■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

ノストイ〜帰還物語〜第三部 作者:紫苑璃苑

第20回   XI-5

□□□

 その夜、ガドガは疲れと満足感に浸りながら、心地良い眠りにつこうとしていた。

 オーケアニテスのお姿を拝見できた事。
 たまたま乗せた少女が大胆な、度胸の据わった行動を取り、それによって船員の意志が一つになった事。今日は嬉しい事がたくさんあった。

(久し振りに気持ちよく寝れるわい)

ニンマリと笑みを浮かべながら、吸い込まれるように夢の世界へと旅立った。






 その眠りが妨げられたのは、まだ空の白みさえ見られない、真夜中の事。

 何の前触れもなく自然に目を覚ましたガドガは、自分の足辺りに光の塊があるのを発見した。

(なっなんじゃいありゃあ。幽霊なんか!?)

じっとりと汗で体が濡れていた。無論、暑いからではない。冷や汗だ。しかも、寝台に括り付けられたかのように動けない。
 そんな自由の利かない体の中で、唯一動く目でそれを確認した。

『すぐに、少女達の元へ行きなさい』

何かされるのではないかと、恐るおそる光を凝視していた彼の脳内に、そんな言葉が響いた。

(なーにを言っとるんじゃ?少女ってーと、あの嬢ちゃん達しかおらんよなあ)

『そうだ、その二人だ。いいですか?よく聞きなさい。――この船に裏切り者が乗っている』

(―――!?)
 不思議な声は、口にしていないガドガの疑問に答えた。そればかりか、疑いながらもそうであって欲しくない、と願っていた事実を伝えた。
 これは夢だと思いたかったが、どう言う訳かそう思うことはできなかった。実際に、現実に起きている事としか感じられない。

『誰が裏切り者なのかは、あえて言わない。あなたが絶対に信用のできる者達の助けを借りて、今すぐに少女を助けるのです』

(助ける?その裏切りモンからけー?)

『彼女達は狙われている。今言えることはそれだけ』

 (んな、いきなり言われてもなー)

『早くなさい。時間が惜しい。――頼んだよ』

 ふっと、光が消えた。
 同時にガドガの目を開き、今の出来事が夢だったと悟る。


 しばし彼は思考を巡らせていた。




だが、ついに意を決したのか、力強く腰を上げた。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections