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ノストイ〜帰還物語〜 作者:紫苑璃苑

第38回   W‐16

 なんて目覚めのいい朝でしょう。やはり昨日、たくさん運動をしたおかげでしょうか。

 ウェーアさんは岩壁に背中を預けて、座って寝ています。セリナはなんだかぐったりとしていました。また具合がよくないのでしょうか。できれば一アテン日休ませてあげたいのですが、先を急ぐ私たちはそういう訳にもいきません。
 私は心を鬼にして、
「セリナ朝よ、起きて」
彼女の体を揺すって起こそうとしました。そうしたら、

「――まだ〜?」

と、なにが“まだ”なのかわかりませんが、寝返りを打ちました。
「だめよ起きなくちゃ。ほら」
「…お兄ちゃんのバカー」
「あらあら…」
セリナはまだ夢の中のようです。

「起きない奴は朝飯抜きだな。昨日二食抜かしたから、お腹すいてるだろ?」

ウェーアさんがいつの間にか起きてきて、セリナの額を指でつつきました。すると、
「・……うん?」
彼女は目を開け、ボーっとはしていますが体を起こしました。


「…あれ?お兄ちゃんいつの間にウサギみたいな目になったの?」


「「………」」


                        □□□


 ああ、まったくもって 食欲が湧かない。確かに昨日二食抜かしたからお腹減ってたけど、暑くてだるくて食べる気がしない。
 昨夜のあれ、ウェーアは本当に何にも見なかったのかな。速すぎて暗くてよく見えなかったけど、たぶん生き物。気になるなー。


 「そういえば」

と、先を歩くウェーアが振り返った。
「賭けは俺の勝ちだったよな」
ニヤリと笑う。
「…あっ!」

 そうだった。一昨日そんな賭け事をしたような気がする。で、負けた方は質問に正直に答えなきゃいけないっていう…

「嘘はつくなよ」
「もう、ウェーアさんも悪い人ですね。しっかり覚えていらっしゃるなんて。黙っていれば忘れてくださると思ってましたのに」
ナギは悔しそうに溜め息を付いた。
「それはそれは。残念だったな。生憎と、記憶力は良い方でね」
ウェーアは嬉しそうに帽子の上から指で頭をたたく。
「さて、何にしようか………ん。――心の準備はいいか?」
わたしはドキドキしながら頷いた。


「君たちは何を俺に隠している?」


なんていい質問の仕方だろう。隠してる事全部言わなきゃいけないじゃん。

「…ええと。セリナ、彼の事以外に何か隠し事していたかしら?」
ナギはさり気なく胸のブローチに触れながら言った。

 思い返してみれば、言わなかった事ってそれぐらいのものだった。あとは光と闇の精霊がどこにいるのかわからない、ってことぐらい。どっちにしろ言ったってどうこうなるわけじゃないし。
「うん、これ以外はないと思うよ?」
わたしは答えて、マグネットピアスを二回叩いた。と、

『やあ!ナギ、セリナ!爽やかな朝だね。元気だったかい?やっと僕に話し掛けてくれたんだね!』

のん気なうれしそうな声が響いてきた。なんか、うるさくなりそう…
「その“彼”って、誰なんだ?」
ウェーアにはピアスからこぼれる中性的な声は聞こえないみたい。うらやましい。
「ちょっと待って。――ディスティニー、あんたの事話さなきゃいけないんだけどいいかな?」
『えっと、あのウェーアさんって言う人にかい?なら僕から話させてよ。ここのところ誰も来ないからつまんな―――』
わたしはピアスとブローチを取って、ウェーアに渡した。
「何だ?」
「ウェーアと話したいって。詳しい事はこの人から聞いて」
「こちらを耳に付けて、こちらに向かってお話してくださればいいですよ」
「……わかった。君たちは先を歩いてくれ。しばらくこのまま一直線だから」
彼は言われた通りにすると私たちの後ろに回り、ボソボソとディスティニーと話し始めた。


「…あら?」

ナギが突然声を上げ、ピアスに手を添える。
「どうしたの?」
「2人の会話が聞こえなくなっちゃったわ」
「突然?」
「ええ。ディスティニーさんが自己紹介をしたら、ウェーアさんが“あんたの他に誰か聞いている奴はいるか”っておっしゃって、そうしたらプッツリ」
ウェーアには聞こえないように声を落としながら教えてくれた。

 どうしてウェーアはそんな事したんだろう。ディスティニーもなんでそれに従ったのかな。



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Novel Editor by BS CGI Rental
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