ロウちゃん、アルミスさん、そしてウェーア。彼らと別れて今までにない苦しさを胸の奥で感じながら、わたしはナギとルシフの風の膜に包まれ、約一日がかりでテンペレットに着いた。 テンペレットは風の精霊(ルシフ)の住む島とだけあって風が多く、カザグルマや大きな風車がいたる所に目に付いた。
ルシフは私たちを人目のつかない所に降ろすと、“すぐに戻ってくるからうろついてて”と言い置いて、どこかへ消えてしまった。なので、草むらから抜け出した私たちは、彼女が戻って来るまで町の中をうろつく事にした。
「ここも大きな町だね」 「ええ、本当に。風がとても気持ちいいわ」 話しながらお店を覗いていると、 「あ、ナギナギ!これなんかど―――にゃっ!?」 突然ドンッ!と背中に衝突されて、危うく陳列棚に顔を突っ込みそうになった。そしてすぐに、肩が異様に軽くなっていることに気付く。
「・・・ああっ!?――待てこのドロボー!!」
叫びながら、背の低い男を追って、全力疾走した。 後ろでナギの声がしたけど、今はそれどころじゃない。 必死に逃げきろうとする男と、必死に取り返そうと追うわたしの町中レース。 テンペレットの人々は、唖然(あぜん)と遠巻きに見物していた。
「あーもう!誰か、その人捕まえて!泥棒!!」
って言っても、そうそう助けてくれる人なんているはずもない。
やっぱ世の中冷たいね〜。
と、思っていたら、肩越しに振り返った泥棒の前に長身の人影がすっと出てきた。盗人はその人に気付くと、“どけ!!”と怒鳴りながらも突進していく。
――ぶつかる!!
思った矢先、長身さんは出て来た時と同じように、すっと身を引いた。 泥棒がその前を通過――
――すると思ったら、そいつは派手にスッ転んだ。 何が起こったのかはわからないけれど、とりあえず長身さんが起き上がろうとした泥棒を踏み付けて、わたしのカバンを取り返してくれた。そして、やっと追いついたわたしに返してくれ、濃い青い目で微笑む。――淡いウェーヴの掛かったエメラルドグリーンの髪を一つに括(くく)った、貴族風の格好をした男の人だった。
「ま、待ってください!!」
何も言わずに立ち去ろうとする男を、ナギが息を切らせながら引き止めた。男が振り返ると、何も言わないわたしに代わって、お礼を述べる。その人は、“偶然通りかかっただけだから”と優しく言い、“急いでいるので”と肩幅の広い背中を翻して人混みの中に消えていった。 泥棒は、駆けつけた牢番人さんに連れて行かれた。
「素敵な人ね。気品があって、優しそうだわ」 ナギは男の後ろ姿を眺めながら感歎(かんたん)していた。 「そう?」 「まあ、どうしてそんな事を言うの?良い人じゃない。私はてっきり、見とれていて何も言えないのかと思ったのに」 わたしが言葉を濁すと、ナギが問い掛けてきたので、 「う〜ん…なんか、上手く言えないんだけど…変な感じがした」 感じたままを伝えると、変なのって笑われた。
しばらくして、ルシフが迎えに来てくれた。今の出来事を話しながら彼女の後についていく。もちろん、他の人にはルシフの姿を見ることが出来ないから、二人だけで話しているように見せかけて。 広い道から、どんどん狭い小道へ導かれていった。前方には森がある。
『ここだよん』
ルシフが立ち止まった頃にはもう、ずでに町のざわめきは途絶えていた。 「え?ここだよって、ルシフ…」 彼女は私たちをからかっているのか、示す前方には周りと同じ木々の景色しかない。 『ありゃ?ケイ持ってても、これは見えないのかな?けどけど、とにかくここがあたしん家!玄関!!』 と、大手を振って再び進む。すると、ルシフの体が溶けるように消えてしまった。思わず目を見開き、驚く。 目配せしあった後、わたしがおずおずと彼女が消えた辺りに手を伸ばすと――
――ぐいっ
「ぅわ!?」 『ほらほら何やってんの?早く入ってよぅ』 消えた腕をいきなり引っ張られて、わたしは踏鞴を踏みつつ、全身をナギの前から消した。
「うわぁ〜」
景色が一変した途端、いろんな意味で驚いた。 広々とした空間には、様々な家具やら服やら…物という物があちこちに浮かんでいた。それを除けば、普通の人間の部屋とそう変わりはないんだけど… 「…ルシフってさ、片付け苦手でしょ」 『あははは〜。いやあ、お恥ずかしいわぁ〜』 「では、まずはお片づけからですね?」 いつの間にか入ってきたナギも加わって、私たちは仕事に取り掛かった。
『おっ疲れー!!ごめんね、お客様に掃除させちゃって〜』 ルシフは斜め上にあるキッチンから、お茶とお菓子を持ってきてくれた。そう、斜め上から。 彼女の家には多方角に床がある。例えば、今わたしのいるソファーから右手に、斜め上から見えるタンスがある。そこへ行きたいと思ったら、目的地へ向かって軽くジャンプすればいい。すると、そこの重力に引かれてタンスと平行に立つ事が出来る。物と物の間が無重力になっているので、地上にいながらも宇宙空間を味わえた。 初めは気持ち悪かったけれど、慣れてしまえばそうでもない。 ウェーアがいたら、さぞかし喜んだ事だろう。
〜第三部ですよ!奥さん!!〜
さてさて、始まりましたね〜。と言うか、いっちゃいましたね、第三部。データのストックに追いつきそうで冷や冷やしてますよ; あぁ、ちなみにタイトルの常盤は『ときわ』と読みます。これで一つ、お利口になりましたね(笑) ひとつ、お知らせがあります。 自分、なかなかパソコンに向かう時間が作れないので、キリ番になったら更新しようかな〜なんて考えてます。もちろん、1500や2000という区切りのいい数字になったら違うものも載せますよ?週に一度ぐらいは更新しますよ? と言うか…ネタが、ね?無いのです。許して下さい。
それではまた!(逃走=3
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