・・・
…………パシャ…………
ナンの オト だろ?
……ピチャッ………
・・・ハ ネ た ?
……………………………………
・・・ナガれル おトが する・・・
・・・ナ ガ レ・・・ミズ の―――
―――バシャッ!!
「ふわぁ!?」
突然、フワフワした所から、パッと引き出された。 ボーっとしている頭をハッキリさせようと、目を擦る。 気のせいか、足下には草が生えていた。 そして辺りを見渡し―――
「…………」
―――また目を擦った。
「ここ、どこ?」
あの砂の台風だか、竜巻だかに吹き飛ばされたのに、まだ気絶しているけれど全員が(クダラと荷物も含めて)いる。
それに、ここは・・・
「オアシス…?」
わたしの髪は少し濡れていて、それのあった所には清らかな川が、さらさらと心地良い音を立てていた。頭上には紅葉した木々が葉を揺らしていて、足下は鮮やかな銀杏色・もみじ色・青さを残した草の色で敷き詰められていた。まるで、秋の一景のように…。
わたしは急に喉の渇きを思い出して、ごくごく川の水を存分に飲み下した。 満足のいったわたしは、やっと皆を起こす事に想いが回った。まず手始めに、うつ伏せでわたしの服の裾を掴んでいたウェーアを。 「ウェーア!ウェーア!!起きてー!!水があるよー?」 何度呼んでも、何度体を揺すっても、彼は死人のごとく動かなかった。もしかして、本当に死んでるんじゃ…?って、確かめてみると――――あぁ、ちゃんと息してる。 困ったわたしはちょっと考えて、一番初めに目に入った水で試してみる事にした。
手で水をすくって、ぐっすり寝ている彼の耳へ――
「――!?」
――掛けたら、飛び起きた――までは良かったんだけど…。よほどびっくりしたのか、わたしの眉間の目と鼻の先には淡く赤にきらめく銀の切っ先が…。
「「あっ…」」
ハッとしたウェーアと、驚いたわたしの声が重なった。
「………おはよう」 目の前にいる人が敵ではないと確認した彼の口からは、まだ寝ぼけているような言葉が出された。 「えっと…おはよう?」 とりあえずお返事して、 「なんか、助かったみたいだよ。私たち」 目線で周りを見るように促がすと、ウェーアも上を見上げて不思議そうに呟いた。 「…の、ようだな」 やっと剣をしまう気になって、水を被った耳をこする。 「水、飲んでなよ。わたしナギ達起こしてくるから」 「ああ。それにしても…酷い起こし方してくれたな」 寝起きの悪いウェーアは、不服そうに眉をひそめた。 「んー?でも、ちゃんと呼んだり揺すったりしたんだよ?――ナギー?ナーギー!!お・き・てっ!」
結局、ナギもフォウル兄妹も水を掛けるまでピクリともしなかった。
「――っくーぅ〜!生き返るさ〜!!」 顔ごと突っ込んで喉の渇きを潤していたロウちゃんは、顔を上げるなり水しぶきを飛ばしながら叫んだ。 「親父臭い。うるさい」 服に付いていた砂や葉っぱを、神経質そうに払っていたウェーアがぼそりと言うと、また言い争い――って言うよりロウちゃんが一方的にわめくだけだけど――が始まった。 まぁ、いつもの事なので、わたしはそのやり取りを眺めるだけ。
「うそさ!」
わめき続けていたロウちゃんが、一際高く叫んで、ナギとアルミスさんを振り向かせた。 「歳をごまかして何になる」 ウェーアのうんざりした声で、ナギはピンときたようだ。そりゃ、誰だって一回は間違えるよ。 「うそさうそさうそさ!兄さが二十一だよ!?赤目菌がそれより下なんてありえないさ!!」 「えぇ!?」 今度はわたしが驚く番だった。てっきり、アルミスさんは二十代後半ぐらいかと…。ずいぶんと歳の離れた兄妹だなーって思ってはいたけど。 「………?」 驚かれた方は、キョトンとした顔でクダラから降ろした荷物を持っていた。 「今日は飲もうか」 その肩をポンッと叩いたウェーアは、溜め息混じりに言う。 「ウェーアさん?お酒は十八になってからだと、何度申し上げればよろしいのでしょうか?」 間髪いれずに、ナギの恐ろしくて優しい声が彼の背中に突き刺さった。 「別に、ほんの少しぐらいいいじゃないか。あと半年で十八なんだし…。そ、それに…美容にもいいんだぞ?ナギも飲んでみるか?」 ナギはニッコリ微笑み返すと、ウェーアの荷物(いつの間にか持ってきていた)をあさって、酒瓶を取り出す。 「では、これはお預かりしておきますね」 「お、おい待て!治療にも使うんだぞ?」 「その時は私がお渡ししますから、どうぞご心配なく」 言い訳がましく手を伸ばすウェーアに、ピシャリと笑顔で言いつけた。
その後、ここで一夜明かすことにした私たちは、アルミスさんから“ここはノースかもしれない”という話を聞いた。
何でも二年前、つまり砂漠が広まってきた頃のことだ。生まれ故郷からレイタムへ逃げる途中、砂漠の猛威に負けて倒れたそうだ。そして気が付いたときには、見たこともない植物の中に二人で倒れていたとか。その時の雰囲気がここと似通っているみたい。
「で、色々見て回ったのか?」 「いえ。何が出るのかわからなかったんで。その時もこうして水辺にいて、食べ物は周りにたくさんなっていたものですから…」 「今いる場所とは違っていたのですか?」 「はい。けれども、同じ感じがします。確か…木の葉がこんな色はしていなかった。もっとこう…若々しいと言うか、芽吹いたばかりと言うか…。そんな感じでした」 「ん…。ま、今は悩んでも仕方がないだろう。食料も手に入った事だし、今日は早めに休むか?」 と言って、ウェーアはウトウトしているロウちゃんを横目で見た。 賛成した私たちは、川の近くで採ってきた果物を胃に収めた。もう日が傾いていたから、それは夕飯になった。
その晩。
疲れ果てて早めに寝入ったわたしは、誰かの話し声にふと目を覚ました。と言っても、体はだるくてまぶたも上がらない。耳だけをそばだてた。
「――って、よく誰かに似ていると言われませんか?」 アルミスさんの声だ。 「あぁ。お前は誰に似ていると思ったんだ?」 応じたのはウェーアだった。 さわっと風が吹いて、お酒の臭いを運ぶ。懲りない奴。まだどこかに隠し持っていたみたい。 「えっ?自分ですか?…いいえ、言うのは止めておきます。あっ、悪い意味ではありませんから」 アルミスさんは慌てた様子で弁明する。ウェーアは気にも留めずに別の話に移っていった。
ウェーアって、誰に似てるんだろう?わたしに言ってもわからないだろうけど、ちょっと気になる。
彼らのボソボソ声を聞いているうちに、またフワフワした感覚に包まれて、わたしは夢も見ないほど深い眠りについた。
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