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キーリスは、島のほとんどを樹海が占めている。それだけに、海から180度景色を回転させるだけで、目の前に深い森がそびえていた。 とりあえず道がなさそうなので、その辺の入りやすそうな茂みから森へ分け入る。
しばらく道なき道を突き進んで、
「セリナ」 「ん?」 「私たち、どこへ向かっているの?」 「さあ?」 「“さあ?”って・・・あなた、適当に進んでいたの?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、なる・・・のかな?」 「そうよ!ああ、どうして“どこに精霊がいるのか知らない”って言わなかったの!?てっきり私は、オーケアニテスさんに聞いていたとばかり・・・。これ以上進むのは危険だわ!元の浜へ戻って、町なり村なり探しましょう!」 「うん、けど――」 ナギが反転したところで足を止め、顔だけ肩越しに振り返る。
「帰り道、わかる?」
ギーッギーッ と、高い鳥の声がこだました。
「もう、どうしてこんな事になってしまうのかしら。――セリナ、あなたこの頃一人で突っ走りすぎよ。大体、私たちは二人で旅をしているのよ?これからは少しでも話し合って、それから道を決めましょう。ね?」 そう言う彼女は、怒りを撒き散らすように、木々の葉や草を掻き分けてどんどん進んでいる。もちろん、方角なんか決めてない。ただガムシャラに進んでいるだけだ。そんな投げやりなナギの後に、そうだねと相づちを打ちながら続いた。
やがて・・・
「・・・・・・なんか、霧が出てきたね」
徐々にだが、周りが乳白色に包まれつつある。ただでさえ視界の悪い森の中で、霧まで出てこられては立ち往生しかねない。このままじゃ、余計に迷子になる。 しかし、戻るわけにもいかず猶(なお)も草木を掻き分けて行くと、一メートル先も見えなくなってしまった。いつの間にか、森に住む生き物が全ていなくなったかのように、辺りはしん・・・と静まり返っていた。
自分の足すら見えないほどの白の幕。
異様な静けさの中に、わたしとナギは取り残されてしまった。
「・・・・・・・・・どうしよう」 「これ以上は進めないわね」 「・・・・・・・・・・・・ごめん」 急に申し訳なくなって、俯き加減に謝った。 「もう過ぎてしまったことでしょう?いまさら責めたっていたし方がないわ。それより、早く寝られそうな場所を探しましょうよ」
その日、心許無い明かりの元、木の根に開いた穴の中で一夜を明かした。
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