〜前回微妙なところで切ってしまったので、ちょいと被った所から始めます。では、どうぞ〜
「…セリナ…」 あなただったら、どうやって止めるの…?
『早まるでない、ウグト』
「――えっ!?」 私は驚きのあまり、悲鳴のような声を上げて、低い声の発信源を探しました。 『兄(けい)は―――』 ウグトさんもすっと目を細められ、少なからず嫌悪をにじませて私の腰辺りを見ました。私は、“まさか”と思いつつも腰の袋を外し、一つだけ光を発していた“ムレイフ・ケイ”を取り出しました。 「まあ!ラルクさんですか!?このような事も可能なのですね」 『む。久しいな、ナギ。が、挨拶は後に。――ウグト。よもやお主、謳(うた)を忘れた訳ではあるまい。然り乍ら(さりながら)何故そこまで意固地かや?』 『……………』 ウグトさんは眉をひそめたまま、何もおっしゃりません。私は、どうすることもできずケイを持ったまま、お二人の様子を窺ってました。それにしても…どうして急に話しかけてこられたのでしょうか?もし、ディスティニーさんのように私たちの会話を聞いていたのでしたら、もっと早く助けて下さってもいいのに…。 『何故応じぬ。我らが使命、忘れたもうか。破りしが時、己が命、無きものと思え』 『……全て、承知の上』 やっと口を開いたウグトさんの顔には、初めて感情が表れていました。それは怒っていらっしゃるような、悔いていらっしゃるような、複雑な表情です。 『ならば―――』 『私にも、人間のような思考が付いてきたのだろうか。運命に逆らってみたい。何かに従うだけの生は嫌だと…。だが、人間に対する怒りは変わらない。私は、人間を滅ぼしたい』 『主の心、わからぬ我ではない。我ら、全にして個。個にして全。人間にしろ、我らにしろ、限りあるもの。早まるでない』 『では、兄はこのまま黙って見過ごせと言うのか!世界各地で聞こえる私の友の悲鳴に耳を塞げと言うのか!!』 『未だ、機は熟せず』 『ではいつだ!』 『かの“力” なんと申しておる』 『“我が声に、従え”と』 『ならば、意のままに』 『……私には、兄のように非情にはなれぬ。友を失うのを黙っていることはできない』 『それも、また試練。我ら限りあるものの』 『……私は兄が嫌いだ。兄の心は解せぬ』 『それもまた、一興よ。ウグト、アルケモロス 開放せよ』 フツリと、お二人の会話が途切れました。まだムレイフ・ケイは赤い炎を宿しているので、ラルクさんはいるようですが…。 『時間を取らせた。ラルク』 『気に病む必要あらん。我、時が感覚 なきが故』 と、ウグトさんは無表情のまま、私の知らない言葉で何かを言いました。ラルクさんも同じ言葉でお返事され、ケイから光が消えました。 お二人は、いったいどのような言葉を交わされたのでしょうか。とても、柔らかな口調でした。
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