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ノストイ〜帰還物語〜第三部 作者:紫苑璃苑

第17回   XI-2



 ガドガの返答を待つ中、わたしを止めようとする声と、賛同する声が飛び交った。わたしは真っ直ぐ船長を見つめ、彼は落ち着きなくキョロキョロするが、とうとう腹を決めたのか、

「・・・オーケアニテスはワッシらの守護神じゃけー、見捨てる訳にゃーいかんのう」

 小舟には、一番の漕ぎ手と一番の力自慢とわたしが乗った。ナギは止めたが、ごめんねと言い置いて本船に置いて来た。
 舟は、ゆっくりとオーケアニテスに近付いていく。大きな波が何度も襲って来るが、漕ぎ手が上手く波に乗ってくれたおかげで転覆はまぬが免れた。
 けれども、乗り心地はクダラよりも最悪だ。波は被るし水飲んじゃうし。淡水だから、まだいいけど。

 ようやくオーケアニテスに近寄れた頃には、私たちはししどに濡れていた。そればかりか、わたしに限って目の前で暴れている生き物の気持ちと痛みが強く伝わってきて、何度も気を失いそうになった。だが、その度にナギが耳元で励ましてくれたので、何とか持ちこたえる事ができた。

「譲ちゃん!本当にいくのけー!?」
「行く」

 予(あらかじ)め積んで置いたロープをしっかりと腰に結び、タイミングを計る。
 見事目標に到達できたら大成功。
 失敗したら・・・まあ、この波だ。自力では上がって来れないだろう。

「けっ、けどよう、なにも一人で――」

 漕ぎ手の言葉を最後まで聞かずに、助走を付けたわたしは舟の縁を思いっきり蹴った。



 体が空中に放り出される。
 


 目一杯に手を伸ばして、目の前にある白い体へ―――












 ―――次の瞬間、激しい衝撃に襲われた。




























 「―――ぷはっ!っはあ、はー はーっ・・・・・・」

 無意識に手が何かを掴み、とにかく上だと思う方向へ登った。
 幸いにも、すぐに新鮮な空気を吸うことができたわたしは、ふとよじ登ったそれに気付いた。幸か不幸か、それはオーケアニテスの体だったのだ。しかも、彼(?)は異物がまた一つ増えたことにより、一層激しさを増して泣き叫び、体を打ち振るわせた。
 

 頭の中は空っぽだ。

 ただただ必死にしがみ付くので精一杯で、絶叫する余裕もない。

 腕の力も、どんどんなくなっていく。











 ――やっと揺れが収まった。
 やっとの事で頭を上げて、現状を確認する。



 ・・・どこまでも蒼い空が一杯に広がっている。







 いやな、予感がした・・・。







「―――〜〜〜〜っ!!」



 ぐんっと、強い力に引かれるように、再びうねりを上げる液体の空へと落ちていく。
 次いで目を瞑ったわたしは、激しい衝撃に打ちすがれた。頭の中で、オーケアニテスの悲鳴と自分の声が重なる。

「お願い!首のそれ、抜いてあげるから暴れないで!!」

 海上へ出ると、空気を吸うのももどかしく、声の限り叫んだ。
 相手にわたしの言葉が理解できるかどうかはわからない。けれども、思いだけでも伝わってほしい。
 と、ちゃんと息を吸わなかったのが祟ってか、急に手の力が抜け、つるりと鱗(うろこ)から手が外れてしまった。
















 必死に手を伸ばしたけれど、掴めた物は空ばかりで―――















「セリナ――!!」


 






 どこか遠くで、誰かが叫ぶ声を聞いた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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