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ノストイ〜帰還物語〜 作者:紫苑璃苑

第41回   W‐18


『我が僕。太陽が高く昇り来る頃、三なる人間来(きた)る。我が許し得る時まで 決して近づけぬよう。――良いか』

「御意」




                       □□□


 暑い!!

 いったい何なのこの暑さは。どうもここ最近暑さが増してきている気がする。それは、ラルクに近づいているって事なんだろうけど。
 さすがのウェーアも汗を流し始めた。私たちは流れる汗を拭い拭い進む。今のところはありがたいことに、何にも襲われてない。この暑さが和らいでくれたらもっとうれしいんだけど。

 言葉もなくダラダラ歩いていると、
「あら?何か光っていませんか?」
と、ナギが前方を指す。もう少し近づいてみるとそこには―――

「水だ―!」

清らかな川が道を大きく横切っていた。
「エバパレイトは比較的川の本数が多いが、こんな所からも流れているとはな。暑いし疲れたし、ここで少し休んでいくか」
「やったー!」
「だが、迂闊(うかつ)に近づくと――」
わたしはウェーアの言葉も聞かずに、乾いた喉を潤そうと一目散に駆け出していた。そして川の淵に膝を付いた途端――


―――パシュッ!


「!?」




「人の話は最後まで聞け」

「あ……?」

 何が起こったのか全然わからなかった。
 いつの間にかウェーアの手の甲が目の前にあった。
 わたしが、彼が何の事を言っているのか理解する前に、またさっきのパシュッ!っていう音がして、
「ちっ」
彼は頭を傾けて飛んできた何かを躱した。そしてすぐに水の中に手を突っ込んで、素早く何かを捕まえる。
「まあ」
出てきたのは口の所だけ大きく膨らんだ、体の細い魚だった。


「口に含んだ小石で獲物を狙う魚の一種だ。普段は小さな虫とかを標的にしているんだろうが…また火の精霊の仕業か、セリナが虫に見えたのか…」
「どーやったらわたしが虫に見えるのよ」
 魚を遠くの方に逃がしてやったウェーアをひと睨み。あの音は、口から鉄砲のごとく発射された小石の音だったみたい。
「冗談だって。そんなに怒るな。ま、これ以上は出てきそうにないからもういいだろう」
ということで、私たちはやっと、おいしい水にありつける事ができた。

 交代で水浴びと荷物番をして、汗をかいた体をさっぱりさせた。
 空にはピンク色の月が浮かんでいた。ナギが言うには、あの月はどこにいても必ず見えて、太陽よりは弱いけど自分で光を放っているらしい。だからこんな昼間でもくっきりと見る事ができる。

 しばらくすると、被って遊んでいた帽子が取られた。
「さて、行くとするか」
 水の恵みでさっぱりとした私たちは、再び歩き始めた。



 ――地獄の劫火へと向かって――






 せっかく汗を流したのに、また服が重くなるほど汗をかいちゃった。う茹だってしまうほど暑い。


 「あの角を曲がった所だ」

 お昼過ぎ、不意にウェーアが呟いた。


 あの先に火の精霊、ラルクがいる……はず。


「なんだか、緊張するわね」
「うん」

 ラルクはどんな精霊なんだろう。性格は、今までのいろーんな事で少しわかったけど。
 緊張、不安、期待。今の気持ちはそんな感じ。


「…行くか?」
ウェーアは確認するように私たちの目を見た。
もう、ここまで来たんだ。今更“ちょっとタンマ!”はできない。




「行こう!」


 私たちは足を踏み出した。




 〜一言〜
  嵐の前の小休止って感じですかね。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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