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ノストイ〜帰還物語〜第三部 作者:紫苑璃苑

第33回   XII-7
〜前回微妙なところで切ってしまったので、ちょいと被った所から始めます。では、どうぞ〜











 「…セリナ…」
 
 あなただったら、どうやって止めるの…?












『早まるでない、ウグト』













「――えっ!?」
私は驚きのあまり、悲鳴のような声を上げて、低い声の発信源を探しました。
『兄(けい)は―――』
ウグトさんもすっと目を細められ、少なからず嫌悪をにじませて私の腰辺りを見ました。私は、“まさか”と思いつつも腰の袋を外し、一つだけ光を発していた“ムレイフ・ケイ”を取り出しました。
「まあ!ラルクさんですか!?このような事も可能なのですね」
『む。久しいな、ナギ。が、挨拶は後に。――ウグト。よもやお主、謳(うた)を忘れた訳ではあるまい。然り乍ら(さりながら)何故そこまで意固地かや?』
『……………』
ウグトさんは眉をひそめたまま、何もおっしゃりません。私は、どうすることもできずケイを持ったまま、お二人の様子を窺ってました。それにしても…どうして急に話しかけてこられたのでしょうか?もし、ディスティニーさんのように私たちの会話を聞いていたのでしたら、もっと早く助けて下さってもいいのに…。
『何故応じぬ。我らが使命、忘れたもうか。破りしが時、己が命、無きものと思え』
『……全て、承知の上』
やっと口を開いたウグトさんの顔には、初めて感情が表れていました。それは怒っていらっしゃるような、悔いていらっしゃるような、複雑な表情です。
『ならば―――』
『私にも、人間のような思考が付いてきたのだろうか。運命に逆らってみたい。何かに従うだけの生は嫌だと…。だが、人間に対する怒りは変わらない。私は、人間を滅ぼしたい』
『主の心、わからぬ我ではない。我ら、全にして個。個にして全。人間にしろ、我らにしろ、限りあるもの。早まるでない』
『では、兄はこのまま黙って見過ごせと言うのか!世界各地で聞こえる私の友の悲鳴に耳を塞げと言うのか!!』
『未だ、機は熟せず』
『ではいつだ!』
『かの“力” なんと申しておる』
『“我が声に、従え”と』
『ならば、意のままに』
『……私には、兄のように非情にはなれぬ。友を失うのを黙っていることはできない』
『それも、また試練。我ら限りあるものの』
『……私は兄が嫌いだ。兄の心は解せぬ』
『それもまた、一興よ。ウグト、アルケモロス 開放せよ』
フツリと、お二人の会話が途切れました。まだムレイフ・ケイは赤い炎を宿しているので、ラルクさんはいるようですが…。
『時間を取らせた。ラルク』
『気に病む必要あらん。我、時が感覚 なきが故』
と、ウグトさんは無表情のまま、私の知らない言葉で何かを言いました。ラルクさんも同じ言葉でお返事され、ケイから光が消えました。
 お二人は、いったいどのような言葉を交わされたのでしょうか。とても、柔らかな口調でした。



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Novel Editor by BS CGI Rental
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