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ノストイ〜帰還物語〜 作者:紫苑璃苑

第43回   W‐20

 「!!」

 大きい。とてつもなく大きな羽を持った巨大なドラゴン。鎧のような鱗(うろこ)は赤銅色に鈍く光り、鋭い牙や爪をギラつかせ、それはそこに威風堂々と佇んでいた。


『我が名はラルク。炎が力、司る者なり。我、そち等の名を問う』

 ラルクは、火の精霊は荘厳(そうごん)としていた。あの高圧的だって思ったディグニさんの、何倍ものプレッシャーが重く圧し掛かってくる。ましてやルシフと比べたら天と地の差だ。
 そして、ウェーアが堰を切って名乗ると、続いてナギの服を掴んでいたわたし、最後にナギが名乗った。

『む。ウェーアなる者、アライオスが血 そちの中より騒ぎ立てるか?』
ラルクはその大きな鉤爪をウェーアに向けて、重々しく告げる。
「アライオス?」
「一年中旅をしていた人達の事よ。放浪の民とも言われているわ」
ナギがこっそり教えてくれた。
「祖先が世話になったらしいな。ちなみにもう、アライオスではなくなってるぞ?」
『む。しかし、アライオスが血、しかとそちの中に見ゆる。我、剣交えたりし者と、そち似通らん』
わたしはラルクが言っていることが所々判らないけど、ウェーアちゃんと理解しているみたい。
「その目は見えているのか?」
『我が眼(まなこ)、見えつらん。されど、そちの魂が炎しかと見えん』


「“魂の炎”だなんて、よくそんな恥ずかしい台詞(セリフ)を…」


 思わず口に出ちゃった。ナギもウェーアも驚いた顔でわたしを見て、スイシュンは開いた口が塞がらない。

 これは、失言でした。

「セリナ、場の空気を読め」
ウェーアは呆れて、ナギは笑い出し、スイシュンはわたしを睨みつける。
「そんなこと言われたって、言っちゃったものはもう……ウェーアだってそう思わなかった?」
口を尖らせて言うと、
「俺は…………話を戻そうかラルク」
彼はわたしを見て、次にラルクに視線を戻しながら言った。

『……………』
「「・………………」」

しばらく気まずいような沈黙が流れて、ラルクがそれを破った。
『む、むぅ。して、そち等は何故(なにゆえ)我 来駕(らいが)したり』
「私たちはあなたのワグナー・ケイを譲っていただきたくて、ここまで参りました」
『我がケイを、とな?何故』
「えっとね、ワグナー・ケイを集めれば、世界の消滅が止められるの」
『…む?セリナとやら、そちはこの世界が者と違(たが)なる。悠遠(ゆうえん)の彼方より耳にせりしあれなる詩(うた)、惜しむらくは浮世となりしかな。むぅ…“アルケモロス”はそちなりか』
なんて言ってるのかよく判らないけど、ラルクは驚いていて、そして少し悲しそうだった。

「アルケモロス…確か、“運命の開始者”だったか…?」
ウェーアがボソッと記憶の辞書を引いた。

 運命の開始者?わたしが?…アルなんとかって、前にどこかで・…

「ラルク様!その詩とはどういうものなのですか?」
今までずっと沈黙を守っていたスイシュンが口を開いた。ラルクは赤銅色の鎧を鳴らしながら頷き、こう答えた。

『悠遠の古来より伝わりし詩なり。

“違なる世界より 出し者現るる時
    互いが 消滅せん
 違なる世界より 出し者現るる時
  ワグナーなる石 集めるべし
 さすれば 同等なる日常 再び回らん”

 それなるもの 今浮世となる。我、力貸さん。されど無条件では通すまじ』

 詩は、以前ウェーアが教えてくれたものと似ていた。たぶん同じ物なんだと思う。
「なんだ?条件があるのか。あれだけ俺たちを危険な目に遭わせておいて、それはないだろう」

 わたしはハッとした。そういえばここにくるまでに、散々な目に遭ったんだ。怪物に襲われたり、道を隠されたり通れなかったり、ボーリングのピンにされたり……

『あれなるもの、我の時潰し。故にこれとは関係あらん』

 私たちの不満もよそに、ラルクは平然としている。他人が楽しむ為だけに、あんな危険な目に遭わせられたなんて。
「でしたら、今度は私たちに何をしろとおっしゃるのですか?」
『む。我、ウェーアと手合わせ願う』
「ほう、それは望む所だ」
ウェーアはあっさりラルクの挑戦を受けとると、その前にと付け足した。
「彼女たちを安全な所に避難させてくれないか?もしものときがあったら困る」
 ラルクはそれを聞くと、広い広間の隅を前足で指した。
 首を巡らせると――


 ――何にもない。からかわれたのかな?
『今しがた、外からの衝撃、遮断する幕、張りにけり。行くがよい』
どうやらあの、透明な壁を作ったみたいだ。

 三人でさっそくそこへ向かった。その前に、わたしはウェーアに呼び止められた。
「これ、持っててくれないか?」
「え?いいの?」
手渡されたのは荷物と帽子と、いつも着ているマント。今まで外にいる時は、絶対取った事のなかったマントを外すなんて珍しい。
「ああ、耐火性じゃないからな。誤って燃やしてしまうと困るから」
「ふうん」
 腕に掛かったマントは、なぜかひんやりとしていて気持ちが良かった。

 いったい、何でできているんだろう?

 不思議に思いながら、わたしは前の二人を追って、透明な壁――だから、あるかどうかわからないけど――に入った。そのとき、リンと冷たいけど軽やかな音がした。



 壁の向こうでウェーアが剣を構えるのが見えた。



 〜うれし書き〜
  さーて。ついにここまでやってきた〜♪
  次は戦闘シーン!!
  けど〜、消えたデータを(詳しくはwhat's newで)打ち直しているので、今日はここまで(泣)
 今載せると後が大変なんですよ。わかってください。お願いします。
 それでは、また次回お会いしましょうー!!

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Novel Editor by BS CGI Rental
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