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ノストイ〜帰還物語〜第三部 作者:紫苑璃苑

第30回   XII-4
○○○

 翌日、体はいつもとは違う疲れを訴えていた。原因はお喋りスズメ。
 おまけに、霧も晴れてない。
 仕方なく近くから食料を調達して、日保ちするよう焼いたり、燻製(くんせい)を作って過ごした。
 あまり乗り気ではなかったけれど、あまりにも暇なので、またディスティニーとお喋りして一日が終わってしまった。


 何日か経った。
 全くもって太陽の光を拝む事のできなかった私たちは、多少危険でも先へ進むことにした。
 なにしろひどい霧で、一メートル先も見えないものだから、手ごろな枝で探りながらノロノロ進む。


 次第に空気中の水分を吸って、服が重く冷たくなる。見えない足下に、何度も突っかかっては転んだ。


 ディスティニーとの連絡もおぼつかなくなってきた。雑音がひどい。彼は、精霊に近付いた証拠だと言っていた。


 幾日歩いても、霧は私たちの視界を塞いだまま動こうとはしない。
 暖を取ろうにもくすぶるばかりで、つかの間の休息もままならなくなった。






 そんなある日、白い世界の中から微かな声を耳にした。

「・・・誰かいるのかな」
「え?」
ナギが驚いて振り返った。まだ彼女の耳には入っていないらしい。
「ん・・・何でもない。早く抜けないかなー、この森」
余計な心配をさせないよう、黙っておいた。



 しかし、日に日にその声は、聞こえる回数を増やしていった。

 反対に、ディスティニーとはつながらなくなった。

 声は、歌を唄っていた。
 木のざわめきのような、かすかな歌声で。



 ナギが、上から何か見えないかと、木に登ってみると言い出した。
「危ないよ、止めときなって。ただでさえ見にくいのに、足滑らしたらどうするの?」
「でも、このままじゃ私たち、野垂れ死んでしまうわ。食料もそろそろ底をつきそうだし、寒いし・・・。このまま歩いていたって、埒(らち)が明かないでしょう?」
「まあ・・・そりゃ、そうだけど・・・・・・」
結局、ナギは登ると言って聞かなかった。
 頑固者はどっちだよ・・・・・・・・・
「気を付けてよ?」
地上に押し留められたわたしは、慎重に枝を登って行くナギを見送った。
ガサガサと、葉を掻き分ける音がしばらく続いて、
「どーおー?」
上に着いた頃かと、声を掛けてみた。――ガサガサ葉の揺れる音が返って来るだけだった。
 しばらくしてもう一度尋ねると、返答があった。
「駄目だわ。とてもこれ以上行けそうにないの。枝や葉がすごくっ―――きゃあぁぁぁぁぁ!!」
「ナギ!?」


 悲鳴がこだました。足を滑らしたのかと思ったが、違うらしい。かなり上のほうで喚く声が聞こえる。
 わたしは、いてもたってもはいられなくなって枝に足を掛けた。ナギに、“今行くから”と言いながら一本一本慎重に登る。――結構恐い。
 彼女はずいぶん上まで上ったようだ。かなりの高さまで来たけれど、まだ足の先すら見えない。

 と、今までかすかにしか聞こえていなかったあの歌が流れてきた。今までにないほど近く、はっきりと。


迷い込むは 二羽の鳥
一羽は 多くを知りたがり
一羽は 奇態な別世界

木立ざわめく 森の中
弱き羽を 大きく広げ
そこここに 舞い降りる

其の目指すものは 何ぞ
私はここにいる

抜け出せようか ラビュリントス
ツルを足に絡ませて
私のクシュロが 邪魔をする

其の目指すものは 何ぞ
私はずっと ここにいる


 声は、葉のこすれる音にも、人の声にも聞こえた。わたしは危機感を覚え、スピードアップでナギを助けに行く。
「ナギ!生きてる!?」
「失礼ね、ちゃんと生きてるわよ」
濃く掛かる霧の中に、かろうじて彼女の姿を見ることができた。
「げっ…何、これ」
しかし、その体にはたくさんのツルが絡み付いていた。ご丁寧なことに、宙ぶらりんで。
「登っていたら突然絡み付いてきたのよ。妙な歌声も聞こえてくるし…」
「待っててね。今取ってあげるから」
 腰に吊るしていた短剣を抜き、ツルに刃を立てる。―――が、あっという間にシュルシュル伸びてきた別のツルに手を弾かれ、短剣を落とされてしまった。
「ああもう!なんでこのツル勝手に動くんだよ!!」
自棄になって切るのを諦め、ガッシと掴みかかる。が、ツルはより一層身を固めるばかりで、緩めることすら許されなかった。それどころか――
「ナギ〜ィ、取れないよぉ―――ん?げっ!?」
今度はわたしの体にまで巻きついてきて……ついに二人仲良く吊し上げられてしまいました。


「大丈夫?セリナ」
「うん。痛いとか、そういうのはない。けど……」
「けど?」
「…………情けない…………」
「ええと…。これは、仕方がないと、言うしかないのかしらね」


 と、また木々の間からあの歌が流れてきた。
 今度は、さっきよりももっともっと近くで。
「えーっと…どちらさん?」
まだ姿の見えない歌い手に尋ねる。すると、意外にも返事があった。



『森の司人、ウグト』







 〜続きます〜
  どうも。立冬も過ぎていよいよインフルエンザが流行り出す時期になりましたね。急に冷え込み始め、自分はめげそうです。コタツを背負わなければ外に出られません。早く暖かくならないかなぁ(遠い目)
  さてさて、新キャラ登場ッスね。よくわからないうちに囚われてしまったセリナとナギ。二人の前に現れた者とは!?って感じで、次回に続きます!!乞うご期待!!

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Novel Editor by BS CGI Rental
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