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ノストイ〜帰還物語〜第二部 作者:紫苑璃苑

第1回   X しばしの休息

 私たちはファスト山脈と小さな森を抜け、ノウム・ハーバーと言う港町にいた。
 イトレスと別れた昨日は久し振りに、おいしい新鮮な料理に、暖かいお風呂に、ふかふかのベッドを存分に味わった。

 今はソイルへ行く船を探している所。
 船着場でお店を出している人に聞いてみる。
「ソイルに行く船…そうじゃな、この旅の商人屋さんの何かを買ってくれたら思い出せるかもしれんのう。――今日のお勧めはこの、どこで拾ったのかわからない首飾り。5000と、ちと値は張るが、滅多に手に入らない――」
「あぁ、いい。知らないのならいらない」

 気を取り直して。・・・一人のおじさんに尋ねた。
「ソイルに行く船ねえ…。ちょーど昨日来とったがね、あと三、四日しねーと来そうもねーなー」
肩をすくめられたけど、私たちはなるべく先を急ぎたい。なんたって、いつ世界が消滅するのかわからないんだ。だから、誰かそこまで乗せてってくれそうな人はいない?ってさらに問い詰めた。すると、

「なんだいあんた達、ソイルに行きたいのかい?」

と、後ろから声を掛けられた。振り向くと、背の高い気の強そうな女の人が紙袋を抱えて立っていた。
「あの、ソイルへ行く船があるのですか?」
「ああ、あたいん所荷物船だから客船みたくいい所はないけど、それでもいいってんなら親父に聞いてやるよ」
と、いう訳で親切なお姉さんのお父さんの荷物船に乗せてもらうことになった。
 その道すがら、ナギがお姉さんに名前を聞いたことをきっかけに、自己紹介をした。 オールバックの栗髪をヘアバンドで留めているお姉さんはアテネさんと言い、腕に巻いている赤紫の布はお父さんの船のトレードマークらしい。頭の四角いフレームのゴーグルは、お母さんからの贈り物。

「そいやぁあんた。ウェーアつったっけ?あんた前にもここら辺に来てなかったかい?」
アテネさんは不意に振り向いて深緑のマントを着込んだ彼に訊いた。
「ああ、ちょくちょく旅をしているからな」
「仕事さぼってね」
わたしが付け足すと、ギロって睨まれた。
「へーそりゃ悪い奴だね。まーいいけど」
思いっきり人事として済まされた。実際そうなんだから何とも言えないんだけど…。
「それにしてもよく覚えてたな」
「そんな暑っ苦しい格好してりゃーね。嫌でも目につくっしょ。…今回はツンツク頭のおっさんはいないんだね」
「ああ…。そうだマクライア。ひとつ聞きたいんだが―――」
 わたしは港の市に並ぶいろんな形や大きさをした魚介類を見ながら、二人の会話を聞き流した。


 「親父!親父!!いるんならさっさと出て来な!」

 アテネさんは、パキャルー号の船着場に着くなり怒鳴った。

 パキャルー号は荷物船だけあって、すごく大きかった。紺色に塗られた船体に赤紫の三本マストが――まだ折りたたまれているけど――よく映えていた。桟橋では、同じく赤紫の布を思い思いの所に着けている男の人達が、忙しそうに荷物を積み込んでいる。

 と、アテネさんの怒鳴り声に反応して、一人の中年男性がガニマタでこっちに近づいて来た。男の人は、頭に赤紫のバンダナを巻いて、白い物が混ざる顎鬚(あごひげ)をリボンで結んで、ガッチリとした体を揺らしていた。右目を×印に切られた痕があったけど、その目以外はアテネさんとは似ていない。

「お前、用があんなら自分から来るってーのが礼儀じゃろ!――あん?なんだーそいつらは」
おじさんは私たちを顎でしゃくった。
「こいつらソイルに行きたいんだってよ。どうせ行くんだから乗っけてっていいだろ?金も払うって言ってるし」
「へー。物好きもいたもんだー。部屋せめーし、食うもんもワシ等と同じじゃぞ?働いてもらうかもしれねーが、それでもいいってのか?止めといた方がお前達のためだと思うがなー」
そう脅し(?)ながらおじさんは、値踏みするように私たちを眺め回す。
「なに脅してんだよ。部屋だって二つや三つ余ってんだろ?乗せてくかんな。――ついてきな。案内してやる」
アテネさんはさらりとおじさんを無視して、ずかずかと荷物を運ぶ男の人たちの間をぬって行ってしまった。どうしたものかと立ち尽くしていると、
「うら、行かねーのか?ちゃんと乗っけてってやるから安心しな。ったく、言い出したら聞かねーかんなー、あいつは」
私達は、ぶちぶち文句を言うおじさんに続いて船へ上がっていった。


 アテネさんが案内してくれた船内は、必要最低限の物しか置いてなかったから、結構すっきりとしていた。船室は板張りの廊下伝いに両側にあって、それぞれ名前が書かれたプレートがぶら下げられていた。わたしとナギはそれぞれ一番奥にあった空き部屋を選び、ウェーアは少し離れた所にあるそれにした。

