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ノストイ〜帰還物語〜第三部 作者:紫苑璃苑

第8回   \-7

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 ……………
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 岩山と、土しかない所にいました。
 隣を歩く人は顔も名前も知らない人でしたが、とてもよく知っている人でした。

 しばらく無言のまま同じような景色の中を歩いていましたが、不意に誰かが後を追けていることに気が付きました。
「×××さん」
私は隣の方にそれを伝えようと、小声で呼びかけました。
「ああ」
その方も、小さな声で頷きました。どうやら、お気付きのようです。
 私達はもう少し何も言わずに歩き、ゆるく曲がっている所まで来ますと、追跡者が見えなくなるや否や、さっと岩山へ登りました。そして、追跡者が先程まで私達のいた場所に来る頃には、もう頂上に着いていました。
「何者なのでしょう」
二人でそっと顔を覗かせて、慌てて辺りを見回している追っ手の様子を窺います。と、突然こちらを見上げたので、急いで頭を引っ込めました。

「…行ったか?」
少しして、またそっと顔を出して見ますと、見える範囲に人影はありませんでした。どうやら、気付かれずに済んだようです。

 私達は登ってきた方とは反対側へ下山しました。
 足元は硬くしっかりした所もあれば、キノコ型や始終形を変える岩など、様々な危険が潜んでいます。ですから、降りる時は小石をたくさん拾って、足を下ろす所に当てなければいけません。そうして足場が崩れないかどうか確認しながら降りていくのです。
 そのようにして、少しずつ慎重に山を下って行きました。

 再び地上に立った私達は先を急ぎました。

「×××は、どこにいるんだろう」
隣の方が、誰にともなく呟きました。
「わかりません」
私は首を振って答えました。と―――

「―――っ!?」
次の瞬間、私は急に内臓がなくなってしまったような、ヒヤッとする感覚に襲われました。


 気が付くと、私は仰向けに寝ていました。
 遥か上空でぽっかりと空いた穴からは、パラパラと砂がお腹に降りかかっていました。このままじっとしていると、そのうち埋もれてしまうでしょう。
「痛っ」
起き上がろうとしたら、あばら肋に鋭い痛みが走りました。どうにか座ることのできた私は、辺りを見回します。
 石の肌を持つ背の高い木々。その枝が折り重なり、天井を作っていました。この砂は、その木々が崩れてできた物のようです。触れると、さらさらと軽やかな音を立てました。

「起きたか。どうやら君は、あそこにぶつかったみたいだね。一応治療はしておいたけど…立てる?」
私はその方の助けを借りて、どうにか立ち上がりました。
 見上げると、あの穴に一本の枝の影が掛かっています。
「向こうの方に水があった。今日はそこで休もう」
そう言って微笑んだその顔は―――













 ………………
 ……………………………


「――ここ、は…」


「あっ!ナギ、おはよ。ルーシフ!起きたよー」
聞きなれた声がして、私は視界をはっきりさせるために何度か目をこすりました。
「あ、ら?ルシフさんのお家?私、いつの間に…――!セリナ、ケイは―――痛っ!」
慌てて飛び起きると、肋に刺すような痛みが走りました。
「だ、だめだよナギ、まだ完全に治った訳じゃないんだから」
セリナも慌てて私の体を支え、枕を背中にあてがってくれました。私は、自分はどうしていたのかと聞きました。どうやってここまで来たのか、記憶に無かったからです。確か、レーミルさんが…

 セリナは少しずつ、思い出すように話してくれました。その間に風の精霊さん達は食事の支度をし、持ってきてくださいました。
『ごめんねナギ〜。オウラが頑張ってくれたんだけど、完治は無理だったよぅ』
一息ついたところで、ルシフさんが肩を落として謝られました。オウラさんもその横で、いつにも増して泣きそうな顔で座っていらっしゃいます。そんなオウラさんには、ケガの治りを促進させる力があるそうです。
「いいえ、ルシフサさん達が謝る事ではありませんから。セリナが止めたのに突っ込んでいった私と、レーミルさ――レーミルなのですから」
「ナギも悪くない!“あいつ”でいいんだよ、あんな奴。名前で呼ぶこともないの!!」
私は怒りながらも庇ってくれるセリナに苦笑いしながら、小さく“そうね”と頷きました。




 『欲ヲ満タサント欲スルハ、人ノ性。サレド、欲ニ溺レル者ハ、自ラノ手で崩レユク』

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Novel Editor by BS CGI Rental
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