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ノストイ〜帰還物語〜第三部 作者:紫苑璃苑

第44回   XIII-7

○○○

 「――と、いう訳で、わたし達は全くといっていいほど謎解きができませんでした。おしまい」
ちゃん ちゃん、としおりを打ってわたしは口を閉ざした。
 薄雲に阻まれた暖かい日の光が淡く部屋に差し込む頃、やっと帰宅したディムロスに呼び出され、わたしとナギは彼の書斎の真ん中で直立していた――いや、立たされていた、の方が近いかもしれない。
 仕事机に向かって顔の前で指を組んでいるディムロスの顔は、いくらか疲れが見られた。
「…………」
「「………………」」
上目遣いに見つめてくる彼に言葉はない。居心地の悪い空気のためか、身じろぎすることすらできなかった。
 ポーカーフェイスの得意な彼の内心を読み取るのは難しい。けど、なんだか怒っている気がするのはわたしだけでしょうか……。
「――で?どこまで解けたんだ?」
深々と溜息を吐いた後、深々と背もたれに身を預けた彼は眼を閉じる。
「ええっと……出発地はここってのはわかったんだけど……」
「少し、君達には難しかったか?仕方がないな……」
ディムロスは本棚から赤い背表紙の薄い本を引き抜き、開いた。
「このままじゃ埒(らち)が明かない。俺が手伝ってやるから、少しずつ解いていこう」
 そうして、私たちは彼にヒントを出してもらいながら詞を解読していった。
 やがてウォルターさんの夕食を告げる声が聞こえる頃には、2/3ほどが解かれていた。



「……どーしたの?これ」
大きな食堂のドアが開けられると、わたしは目の前の光景に思わず声が出た。
「今日は初雪から二十日目だ。祭り――いや、祝いに近いか。各家庭でささやかな宴(うたげ)を催す風習があるんだ」
どうぞ、と通されたテーブルの上には、シビアさんが腕を振るったと思われる豪勢な料理がずらりと並べられていた。部屋にはロウソクと白い雪に似せた飾りでキラキラしてる。それでも、元の温かみのある落ち着いた雰囲気は損なわれていなかった。
 閉められていた扉が再び開き、アフェクとカデナが姿を現す。昼以外は姿を見せないカデナを見て、なんだか久し振りな感じだ。
 全員が席に着いたのを確認すると、ディムロスが立ち上がり、恥ずかしそうな顔で口を開いた。
「今年は招かれざる客に加えて、歓迎すべき客人が尋ねてくれたことに感謝する」
「招かれざるって誰の事や!」
「黙れ。誰もお前の事だとは言っていないだろ。――とにかく、今年も豊作と人々の幸せを願う。……これも私が言うのか?」
「毎年の行事でございますれば…」
「……では、全てを統べる名もなき我らが神に。アラザー!!」




















―――ガシャン!!















 杯を交わす音の変わりに、けたたましい音が耳に刺さった。
「―――――っ!?」
ご馳走、ご馳走♪とはしゃいでいたわたしは、突然の乱入者に驚愕してフリーズした。アフェクが女みたいな情けない悲鳴を上げる。
 じゃりじゃりとガラスの破片を踏み付けて進入してきた男達は、風雨に晒され汚れた服に身を包んでいる。
「よぉ。じゃまするぜぃ」
一番前にいるニヤ付いた顔の男がさらにニヤ付いて、町人同士の軽いあいさつのように片手を上げる。

「リビール・リビョール……だったな」

わたしを立たせて背中に庇ったディムロスの、苦々しい声がそれに答えた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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