 わたしは荷物を置くと、甲板の様子を見に外に出た。同じタイミングで他の二つのドアも開けられ、私たちは笑いあって甲板に続くドアを開けた。

 外ではちょうど最後の積荷が入れられている所だった。アテネさんは見当たらず、代わりにおじさんが改めてあいさつする。
「ま、何にもねえがゆっくりしてってくれや。娘が滅多に拾ってこねー客人じゃからな。責任持って運ばせてもらうぜ」
「はい。よろしくお願いします。――私はナギ。こちらはセリナと、ウェーアさんです」
さすがはナギ。テキパキと私たちの分まで紹介してくれた。たぶん、こういう時わたしは話すきっかけを掴めないでいるだろうし、ウェーアはもしかしたら、お互いの名前もわからないまま過ごしてしまうかもしれない。
「おう。わしはシードクルドバルカン・マクライアじゃ。シドでええ。――ところで、さっきから気になっとったんじゃが、あんたー…いんや。なんでもねえ。忘れてくれ」
シドさんはウェーアを見て、思い留まったように言葉を切ってしまった。

「親っさーん!準備、完了ッスー!」

 なんだろうって思ったけど、元気のいい船員の声に阻まれてどこかへ行ってしまったから、聞きそびれた。ちょっと気になっただけだから別にいいけど。



 船が動き出し、慌(あわただ)しく働いていた船員たちもホッと一息つく頃、わたしはお昼までの時間を潰すため、甲板でボーッとしていた。乗り物には強いわたしは船酔いする心配もなく、心地よい海の風に髪をなびかせながら、雲ひとつない空や海底まで見えそうな透き通った海を眺めていた。

 船の速度は速い。あっという間に港から離れて行ったし、ディバインの大陸もどんどん小さくなっていく。その割にはエンジン音がしなくて、水を掻き分けてすべるように進んでる。まさか風だけの力で動いてるのかな?


 しばらくして、アテネさんに呼ばれたので船内に下りて行った。
 食堂にはガヤガヤといろんな人がいて、それが普通なんだけど、なんだか不思議な感じがした。
 わたしは黙々と食べている人や、昼間っからお酒を飲んでいる人や、早食い競争をしている人達を横目に、一角で手を振っているナギを目指してアテネさんの後に続いた。 アテネさんが通るとおじさん達は、“アネゴ”とか、“姉さん”とか声を掛けていった。
「ちょっとうるさいけど我慢してくれよ」
一言いって、彼女は離れて行った。わたしもナギとウェーアのいる席について、すでに用意されていた昼食をいただく。味は少し濃かったけど、新鮮な魚介類を使っていたからすごくおいしかった。







 昼食後、私たちが甲板の邪魔にならない所で日向ぼっこしてると、
「よう、そこの兄ちゃん。食後の運動にオイラと腕試ししねえか?」
背の高い、青いホウキ頭の青年が寝転がっていたウェーアに話しかけた。
「俺と、か?」
彼は片目を開けてその人を見る。
「おうよ。オイラに勝てたら、パキャルー号一の強っえー高っけー酒やるぜ!」

「のった!」

威勢よく持ちかけられた勝負を、威勢よく受けた。しかもうれしそうに破顔している。
「ちょっとウェーア。あんたまだ十七でしょ?お酒飲んでいいの?」
立ち上がって早くも準備をし始めたウェーアの服のすそを引っ張った。
「問題ない」
「だめですよウェーアさん。お酒は十八になってからです。あと一年待ちましょうね」
「譲ちゃんたち、そんな厳しいこと言わんといてさ。この兄ちゃんが勝ったら、良いもんやるからよう」
ホウキ頭の人の周りにいた一人のおじさんが、横からニコニコ顔で頼むようって言うと、
「ほら、何もしなくても君たちも何かもらえるんだ。いいだろ?」
「どうなっても知らないよ」
「大丈夫だ。俺が負けた所、見たことあるか?」

「そんな余裕かましてていいのかい?こいつ、一応この中で一番強いから、青あざ程度じゃすまないよ」
「お?なーんだアテネ。今日はやけに肩持ってくれっじゃん。やっとオイラのよさを解ってくれたんガハッ!?」
箒頭がニヤニヤしながらアテネさんの肩を抱くと、鳩尾(みぞおち)に強烈な肘鉄が送られた。

「はん。ただ客に怪我させたくないだけだよ。あんたこそ、こんなヒョロヒョロした優男に負けたらバタムラバの傷が泣くよ」

不意を付かれて痛みにうめくホウキ頭を見下して、アテネさんは涼しい顔でヒョロヒョロの優男を顎で指した。
 確かに、ホウキ頭と比べたらウェーアは小さくて細くて少し頼りないような気がするけど、見た目に反して力も結構あるし、タフだし、スピードがある。

「そのほほの傷は、バタムラバに付けられたものなのか?」

ウェーアはなにやら、目つきをほんの少しきつくしてそう聞いた。
「おうよ。けど、その代わりにそいつを海ん中突き落としてやったぜ!――まあ、かなり手こずったけどよ」
情けないとでも言うように、決まり悪げな苦笑いだった。
「そうか。けど、大したもんだな。――俺はウェーア。お前の名前と勝負方法は?」
「オイラはシユウ・クロト、二十五歳。武器はなし。相手が“まいった”っつうか、気絶するまで続ける。ようは拳(これ)で勝負だ」
シユウと名乗った箒頭は、ぐっと握り拳を作った。

「ちょいと、そりゃあウェーアって奴に不利じゃないかい?あんたの攻撃喰らったら一発で骨折れるかのされちまいそうだよ?」


 せっかくアテネさんが心配してくれてるっていうのに、ウェーアは問題ないとか言って、帽子とマントを取り外した。





 〜あとがき〜
  さあさあ!寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!!ノストイ第二部の始まりだよ〜!!
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  と、いう訳(どんな訳だ?)で、一度打ち切ったノストイ復活!みたいな?
  ・・・・いや、違いますけどね。ただ、連載回数が決められていたことを自分が知らなかっただけですから。ええ。
  
  まあ、とりあえず・・・よろしくどうぞ!!

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Novel Editor by BS CGI Rental
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