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ノストイ〜帰還物語〜第三部 作者:紫苑璃苑

第34回   XII-8

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 …………………………………ここ、は……


 気が付いたら、暗闇の中にいた。
 場所はたぶん、あの老木の虚(うろ)。ナギのようにマユの中にいるんだ。
 何とかして出られないかと、わたしはツルを手探りで掴み、動かす。が、ビクともしなかった。
「う〜ん…」
どうしようかと悩んでいると、俄(にわか)にマユ全体が脈打ち始めた。まるで、心臓のようにドクン ドクンとゆっくり波打つ。そのツルが、髪の毛のように細い先端をわたしの皮膚から中に侵入してきた。
「げっ」
その感覚が気持ち悪くて、引き出そうとツルを掴んだ瞬間、電気にも似た痺れが全身に走った。






 頭の中に、何かが入ってくる。


 バチバチはじける感じと、頭の中を引っ掻き回される感覚で変になりそうだ。


 腕も足も、もぞもぞと這い回られて、


 酷い不快感と恐怖とが入り乱れ―――





























―――叫んでいるのに、自分の声さえ聞こえない……



















 目が覚めた。
 一瞬のことのように思えるし、結構な時間が経ったようにも思える。
 相変わらず暗い中に閉じ込められていて、体に嫌な感覚が残っている。
 体は難なく動く。けれども今は、激しい脱力感に苛まれていて動く気力も無い。


 『平気か?』


 ナギ、大丈夫かな〜?とか考えていると、どこからか聞き覚えのある声がした。
 驚いてキョロキョロ辺りを見ると、ケイが入っている腰の袋が淡く光っていた。小さな口を開けると、精霊達からもらったケイの一つ、“ティーイア・ケイ”が青白く光っている。
「もしかして…ディグニさん?」
おそるおそる尋ねると、肯定の返事が返ってきた。彼女の声を聞くのはひどく久し振りだ。
『ウグトに捕らわれたそうだな』
「あぁうん。今、マユん中」
『気分は?』
「最悪」
しかめっ面で返した。ケイからは、笑い声が返ってきた。
「笑い事じゃないよぉ。本っっっ当に、死ぬほど気持ち悪かったんだから!」
『いや、すまぬセリナ。どうか、ウグトを許してやってはくれぬか。あれは、仲間に対する感情が激しい。今、ラルクが諭(さと)しているゆえ』
「えっ!?ラルクが?」
あの意地悪なラルクが人――もとい、精霊を説得するなんて…。想像できない。
「………ウグトさんは―――」
『ウグトは、元々感情に欠陥がある。怒りと悲しみという感情以外解せぬのだ。本当にこれでいいのか、相当悩んだはずだ』
「そっか…。まあ、仕方なかったんだね。自分の気持ち、上手く伝えることができないんじゃあ」
『本当に、すまないと思っている。ウグトには謝ることができないだろう。彼の代わりに侘びを入れたい』
「いいよそんな…。けど、ケイもらえるかなぁ?」
『うむ、少々手こずっているようだが………。ああ、終わったようだ。行きなさい』
ディグニさんの声に反応したように、わたしを包んでいたツルが緩み、外の光が差し込んだ。



『これだけは覚えておいて欲しい』
外に出た瞬間飛びついてきたナギは、わたしの腕にしがみ付いたままでウグトさんの話を聞いた。
『我々は人間を許しはしない。人間は我々の言葉を解せぬがために、我々の叫びが聞こえぬ。命を命と思わぬ者が多い。だが、我々にも意識はある。命がある。それを忘れないで欲しい』
そう言って精霊は、木のケイ“レストフォー・ケイ”を授けてくれた。そして、世界の人々への伝言を託した。
 『案内を付ける。ついて行けば、人間のいる所へ出られよう』
ウグトは膝の高さの…人形?を呼んでくれた。頭に双葉を生やしたこれは、コダマって言うそうだ。丸っぽい体は下に行くほど透明になっている。
『ラルクは気に入らないが、あやつの言うことには一理ある。お前たちの事も…全てが気に入ったわけではない。勘違いするな。――旅の無事を祈る』

『“無理矢理閉じ込めたりしてすまない”とでも訳してくれ』

ポソポソと、私達にだけ聞こえるよう、ディグニさんが通訳してくれた。
 頷いたわたしとナギは、歩き出したコダマの後を追った。追いながらウグトさんに手を振り、お礼を言うと、ぎこちなく手を振り返してくれた。


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Novel Editor by BS CGI Rental
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