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ノストイ〜帰還物語〜 作者:紫苑璃苑

第6回   T-6
 「ここは…」
 わたしは真っ白な空間に立っていた。
「塔の中かな?何にもないね、ナギ」
「そうね。ここが塔の中なら窓があるはずなのに…」
 周りを見回しても、突き当たりも壁も何もない所だ。
 まるで処女雪のような、純白の世界。
 それにしても、一体どうやって中に入ったんだろう。私たちはただ壁を触っただけなのに。
『こんにちは。ようこそタイレイム・イザーへ』
低い機械音がしたかと思うと、突然辺り一面から声が聞こえて来た。
「な、何!?」
「どちら様でしょうか?」
声の主が見えないことにうろたえていると、のんびりとした答えが返ってきた。
『僕はディスティニー。ここに住んでいるモノさ。君たちは?なんていう名前なんだい?』
優しそうな声だった。それにしても、どこかで聞いたことがあるような…
「私、私はナギです」
『ふむ。よろしく、ナギ。そっちの子は?』
「わたしは…セリナ」
なんだろう。どうしてこんなにも懐かしい感じがするんだろう。
『よろしく、セリナ。二人ともいい名前だね。―――さて、顔も見せずにお話しするわけにはいかないよね。悪いけど、君たちから見て左の方に来てくれないかな。ずーっと行くと扉があるからそこまで、ね』
声はプツリと途絶えてしまった。
「セリナ、セリナ?どうしたの?」
ナギの声にハッとしてごにょごにょと言い訳をする。どうやらぼーっとしていたみたいだ。
 私たちは言われた通りに左へ道をとった。
 いくら歩いても景色が変わらないので、どれだけ歩いたのか、本当に歩いているのかわからなかったが、
「うわっ!」
目の前に突然丸いドアが現れた。横から覗いても、真っ白な空間が広がっているだけ。ドアだけがそこに存在していた。
 わたしとナギは視線を交わし、左右それぞれの戸に手を掛けた。
 ―――が、開かない。押しても引いてもスライドさせてもびくともしなかった。
「何で開かないの?偽物?私たち、騙された?」
と、混乱していると、またさっきの声が相変わらずのんびりと言った。
『ごめんよ〜、言い忘れてた。その扉を開けるには合言葉がいるんだ』
「合言葉、ですか?」
『そ。大丈夫、君たちも知っているよ。――ヒントをあげようか。君たちは、重い扉を開けるとき、なんて言う?』
「あぁ」
「「――スマトバーズ!!」」
『大当たり〜!!』
 すうっと、滑らかに扉が開かれた。
 中から漏れる光に目を細めながら一歩入ると、そこには―――

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Novel Editor by BS CGI Rental
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