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ノストイ〜帰還物語〜第三部 作者:紫苑璃苑

第37回   XIII〜白銀の島〜

 白い息を吐きながら、わたしとナギはウィズダムの港を抜けて、街中へと歩を進めた。商店街では、寒さにもめげず、お客を呼ぶ声が飛び交う。冷たい気候でも育つのか、他の島では見られなかった形の野菜が多く並べられていた。もちろん、魚やお肉もある。
店の先々で、温かそうな湯気が立ち上がっていた。蒸したてのお饅頭やスープなどが売られているようだ。私たちは誘惑に負けて、安くて一番おいしそうなお饅頭と魚のツミレ入りスープを半ぶっこした。何とも言えない温かさが冷えた体に染みる。
食べながら手頃な宿を探して、一部屋取った。そこの主人にディムロス・リーズさんの家を尋ねると、
「何しに行くんだい?」
と、驚かれた。こんな子供が位の高いエウノミアルに会いに行く事なんて滅多にないんだろう。
「ちょっと聞きたい事があってね」
主人はそうかいと頷いて、以前ディスティニーにもらった地図に印をつけてくれた。現在地からだいぶ距離がある。この島は全体が窪地のようになっていて、中心から海に向けて土地が高くなっている。だから港は一つしかなく、しかも縦に長い。エウノミアルの住まいは港から一番奥にあるようだ。
 一応、この辺りに神様に関しての昔話はないかと尋ねると、昔話はたくさんあるけれど、神様についてのモノはないと言われた。ここに闇か光の精霊はいないかもしれない。しかしわずかな望みを捨てきれず、他の人にも聞こうと外へ向かうと、止められた。そろそろ日が沈むから出ない方がいいと。なんでも、ひどく冷え込むそうだ。
「今夜辺り、また積もりそうだな…」
主人の呟きを耳にしつつ、私たちは今日の寝床へ入っていった。

○○○

 ウィズダムに着いてから五日目。のらりくらりと店先を覗きながら、私たちは島の一番奥を目指していた。それが今日、やっとエウノミアルの住む町に足を踏み入れることができた。本来ならばもうちょっと早く着いてもいい距離なんだけれども、タイミングよく降り出してしまった雪のおかげで想ったより距離を稼げなかった。今は止んではいるが……。
 そこだけ地肌の見える道へ、立ち寄った店から出ると、
「あっ」
「おっ?」
大柄な男の人にぶつかられた。
「あ…えっとごめんなさ――」
「おいガキィ、テメェのせいで服が汚れただろうが!薄汚い格好しやがって!おまけに靴まで踏んでくれやがって!!」
靴踏んでないし。この服だってちゃんと毎日洗ってるし、バックしか持ってないわたしがぶつかってどうやって汚れるの?
「オレ様はナァ、今からリーズ氏に会いに行くところなんだよ!せっかく失礼のないように来たってーのに、どーしてくれんだあぁン!?」
目的が同じなんて。それにしても厄介な奴にぶつかられたなー。
「弁償しろっつってんだよガキ!何とか言え!!」
「あ、あの…申し訳ありません。どうかお許し下さい。見ての通り、まともな宿にも泊まれない旅の者です。訳あって伯母の家から飛び出してきた私たちは所持金がとても少なく、食べてゆく事すらままなりません。どうか――」
自分でものん気だと思うくらいボーっとしていたわたしに代わって、ナギお得意のでっち上げ話を謳い出した。あまりにも名演技だったので、なんだなんだと集まって来た人達に同情をもらっちゃった。ちょいと罪悪感に苛まれる。
 そんな雰囲気に呑まれてか、言い返すタイミングを逃した大柄な男は、
「けっ、しかたねぇな!今回は見逃してやるが、次ぎ会ったら覚えておきやがれ!働かせてでも弁償してもらうからな!!」
「…弁償させられる謂(いわ)れなんてないし」
去り際に、ポツリと言った言葉が地獄耳には届いたらしい。こんのガキィ!!とか言いながらわたしの胸倉を掴んで拳を――

「ただぶつかっただけの女の子にイチャモン付けて手まで上げるとは……大人として情けないと想わないのか?」

どこからか現れたニット帽の青年が、突然割り込んだ。
「んだよテメーは!じゃますんじゃねぇ!!」
男は怒りの対象をその人に切り替えたらしい。一度止められた拳を、方向転換させて再度振り下ろす。が、

「ぐわぁっ!?」

その腕はいともあっさりと背中に捻り上げられた。
「いい加減にしろ。罪のない人を殴ってなんになる。彼女も始めに謝ろうとしていたじゃないか。それとも…治療所へ行きたいのなら手伝ってやるが?」
「てっテメェぶざけ――いっででででで!!」
「この島には住民しか知らない決まりがあってな。お前のような輩(やから)はすぐにでも元いた島ないし、町に送還できるんだ。そして、エウノミアルの許しが下らない限り、半永久的にこの島への入島が禁じられる。――さて、どうしてもらいたい?」
ニット帽の表情は、こちらからでは窺えない。けど、最後の言葉と共にグラサンを外していたから、たぶん思いっきり睨んだんだろう。それが効いたのか、腕を捻られた男はさっと顔色を変えて逃げ出した。私たちの横を這う這うの体で逃げて行く姿を見送って、ニット帽の男にお礼を言おうと―――
「――あれ?」
―――したら、彼も忽然と姿を消していた。
「どこへ行ってしまわれたのかしら?」
「さあ。………でも、あの人……」
「なあに?
「…ううん。何でもない」

――どこかで……?
通りを見つめるわたしの鼻先を、ふわりと甘い香りがくすぐった。







〜どもどもf(^^;)〜

 ものすごくお久しぶりな感じです。長らくお待たせいたしました。
 ネットがつながらなくなるわ、忙しいわ何やらで何ヶ月か更新できていませんでしたが、これからは定期的にいける・・・・・・かな?自信ありません。
 それでも、お待ちして下さっている皆様のためにも頑張りたいと思います。話も後半に突入!っつーわけで、挫折することなくやっていきますので、応援よろしくおねがいします!!

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Novel Editor by BS CGI Rental
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