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…………… …………………… 岩山と、土しかない所にいました。 隣を歩く人は顔も名前も知らない人でしたが、とてもよく知っている人でした。
しばらく無言のまま同じような景色の中を歩いていましたが、不意に誰かが後を追けていることに気が付きました。 「×××さん」 私は隣の方にそれを伝えようと、小声で呼びかけました。 「ああ」 その方も、小さな声で頷きました。どうやら、お気付きのようです。 私達はもう少し何も言わずに歩き、ゆるく曲がっている所まで来ますと、追跡者が見えなくなるや否や、さっと岩山へ登りました。そして、追跡者が先程まで私達のいた場所に来る頃には、もう頂上に着いていました。 「何者なのでしょう」 二人でそっと顔を覗かせて、慌てて辺りを見回している追っ手の様子を窺います。と、突然こちらを見上げたので、急いで頭を引っ込めました。
「…行ったか?」 少しして、またそっと顔を出して見ますと、見える範囲に人影はありませんでした。どうやら、気付かれずに済んだようです。
私達は登ってきた方とは反対側へ下山しました。 足元は硬くしっかりした所もあれば、キノコ型や始終形を変える岩など、様々な危険が潜んでいます。ですから、降りる時は小石をたくさん拾って、足を下ろす所に当てなければいけません。そうして足場が崩れないかどうか確認しながら降りていくのです。 そのようにして、少しずつ慎重に山を下って行きました。
再び地上に立った私達は先を急ぎました。
「×××は、どこにいるんだろう」 隣の方が、誰にともなく呟きました。 「わかりません」 私は首を振って答えました。と―――
「―――っ!?」 次の瞬間、私は急に内臓がなくなってしまったような、ヒヤッとする感覚に襲われました。
気が付くと、私は仰向けに寝ていました。 遥か上空でぽっかりと空いた穴からは、パラパラと砂がお腹に降りかかっていました。このままじっとしていると、そのうち埋もれてしまうでしょう。 「痛っ」 起き上がろうとしたら、あばら肋に鋭い痛みが走りました。どうにか座ることのできた私は、辺りを見回します。 石の肌を持つ背の高い木々。その枝が折り重なり、天井を作っていました。この砂は、その木々が崩れてできた物のようです。触れると、さらさらと軽やかな音を立てました。
「起きたか。どうやら君は、あそこにぶつかったみたいだね。一応治療はしておいたけど…立てる?」 私はその方の助けを借りて、どうにか立ち上がりました。 見上げると、あの穴に一本の枝の影が掛かっています。 「向こうの方に水があった。今日はそこで休もう」 そう言って微笑んだその顔は―――
……………… ……………………………
「――ここ、は…」
「あっ!ナギ、おはよ。ルーシフ!起きたよー」 聞きなれた声がして、私は視界をはっきりさせるために何度か目をこすりました。 「あ、ら?ルシフさんのお家?私、いつの間に…――!セリナ、ケイは―――痛っ!」 慌てて飛び起きると、肋に刺すような痛みが走りました。 「だ、だめだよナギ、まだ完全に治った訳じゃないんだから」 セリナも慌てて私の体を支え、枕を背中にあてがってくれました。私は、自分はどうしていたのかと聞きました。どうやってここまで来たのか、記憶に無かったからです。確か、レーミルさんが…
セリナは少しずつ、思い出すように話してくれました。その間に風の精霊さん達は食事の支度をし、持ってきてくださいました。 『ごめんねナギ〜。オウラが頑張ってくれたんだけど、完治は無理だったよぅ』 一息ついたところで、ルシフさんが肩を落として謝られました。オウラさんもその横で、いつにも増して泣きそうな顔で座っていらっしゃいます。そんなオウラさんには、ケガの治りを促進させる力があるそうです。 「いいえ、ルシフサさん達が謝る事ではありませんから。セリナが止めたのに突っ込んでいった私と、レーミルさ――レーミルなのですから」 「ナギも悪くない!“あいつ”でいいんだよ、あんな奴。名前で呼ぶこともないの!!」 私は怒りながらも庇ってくれるセリナに苦笑いしながら、小さく“そうね”と頷きました。
『欲ヲ満タサント欲スルハ、人ノ性。サレド、欲ニ溺レル者ハ、自ラノ手で崩レユク』
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