なんて目覚めのいい朝でしょう。やはり昨日、たくさん運動をしたおかげでしょうか。
ウェーアさんは岩壁に背中を預けて、座って寝ています。セリナはなんだかぐったりとしていました。また具合がよくないのでしょうか。できれば一アテン日休ませてあげたいのですが、先を急ぐ私たちはそういう訳にもいきません。 私は心を鬼にして、 「セリナ朝よ、起きて」 彼女の体を揺すって起こそうとしました。そうしたら、
「――まだ〜?」
と、なにが“まだ”なのかわかりませんが、寝返りを打ちました。 「だめよ起きなくちゃ。ほら」 「…お兄ちゃんのバカー」 「あらあら…」 セリナはまだ夢の中のようです。
「起きない奴は朝飯抜きだな。昨日二食抜かしたから、お腹すいてるだろ?」
ウェーアさんがいつの間にか起きてきて、セリナの額を指でつつきました。すると、 「・……うん?」 彼女は目を開け、ボーっとはしていますが体を起こしました。
「…あれ?お兄ちゃんいつの間にウサギみたいな目になったの?」
「「………」」
□□□
ああ、まったくもって 食欲が湧かない。確かに昨日二食抜かしたからお腹減ってたけど、暑くてだるくて食べる気がしない。 昨夜のあれ、ウェーアは本当に何にも見なかったのかな。速すぎて暗くてよく見えなかったけど、たぶん生き物。気になるなー。
「そういえば」
と、先を歩くウェーアが振り返った。 「賭けは俺の勝ちだったよな」 ニヤリと笑う。 「…あっ!」
そうだった。一昨日そんな賭け事をしたような気がする。で、負けた方は質問に正直に答えなきゃいけないっていう…
「嘘はつくなよ」 「もう、ウェーアさんも悪い人ですね。しっかり覚えていらっしゃるなんて。黙っていれば忘れてくださると思ってましたのに」 ナギは悔しそうに溜め息を付いた。 「それはそれは。残念だったな。生憎と、記憶力は良い方でね」 ウェーアは嬉しそうに帽子の上から指で頭をたたく。 「さて、何にしようか………ん。――心の準備はいいか?」 わたしはドキドキしながら頷いた。
「君たちは何を俺に隠している?」
なんていい質問の仕方だろう。隠してる事全部言わなきゃいけないじゃん。
「…ええと。セリナ、彼の事以外に何か隠し事していたかしら?」 ナギはさり気なく胸のブローチに触れながら言った。
思い返してみれば、言わなかった事ってそれぐらいのものだった。あとは光と闇の精霊がどこにいるのかわからない、ってことぐらい。どっちにしろ言ったってどうこうなるわけじゃないし。 「うん、これ以外はないと思うよ?」 わたしは答えて、マグネットピアスを二回叩いた。と、
『やあ!ナギ、セリナ!爽やかな朝だね。元気だったかい?やっと僕に話し掛けてくれたんだね!』
のん気なうれしそうな声が響いてきた。なんか、うるさくなりそう… 「その“彼”って、誰なんだ?」 ウェーアにはピアスからこぼれる中性的な声は聞こえないみたい。うらやましい。 「ちょっと待って。――ディスティニー、あんたの事話さなきゃいけないんだけどいいかな?」 『えっと、あのウェーアさんって言う人にかい?なら僕から話させてよ。ここのところ誰も来ないからつまんな―――』 わたしはピアスとブローチを取って、ウェーアに渡した。 「何だ?」 「ウェーアと話したいって。詳しい事はこの人から聞いて」 「こちらを耳に付けて、こちらに向かってお話してくださればいいですよ」 「……わかった。君たちは先を歩いてくれ。しばらくこのまま一直線だから」 彼は言われた通りにすると私たちの後ろに回り、ボソボソとディスティニーと話し始めた。
「…あら?」
ナギが突然声を上げ、ピアスに手を添える。 「どうしたの?」 「2人の会話が聞こえなくなっちゃったわ」 「突然?」 「ええ。ディスティニーさんが自己紹介をしたら、ウェーアさんが“あんたの他に誰か聞いている奴はいるか”っておっしゃって、そうしたらプッツリ」 ウェーアには聞こえないように声を落としながら教えてくれた。
どうしてウェーアはそんな事したんだろう。ディスティニーもなんでそれに従ったのかな。
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