び降りてきたガサツな声は、それが人に物を頼む態度?ってぐらいに驕慢(きょうまん)なおじさんだった。
「おっさん、誰さ」 「おっさんじゃねえ!おじ様って言え、おじ様って。あるいは“素敵な”って付けてもいいからよ」 さび色の髪と髭を持った目つきの鋭いおじさんは、ニヤリと答えた。顔も格好もなんだか怖い。わたしは一番近くにいた人の背中に隠れた。
「リビール…だったか?」
わたしが隠れさせてもらった背中は、迷惑そうな雰囲気だった。やっぱり、知ってたんだ。 「おう!えーっと―――」 「ウェーア」 「そうウェーア!ウェーアだったなぁ」 おじさんは片目を包帯で覆っていた。そっちじゃない方を嬉しそうに細める。 けど……。
「いったい、どうなされたのですか?助けてくれとは…?」 「おう!そうだった。たーきぎをよう、面倒くせぇからそこら辺のモンぶった切って使ってたらいきなり――」 「ああ、なるほど」 「落ちていない木を使ってはダメなんですよ」 ウェーアは納得して、アルミスさんが教えてあげた。 「あぁ?何でだよ」 「それは―――っ!?何だ?」 「今度は何さ!?」 急に地面が揺れだした。地震――んー?違う?
「やっべ!もう来やがったのか!?――おい!ここから出るにゃーどっちいきゃーいいんだ!」 おじさんはひどく焦って私たちに聞いた。もしかして…これがノース達の言っていた危険?
それにしても、適当に走っているだけでも、すぐにノースから出られると思うのに…。
「リビールさん、寒いところはお嫌いですか?」
切羽詰っている所に、ナギののんびり声がやんわり尋ねた。 「あぁ?かなり苦手だぜ。それが―――」 「でしたら、あちらの方へ、川伝いに行けば外へ出られますよ」 と、おじさんが言いかけたのを遮って、ナギは一方を指した。おじさんはお礼も言わずに駆け抜ける。
「―――おじさん!おじさん……どれだけ殺せば気がすむの…?」
わたしはおじさんが森の中に消える前に、そう口走っていた。どうしてなのか、何でそんな事を言ったのかは当のわたしにもわからない。 「………はんっ知るかよ」 おじさんは一瞬驚いて、悪意に満ちた笑みを浮かべ――消えた。
そしてすぐに、
「うおっ!?いきなり来やがった!!―――って、」
―――ザバーン!
「こっち、寒いじゃねーかーぁ!!!!」
雪の降りしきる方から、殷々と叫び声が聞こえてきた。
しばらくして、何かが川をさかのぼって来た。
「水蛇(ヒュドラー)…?なるほど、追跡者にはもってこいだな」 鎌首を持ち上げた巨大なヘビは、ウェーアの言葉に反応したのか頭をこちらに向けて、
「………………え?」
笑った。
目を細めて口の端を吊り上げたんだから、たぶんそうなんだろうけど…。 私たちが冷や汗を流している間に、ヘビは頭から石版に、それこそ溶け込むように消えていった。
「……もっと、生き物を大切にした方がいいさね」
わたしはロウちゃんに賛成。
〜あい。〜 これにてノース編終了です。この次は…いつ更新できるでしょうかねぇ?この先データが消えてるんで、それを打ち込みながらの掲載となるので、遅くなると思います。 悪しからず。 ここまで読んでくださった皆様に、感謝と労いの言葉を。 お疲れ様でした。
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