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ノストイ〜帰還物語〜第三部 作者:紫苑璃苑

第2回   \-2
                     ○○○

 今日はルシフの知り合いに会いに行く事になった。
 何でも、ワグナー・ケイを持っていないのに、彼女の姿が見える人間らしい。ものすごく稀(まれ)にだけど、そういう人がいるのだそうだ。


 森を抜けて市場の喧騒から離れた物寂しい丘の上に、その家はあった。

『人との付き合いが苦手な奴でねー。その割によく喋るから面白いよ』
「えっと…ちょっと、いいかな?ルシフ」
『うん?』
「あれ、何?」

わたしは古びた家の前にあるそれを指した。それは球体の、これでよく崩れないなと感心させられる、アンバランスに詰まれたモニュメントだった。それぞれに紋章が刻まれている。
『ああ、あれ?時々替えるんだよ。今回は積み木にしたんだ。結構良いじゃん』
 こんな、子供が無理矢理接着剤でくっ付けたような物を作る人って…。これは、誰が見ても引くなって思った。
 帰りたい気持ちを強めつつも、妙に感心しているルシフに導かれ、玄関の戸を叩く。

「…出てこられませんね。お出かけでもしていらっしゃるのでしょうか?」
一分ほど待ってみても、中で誰かが動く気配は感じられなかった。

 それにしても、こんな手入れもされていない家に、本当に人が住んでいるのか…。外から見る限りは、無人の廃屋にしか見えない。窓もカーテンもぴっちり閉められていて、屋根のカザグルマだけが虚(むな)しく時間の流れを教えてくれた。
『ん〜、そうそう出かける事なんてないしー。たぶんまたハイっちゃってるんでしょ。一応声掛けたんだから入っていいよ!あいつ、そういう事気にしない奴だし!』
と、勝手にドアを開けて入って行ってしまった。
 私たちは、ボーっと立ち尽くしている訳にもいかず、彼女の後に続いた。

『たぶんここだよ。――おーい!あっそびに来ったよーん!!』

ガラリと開けた扉の向こうで、猫背の男が何かをしていた。声と音に反応する事なく、その人は錆びた色の後頭部を見せたまま、目の前の何かに没頭している。
 何だろう?と、三人でそろりそろり、近づく。

「「『…………………』」」

 言葉を失った。
 何か、粘土のようなもので形を作っているのだが…それが何なのかさっぱりわからない。生き物のような、ただの泥の塊のような…。

『…おーい!!戻ってこーい!!』
「――うっひょ〜〜〜〜!?」
「うわっ」

ルシフが突然耳元で叫ぶと、彼はようやく変化を見せ――

「だ、大丈夫ですか!?」

――彼は驚いて、後ろざまに椅子ごと倒れこんだ。しかも、必要以上に暴れ、周りの道具を飛び散らかしながら。


 片付けを手伝いながら自己紹介を済ませ、私たちは勝手に入ってきた事をわ詫びた。彼はフルと言う名前らしい。

「いいよいいよ。僕集中しちゃうと周りが見えなくってね、音も遮断されちゃう訳だから誰かが入ってきても全然わからなくて、つまり泥棒に入られても全然気付かないんだけど、どうせ盗む価値のある物なんか無いから入っても来ない訳で、誰がいつどんな風に入って来ようが僕は全く気にしないんだ」

「はあ…」

「僕はね、自称テンペレット1の芸術家で四十過ぎても結婚できなかたって有名で、よく馬鹿にされていたからここで一人暮らししている訳だけど、死ぬまで一生自分の好きな事をしてやろうじゃないかって思って始めたのはいいんだけど、意外とお金が掛かる事につい最近気付いてどうしようもないから食費削って芸術(こっち)に詰め込んでいるから、悪いけどお茶も出せないんだ」

「い、いえ、お構いなく」

「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ、やっぱりルシフが連れてきてくれたお友達だけあるね、だってちゃんと僕の話を聞いてくれるし礼儀正しいし、そういえば君達もルシフが見えてるみたいだね、びっくりしたでしょやっぱりいきなりこういう子が現れた時なんか。僕も初めて会った時はね――」

と、フルは独特な喋り方でルシフと初めてあった時のエピソードを話し始めた。何しろ、聞き取りにくい早口の上に、変な抑揚を付けるものだから、何て言っているのかわからない。

 「――あ、あのさ、ちょっといいかな?一つ聞きたいんだけど…ディムロスって言う人、知ってる?」
 ほんの僅(わず)かな一息を聞き漏らさず、弾丸トークを始める前に口を挟んだ。
 ウィズダムに行けばわかる事だろうけど、他の島の人の意見も聞きたいしね。フォウル兄妹やウェーアには、聞くの忘れてたし…。

「ディムロス?あのディムロス・リーズのこと?そりゃぁ知ってるよ!だって彼は世界一のエウノミアルって言われてるし歴代最年少で仕事を受け継いだっていう噂だし、しかもかなり頭が良くって天才だって言う人もいるし会った事のある人達の評判もいいし、きっと背が高くてくっきりとした顔立ちで優しくて人格も立派な人なんだろうな、僕なんか足下にも及ばないよ。あっ、けどこういう美術系なら僕も負けないよ、ナギ君の後ろにあるの――そうそれ、僕が一年前に作ったものなんだけどどう?すばらしいだろう?自分でも結構気に入ってって――」

 また始まってしまったので、後の方は聞き流した。
 聞く限り、ディムロスと言う人はかなり人望が厚いみたい。あくまで噂の上で、だけど。けど、もし噂通りの人だとしたら、私たちの話を快く聞いてくれるだろう。
 フルの話を右耳から左へと通しながら、わたしは理想のディムロス象を作り上げていった。

 かなりの時間が経って、やっと開放された三人は、町をグルっと散歩してから家に帰った。





 〜お詫び〜

  どうも。ここまで読んでくださってありがとうございます。
  読みにくいですよね?フルの会話は。仕方がないんです。彼はこういうキャラなので・・・。どうぞ、許してやって下さい。もうピ――――ッですから。・・・おっといけない。

  さてさて、定期的に更新していく事を心掛けますので、どうぞ次回もお楽しみください。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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