―――ズウン・・・・
「うわー!」 「なな何だ!?」
急に、本当に何の前触れもなく大きく船が横揺れした。 床に押し付けられていたわたしは少し滑った程度で済んだけれど、他の人は踏鞴(たたら)を踏み、中にはもんどりを打つ人もいた。もちろん、コーダも大きくバランスを崩し、わたしの顔を殴る機会を逃した。 滑ったおかげでコーダの下から抜け出す事のできたわたしは、どこかへ行ってしまった荷物の現在地を素早く確認する。と、傾いだ船が、“オキアガリコボシ”よろしく、元の状態に戻ろうと反対側へ傾く。 船は面白いほどやすやすと、わたしの体を滑らせた。 足の先に、海が見える。わたしと海の間では、怒りに顔を歪めるコーダが立ち上がりかけていた。
ニヤリ、と口の端を吊り上げるわたしと目が合った。
その瞬間、彼は何て思ったんだろう。
わたしは、必死にバランスを取ろうとしているコーダ目掛けて一際大きく、高く、
「お返し!!」
叫んで、スライディング・キックをお見舞いした。
ビタンッ!と、痛そうな音を立てて倒れたコーダは、そのまま手をストッパーにして、その場に留まった。その横をわたしは悠々と通り過ぎ、縁を足場に後から来た荷物を見事キャッチ!
船は依然として大きく左右に揺れていたが、コーダは這いつくばってでも“お返しの仕返し”がしたいらしく、縁にしがみ付いているわたしに近付いてくる。次に、向こう側が高くなったら、突進してくるつもりだろう。 わたしは身構え、その瞬間を待った。
ギギギ・・・
船が呻き声を上げ、反対側へ傾く。 コーダがうれしそうな嫌味ったらしい笑顔で甲板上を滑り降りてきた。そう、わたし目掛けて一直線に。 彼は直前で体を起こした。ゾンビのように手を前に突き出し、その指はこの首を早く締め上げたいとうごめ蠢く。
ちらりと背後を見やり、小さく頷いた。
裏切り者の指が首に触れるか触れないかの瀬戸際、わたしは―――
―――バシャンッ!!
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