私達は敵を倒す為にここに来ていた。十人弱の人数だが、皆腕に自信のある者ばかりだ。 一階は鎮圧できたが、二階へ上がった途端エスカレーターの半ばに敵のボスが現れ、兵も一個大隊(1千人)ぐらい出てきた。
「これでは全滅するぞ。」 「しかたがない、ここは一旦引こう。」
という事になり、私達は皆バラバラに散らばって逃げ出した。 途中まで私も誰かと一緒だったんだけど、いつの間にか一人になっていて、ある狭い一角に逃げ込んだ。
そこは文化祭の時のようなダンボールで作られた看板がかかっていて、右手の方には“ホテル”と書かれていた。そっちは装飾がド派手で入る気もしなかったので、左手にあるウエスタン風酒屋のドアを押して中に入った。 中は外見とは裏腹に、訳のわからない海底とSFの宇宙惑星を組み合わせたような飾り付けのお化け屋敷っぽい所だった。
(あーやばそうだなー)と想った私は、深く息を吸い込むと、
「わっ!」
と大声を出した。するとそれにびっくりしたのか声に反応して出てくる仕掛けだったのか、バッ!と何十本もの人の手が壁から飛び出し、もの欲しそうに腕や指をうごめかせた。 私はもうこれ以上は出てこないだろうと思って、手の波を避けながら斜面を進んだ。その間、手が人の足をベタベタ触って捕まえようとしてきたので、
「セクハラ!セクハラ!」
と手で払いながら、異様に軟らかい床を行かなければならなかった。
そこを越えると開けた荷物部屋に出た。私は裏口を見つけて外へ出る。 半数になってしまった仲間と合流して隠れられそうな町を探しているうちに、青紫がかった黒っぽい髪の、動物の骨をお面にした男に会った。彼と話した結果、逃げながら戦力を集めてもう一度襲撃する事になった。
私は一人で走っていた。獣道を抜けて木の影に身を隠す。 ほっと一息吐いたのもつかの間、後ろの方で話し声が聞こえた。そっと顔を覗かせると、体操服を着た少年が三人頭を寄せ合ってなにやら話し込んでいた。
はたっと目が合った。やばいなって思ったけど、今は疲れ果てていて動く事もできない。私は彼らに「誰にも言わないでね」と言って頷くのを確認すると、頭を引っ込めてしばしの眠りについた。
足音と人の気配に目が覚めた。まぶたを落として一秒と経っていないようで、体は余計に疲れている。 さっきの少年達よりもいくらか年上で、褐色の肌を持つ男の子が鋭い目つきで私に向かってくる。 私が危険を感じてさっと立ち上がると、彼は持っていた石を投げつけてきた。私が反逆者の一味だって事がもう広まっていたんだ。私はその石をギリギリの所で避けて、石を投げ返す事しかできなかった。それもしだいに動きが鈍くなり、石が体のあちこちに当たるようになってくる。
私は一か八か彼を説得してみた。話を聞くうち、彼は我らが敵の真相を知り、仲間になってくれると言った。先程の三人も快諾してくれた。
だが、現時は厳しいもので、気付くと私達は三人になっていた。逃げている所を後ろから襲われたのだ。
命からがら逃げ延びた三人は、打ち捨てられた工場らしき建物に身を潜めた。中は薄暗く、ほこりが厚く積もっていた。褐色の男はほこりに足がつくギリギリの所を浮かんで歩き、私と元気のいい少年は床と天井の間を泳いで進んだ。 反対側の出口に着き、外をうかがう。幸い、誰もいなかった。
私達はとにかく前へ進んだ。
どこかにまだ、仲間がいるかもしれない。 前に進むしかなかった。
両脇に、今にも枯れそうな草の生えた砂利道をとぼとぼと歩く。長く伸びた草むらの中には、スラップになった車やいろんな部品がごろごろしていた。 不意にエンジン音がしたかと思うと、褐色の男が私と男の子を引っ張って、古い車の陰に隠れさせた。 息を殺してそれが通り過ぎるのを待つ。 ボンネットがやけに平べったい、青緑の車だった。中には十人ほどの男女が、向かい合わせにうつむき加減で座っている。その中の、私の父と結婚したばかりの従兄弟だけがやけにはっきりと見て取れた。 タイヤのない車は、すーっと滑るように宙を飛んで通り過ぎていった。 私の父親も加わって、血眼になって探し始めたんだ。
その後、私達はまた工場の中に入って、外の様子を窺った。もう褐色の男と私しか残っていなかった。中は暗く、足下に何があるのかも分からないほどだった。 窓から覗くと、トラックのような車が目の前に停まっていて、二人のおじさんが作業服で何か話していた。ハンドルにもたれていた男が顔をこっちに向けたので、慌てて頭を引っ込めた。 少ししてからまた見てみると、もうトラックはなかった。換わりに三十前後のおばさんが、道を渡ってこっちに来るようだった。 私はその事を男に伝えて、隅に縮こまって息を殺す。
―――キイイイィィィ・・・
軽く軋ませてドアは開けられた。暗いから私達がいる事には気付かないだろう。そういう願いに近い想いは、ものの見事に裏切り、おばさんはすぐに私達の方に眼を向けた。 おばさんはドアを大きく開け広げてそこに立ち尽くしていた。私は他の人にばれるのを恐れ、無駄だと思いつつ、閉めて閉めてと身振り素振りでその人に伝えた。
すると、予想に反しておばさんは自分の顔を挟み込むように、ギリギリまでドアを閉めて、どうしたの?と聞いてきた。私と褐色の男は互いに顔を合わせ、事情をその人に話し始めた。 おばさんに連れられて、江戸時代と見間違えるほど古い下町に着いた。狭い路地の小さな土地に、皆で隠れるように肩を寄せ合って暮らしているようだ。 道を行くと、物珍しそうに家々の窓から顔が出された。だが、そこに見えるのは好奇心ばかりで、敵意を感じさせる視線は一つとして感じなかった。
私は車の中に、褐色の男は向かいの家に入れられ、すぐに食べ物が用意された。そういえば、ここ何日なんにも食べ物を口にしたことがなかった。ご飯は質素なものだったけれど、今の私にはご馳走を食べているように感じられた。
しばらくして、役人が来たと集落中が大騒ぎになった。十四から十八の眼鏡をかけた女を捜していると言う。役人が集落を一軒一軒回っていくうちに、人々は水を打ったように静まり、辺りは張り詰めた緊張感に包まれた。 息を詰める中私は眼鏡を外され、髪の分け目を変えてヘアピンで留められた。眼鏡は私の隣に座っていた女の子の背中に隠させてもらった。
役人が来た。
周囲の人に私の特徴を言って、私にいくつだと尋ねる。それに対して適当に二十歳だと答えた。役人はジロジロ無遠慮に私を眺めて、ふと目線を外した。隣の女の子が私の眼鏡を取り出して、いじくり回していたのだ。それを見つけたおばさんは、慌てて私のですと言った。
私は一人で歩いていた。さっきの集落と同じような風景だった。 決定的に違うのは、窓や戸から覗く視線が怯えと軽蔑しきったものだということ。 私は、この世界に―――
―――ひとり取り残された。
〜遅書き〜 はい。読みきりのクセに長くてすみません。しかも、どういう夢を見ているんだ!と。 はい? 実話か? 実話です。 実際に自分が見た夢です。 ・・・・・・怒らないで!(>x<;) しかも、what's newに載せたら途中で切れていたと次の日気付いたからって! 怒らないで!! ・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ 本当に、申し訳ありませんでした。
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