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ノストイ〜帰還物語〜第三部 作者:紫苑璃苑

第43回   XIII-6


 トルバが追い出されてから、やっと本来の目的に行き着いた。わたしとナギが、光と闇の精霊の居場所がわからないと伝えると、エウノミアルは“何かで読んだな”と立ち上がって本棚へ向かう。
「“白と黒の掴めぬもの、求めし者現るる時、赤き背を求めよ……さればそなたを導かん”だったかな。――っと、これだ」
取り出したのは、赤い背表紙の小さな本だった。百ページあるなかないかの厚みだ。
「ん〜……そうだな、明後日また来てくれるか?それまでに――」
さらさらと本から何かを写し取り、それを手渡しながら、
「これの謎解きをしてきてくれ」

 「これを〜?私たち二人だけで解けってぇ〜?ちょ――――っと無理ぢゃなーい?」
今夜の寝床へ戻り、ソファーに見を埋めながらぶーたれる。ディムロス曰く、これを解けば光&闇の精霊の居場所がわかる所まで行けるらしい。つまり、このナゾナゾを解いてもすぐには場所を知ることができない。面倒だ。
「そんな……前向きに考えましょうよ。ね?いつものセリナはどこへ行ったの?二人だけでも何かひらめきがあれば、解決できるわよ。それに、誰かの助言をもらってはダメとは言われていないでしょう?」
「……そーだねー」
黒く染まる窓の向こう側。部屋の明かりに照らし出された降りしきる白を目にしながら、夢心地で答えた。

○○○

 朝食の席にディムロスの姿はなかった。ウォルターさんによると、数時間前に仕事で外出したらしい。昨晩私たちが退室したのは、日付が変わってから一・二時間だから……三・四時間しか寝てないんじゃないかな。大丈夫なんだろうか。
 朝の掃除を手伝った後、トルバに誘われて雪合戦をした。その内近所の子達も加わり、シビアさんに大声で呼ばれるまで遊び続けていた。
 午後からは反省して身を入れ替え、暗号解読に挑む。

【 世界中の物知り達が集う場所
  眼に映らぬ 形無き自由なものが通り道
  彼らの後を追ってみよう
  感じることはできるのだから

  求めるものは いづこにありなん
  望むものは いづこにありなん
  
  八つの赤が出会うとき
  重い扉は開かれる
  あなたの望む 道が開かれる

  求めるものは ここにありなん
  望むものは ここにありなん

  全てはあなたの意志の強さ
  当たりも外れも 今は灰
  全てはあなたの強い意志 】

っていうナゾナゾ。私たちはどうにかしてこれを解読しなきゃならない。しかも自力で。
「ねー。さーっぱりわかんないんだけどー」
「そうね……。目に映らない、形が無い自由なものを追えば行けるようだけど」
「だーかーらー、その目に映らないものって何!?見えないのにどうやって追うの?八つの赤は?それ以前に出発(スタート)地点もわかんないじゃん!!」
「あら、出発地点はなんとなくわからない?」
ぶーぶー言ってたわたしは、“マジッ?”とばたつかせていた足を止め、期待の眼差しを込めてナギを見つめる。
「“物知り”という言葉、どこかで聞いたことがないかしら?」
謎解きしているのにまた謎を出された。面倒に思いながらも記憶を振り返る。
「う〜ん……物知り……物知……あ!もしかして、ミアルのこと?」
「そう、別名“物知りの島”でしょう?そして、その由来は――」
「――情報を売買しているから!じゃああれだ、世界中の情報が集まる場所が出発地!!」
「そういうことになるわ」
「やった!すっごいすごい!ナギ、頭良いなぁ。――で?それってどこ?」
資料館かしら?と二人で首を傾けた。
「あとは見えないやつと、八つの赤と……」
「「う〜ん」」
ただでさえこの世界へ来てから解けていない謎があるのに、どうしてまた考えなきゃいけないんだ。
「よう嬢ちゃん達。……なんや?なに二人で唸っとるんや?」
トルバがノックもせずに入ってきた。
「ん〜?昨日ディムロスに渡された暗号解いてんの」
頭の中ではキーワードを並べながら答えた。不法侵入者は当たり前のように勝手に入り、わたしが寝転んでいるベッドの端に腰掛けた。
「ああ、あのどこにおるのかわからん精霊はんに関してのやな?ワイも手伝いたいんやけど……あいつから止められとるしなぁ。“二人だけで解かせなければならないんだ”とかぬかしとったわ。質問されたことに答えることはできるようやけど」
「じゃあこの意味教えて〜」
わたしはベッドで伏せしてトルバにメモを突き出す。全くもってちんぷんかんぷんだから、段々とイラついてきた。
「いゃあ〜そりゃぁ答えられへんやろ。つーかワイもわからんし」
「では、世界中の情報が集まる場所――私とセリナは資料館ではないかと思っているのですが……トルバさんはどこだと思われます?」
「そうやなぁ……資料室なら上にあるがなぁ〜。せやな〜、ワイはどちらかというと、そこは情報を溜めとく場所や思うで?」
「ああ、本だから?なんか当て付けっぽくない?」
「せやかて、ナゾナゾなんぞ、そないなもんやろ?」
言って、トルバは今の語呂、ええなぁと一人で繰り返し“ナゾナゾなんぞ”と呟き笑う。
「では、どこでしょうか?」
「せやから〜、ワイもよぉわからんてぇ。この家のことなん、ディムロスにでも聞かん限り―――」
ふと、言葉が途切れた。布団に顔を押し付けていた頭を上げると、珍しい表情が見れた。トルバは真面目な顔をしてろ。どうしたの?と声を掛けると、何かひらめいちゃったのか、ポンッと手を叩く。
「嬢ちゃん達、ディムロスは何の仕事をしとるんや?」
「エウノミアルでしょう?なんで今更そんな事聞くの?」
「まぁ、もうちょい聞き。――エウノミアルはどーやって仕事してはる?」
「??」
頭の上にはクエスチョンマークだらけだ。
「あっ!」
ナギがわかったと手を叩く。全く理解できないわたしは、ポカーンと二人を見上げる。
「あ〜、黒い嬢ちゃんの方はこっちの事、ようわかっとらんやったっけ?」
「エウノミアルは世界中に目を向けて異常や犯罪を取り除いていくの。そのためには何が必要?」
わたしはしばらく考えて、
「お金、人…の協力、情報……にゃ!?」
自分で上げた言葉に驚いて、目線を上げた。すると、やっと気付いたかと溜息を吐かれた。
「と、言うことは……出発地はディムロスさんの書斎かしら?」
「あくまで可能性としてやけどな」
「けど、他には思いつかないでしょ?じゃ、次いってみよー!!」

――コンコンコン

ノッてきた所に、遠慮がちなノックがして、ウォルターさんが顔を出した。
「午後のお茶が入りましたが、いかがなされますか?」

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Novel Editor by BS CGI Rental
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