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「よーぉっくできました!正解だ。誉れ高きディムロス様」
あの報告を受けてから、近々仕掛けてくるとは思っていたが……。よもやこれ程までに迅速に事が運ばれていたとは思わなかった。 「あんさんらー、バタムラバやな?お早いお着きでごくろーさん。もうちょいゆっくりしとってもえかったんやけどなぁ」 トルバが口の端を吊り上げながら、懐に手を伸ばす―――が、
「動くんじゃねぇよ」
銀の閃光が閃く。トルバの頬を掠めて短剣が壁に突き刺さった。 勢いだけはあるアイツを牽制(けんせい)するとは……。俺は内心舌打ちしつつ、ウォルターに目配せする。彼は小さく頷いた。 「久し振りだなぁ、ディムロスさんよ。それと、そこのガキ共。約束通り来てやったぜ。テメエの首を狩にな」 十数名の手下を従えた男は、うれしそうに禍々しい笑みを浮かべる。 「私には、約束した覚えはないがな」 「まー、どっちでもいいじゃねぇか。どうせテメエは―――俺に殺されるんだからよ!!」 後の言葉を皮切りに、手下の男達が一斉に動き出す。 「男とジジイ、ババアは殺せ!ガキ共は生け捕りだ!!」
―――争いの火蓋が切って落とされた。
「さあ、心置きなく殺(や)ろうぜ」 ここでは狭いと文句を付けるリビョールに、全員が雪のちらつく外へ追い出された。俺を相手に選んだリビョールは、太い段平(だんびら)を構える。 「何が目的だ」 「あァ?」 「なぜ罪もない、お前達には関係のない人々を襲う。私が目的ならば、私だけを狙えばいいだろう」 「へっ!俺様個人はテメエ目当てだがな。あいにくと世の中それだけじゃァやっていけねぇんだよ!」 一瞬にして、リビョールの歪んだ笑みが目の前に現れた。 俺は勘だけを頼りに体を横に捌(さば)く。同時に勢いを付けて抜刀した剣を薙(な)ぐ――が、難なく躱されてしまった。 「へへへっ。久し振りだぜ。こんな強いやつと戦(や)れるたァ」 「ならばトルバの方へ行け。一応私の兄弟子だ。そいつの方が強いかもしれないぞ?」 繰り出される切っ先を紙一重で躱し、間合いを取る。 「じゃあ、あいつらなんかに殺(や)られちまうこたーねぇだろ?生きてたら後でたーっぷり楽しませてもらうぜ。今はテメエだ!!」
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「ちょお待ちぃ!三対一は卑怯や思わんか?せめて一人、頭に加勢したれや!」
なんでワイがこないな目に遭わなーいかんのや。日頃の行いが悪いせいやろうか。――とかなんとか思うている内に、三人いっぺんにかかってきよった。 っくしょー!!後でたーっぷりあいつ(ディムロス)から金取り立てちゃる!
袖に隠し持っていた武器を素早く取り出したワイは、敵のお粗末な攻撃を潜り抜けながら狙いを定める。こういう族(やから)は人を殺す事に何の躊躇も持たん。かと言って、ワイらがこいつらを殺してもええっちゅー訳やない。バタムラバに限らんと、人を殺せばワイらにも罪が降りかかってくるもんや。誰がそないな事決めたんか知らんけど、正直言って面倒であらへん。悪い奴なら殺してもかまわん思うんやけど……ディムロス曰く「殺せば罪が消えるという事はありえない。罪人は、生きてその一生で罪を償わなくてはならない」だ、そうや。ったく、そんな七面倒くさい事ばっか考えとるからカタブツとか言われるんや。
ワイは目の前の奴に日頃の恨みをぶつけるがごとく、思い切り蹴ってやった。相手はあっけなく、守りもできずに蹴りを腹に喰らってよりめく。その隙を狙って短剣を肩口にめり込ませた。ついでに、後ろから狙っとった奴にも。 愛用の、柄が輪になった短剣には体をしびれさせる毒が塗ってある。これを喰ろうたらまず一週間は自由に動けん。視界の片隅で捕らえた最後の一人も、他の二人と同じ運命をたどらせた。
よっしゃ!これでワイの分は終いや。さてと……と、周りを見回すと、ナギ嬢ちゃんはウォルターはんが守ってるようや。アフェクはどうでもええし、ディムロスはめっちゃ強そうな頭(かしら)相手に手一杯やし・・・じゃ、セリナ嬢ちゃんの助太刀に行くとするか。
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