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ノストイ〜帰還物語〜第三部 作者:紫苑璃苑

第1回   ノストイ\〜常盤の風の島〜

 ロウちゃん、アルミスさん、そしてウェーア。彼らと別れて今までにない苦しさを胸の奥で感じながら、わたしはナギとルシフの風の膜に包まれ、約一日がかりでテンペレットに着いた。
 テンペレットは風の精霊(ルシフ)の住む島とだけあって風が多く、カザグルマや大きな風車がいたる所に目に付いた。



 ルシフは私たちを人目のつかない所に降ろすと、“すぐに戻ってくるからうろついてて”と言い置いて、どこかへ消えてしまった。なので、草むらから抜け出した私たちは、彼女が戻って来るまで町の中をうろつく事にした。


「ここも大きな町だね」
「ええ、本当に。風がとても気持ちいいわ」
話しながらお店を覗いていると、
「あ、ナギナギ!これなんかど―――にゃっ!?」
突然ドンッ!と背中に衝突されて、危うく陳列棚に顔を突っ込みそうになった。そしてすぐに、肩が異様に軽くなっていることに気付く。

「・・・ああっ!?――待てこのドロボー!!」

 叫びながら、背の低い男を追って、全力疾走した。
 後ろでナギの声がしたけど、今はそれどころじゃない。
 必死に逃げきろうとする男と、必死に取り返そうと追うわたしの町中レース。
 テンペレットの人々は、唖然(あぜん)と遠巻きに見物していた。

「あーもう!誰か、その人捕まえて!泥棒!!」

って言っても、そうそう助けてくれる人なんているはずもない。

 やっぱ世の中冷たいね〜。

と、思っていたら、肩越しに振り返った泥棒の前に長身の人影がすっと出てきた。盗人はその人に気付くと、“どけ!!”と怒鳴りながらも突進していく。

――ぶつかる!!

 思った矢先、長身さんは出て来た時と同じように、すっと身を引いた。
 泥棒がその前を通過――


――すると思ったら、そいつは派手にスッ転んだ。
 何が起こったのかはわからないけれど、とりあえず長身さんが起き上がろうとした泥棒を踏み付けて、わたしのカバンを取り返してくれた。そして、やっと追いついたわたしに返してくれ、濃い青い目で微笑む。――淡いウェーヴの掛かったエメラルドグリーンの髪を一つに括(くく)った、貴族風の格好をした男の人だった。

 「ま、待ってください!!」

 何も言わずに立ち去ろうとする男を、ナギが息を切らせながら引き止めた。男が振り返ると、何も言わないわたしに代わって、お礼を述べる。その人は、“偶然通りかかっただけだから”と優しく言い、“急いでいるので”と肩幅の広い背中を翻して人混みの中に消えていった。
 泥棒は、駆けつけた牢番人さんに連れて行かれた。


「素敵な人ね。気品があって、優しそうだわ」
ナギは男の後ろ姿を眺めながら感歎(かんたん)していた。
「そう?」
「まあ、どうしてそんな事を言うの?良い人じゃない。私はてっきり、見とれていて何も言えないのかと思ったのに」
わたしが言葉を濁すと、ナギが問い掛けてきたので、
「う〜ん…なんか、上手く言えないんだけど…変な感じがした」
感じたままを伝えると、変なのって笑われた。

 しばらくして、ルシフが迎えに来てくれた。今の出来事を話しながら彼女の後についていく。もちろん、他の人にはルシフの姿を見ることが出来ないから、二人だけで話しているように見せかけて。
 広い道から、どんどん狭い小道へ導かれていった。前方には森がある。

『ここだよん』

ルシフが立ち止まった頃にはもう、ずでに町のざわめきは途絶えていた。
「え?ここだよって、ルシフ…」
彼女は私たちをからかっているのか、示す前方には周りと同じ木々の景色しかない。
『ありゃ?ケイ持ってても、これは見えないのかな?けどけど、とにかくここがあたしん家!玄関!!』
と、大手を振って再び進む。すると、ルシフの体が溶けるように消えてしまった。思わず目を見開き、驚く。
 目配せしあった後、わたしがおずおずと彼女が消えた辺りに手を伸ばすと――

――ぐいっ

「ぅわ!?」
『ほらほら何やってんの?早く入ってよぅ』
消えた腕をいきなり引っ張られて、わたしは踏鞴を踏みつつ、全身をナギの前から消した。

「うわぁ〜」

 景色が一変した途端、いろんな意味で驚いた。
 広々とした空間には、様々な家具やら服やら…物という物があちこちに浮かんでいた。それを除けば、普通の人間の部屋とそう変わりはないんだけど…
「…ルシフってさ、片付け苦手でしょ」
『あははは〜。いやあ、お恥ずかしいわぁ〜』
「では、まずはお片づけからですね?」
いつの間にか入ってきたナギも加わって、私たちは仕事に取り掛かった。


『おっ疲れー!!ごめんね、お客様に掃除させちゃって〜』
ルシフは斜め上にあるキッチンから、お茶とお菓子を持ってきてくれた。そう、斜め上から。
 彼女の家には多方角に床がある。例えば、今わたしのいるソファーから右手に、斜め上から見えるタンスがある。そこへ行きたいと思ったら、目的地へ向かって軽くジャンプすればいい。すると、そこの重力に引かれてタンスと平行に立つ事が出来る。物と物の間が無重力になっているので、地上にいながらも宇宙空間を味わえた。
 初めは気持ち悪かったけれど、慣れてしまえばそうでもない。
 ウェーアがいたら、さぞかし喜んだ事だろう。




 〜第三部ですよ!奥さん!!〜

  さてさて、始まりましたね〜。と言うか、いっちゃいましたね、第三部。データのストックに追いつきそうで冷や冷やしてますよ;
  あぁ、ちなみにタイトルの常盤は『ときわ』と読みます。これで一つ、お利口になりましたね(笑)
  
  ひとつ、お知らせがあります。
  自分、なかなかパソコンに向かう時間が作れないので、キリ番になったら更新しようかな〜なんて考えてます。もちろん、1500や2000という区切りのいい数字になったら違うものも載せますよ?週に一度ぐらいは更新しますよ?
  と言うか…ネタが、ね?無いのです。許して下さい。

  それではまた!(逃走=3

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Novel Editor by BS CGI Rental
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