私たちは割り当てられた部屋に入り、ドサリとソファーに身を投じる。一気に緊張が解けたって感じで、どっと疲れが出た。
「なんや。そない気ぃ張っとったんか?」
「「!?」」 勢いよく後ろを振り返る。キョトントした顔のおじさんがそこにいた。 「トルバ、なんでいるの?」 「なんでって…ワイ、お前さんらのお守り頼まれたやないか。いちゃ悪いんか?」 「い、いえ…私はてっきり、ご自分のお部屋へ向かわれたと思っていましたので」 「さよか。まぁええわ。それより、晩飯までなにするんや?ウォルターはん言っとったみたいに探険するんか?ここでゴロゴロしながら話しでもするんか?」 彼も、前を横切って向かいのソファーに身を沈める。そして、身を屈めた姿勢で上目遣いに私たちを見ると、 「どないするんや?」 「「………・…」」 どうしようか。疲れてはいるけどこの家の中を探険してみたいし。けど、聞きたい事もあるし…。 「えっと…ディムロスサンはあなたの事信用できるって言ってたんだけどさ、まだあなたのことがよくわからないんだよね。だから――」 「話しにするんか?」 「…うん。それに、トルバも私たちの事わからないでしょ?女の子二人がどうして…とか、思ってるでしょ?」 「ん〜。まあちょっとは思うけどな。人の世話焼くんはワイの性分みたいやし、あのディムロスが信頼できるゆうてんやから譲ちゃん達が悪い奴だとは思わん。ワイもそう思うし」 彼はしみじみ頷いて続けた。 「ホンマ珍しいんやで?アイツが人前でこいつは信用できる言うの。ワイに対してのも、言っとるの一回しか聞いたことあらへんし」 「そうなんだ」 ちょっと意外…でもないか。ウェーアの時も、すごい疑り深いところあったし。 「せや。まーそういう事で、お互い腹割って話そうや。ディムロスに信用されとるモン同士、な?」 情報交換という形で、トルバとディムロスの出会いを聞き、彼らの各地での活躍を語ってもらった。代わりに私たちは、旅の始まりからの話を大雑把に伝えた。
ラズロも言っていた通り、ディムロスは小さい事に両親を盗賊に殺され、辛くも生き延びたらしい。包囲されていた部屋から脱出した彼は、独り港まで降りていき、ファスト山脈に行き着いた。そこでトルバと彼の師匠に出会う。三人で一年程過ごした後、ディムロスの体に突然エウノミアルの刻印が現れた。その日からずっと、トルバはディムロスの協力者らしい。アシュレイさんとは仕事でソイルに行ったときに知り合った。元々家がなかったトルバはアシュレイさんの家の婿養子になったそうだ。 トルバは、私たちの拙(つたな)い説明を真剣に聞いてくれた。ラルク(火の精霊)の行(くだり)では、エバパレイト出身の彼に大いに興味を誘ったらしい。ウェーアとラルクが戦う所なんか、目を輝かせて子供みたいにはしゃぐ。
「お話中失礼いたします。夕食の準備がすみましたので、こちらへどうぞ」
あらかた話し終えたところで、ウォルターさんが呼びに来てくれた。 シビアさんの手料理は、家庭的なのに人気のレストランシェフが作ったようにおいしかった。ここではラズロの家とは違って、執事も他の使用人も一緒に食べる。と言っても、家主以外に住んでいる人はウォルターさんとシビアさんしかいないみたいだけど。三人だけでこの家に住んでいるのかと問うと、ディムロスは肯定した。 「大抵のエウノミアルは、自身を守るために牢番人や用心棒を雇うらしいがな。俺は特に必要ないと思って途中でやめた。俺がいなくても、雑魚なら程度ならウォルターで十分だしな」 「まあ。では、ウォルターさんも剣がお強いのですか?」 ナギの隣で姿勢よく魚のスープを飲んでいる執事さんは、スプーンを降ろして恥ずかしそうに微笑んだ。 「いいえ、剣ではありません。あまり人が扱わない物でございます。それでも、他の武器よりは得意ですが、強いという訳では……」 「まったまた〜。何言うとんねん、ウォルターはん。あんさんの腕前は相当のモンやで。ワイも敵わんやさかい」 「俺に負ける奴がウォルターに敵う訳ないだろ」 「なんやとー!?」 「そういえば、シャルナーゼはどうした」 喚き出したトルバを無視して、ディムロスはシビアさんに尋ねた。そういえば、姿が見当たらない。 「ああ、言い忘れておりました。なんでも、久し振りの長旅で疲れたとか。今夜はもうお休みになられると」 「……そう、か」 彼はすうっと目を細め、堅く口を閉ざした。
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