ラービニ。それがこの町の名前。ここはわたしがいた世界とは全く違っているようだ。まず、国がない。赤や黄色や緑の髪の人が大勢いる。変わった形の建物ばかり並んでいる。それなのに、言葉が通じる。 家に帰りたい。元の世界に戻りたい。 お婆さんの家へ向かう道々、そればかりがグルグルと頭の中で回っていた。いつもなら、そう、いつもならもう学校に着いていて教室で昨日のテレビの話とかしているはずなのに。こんなにも学校や家が恋しいと思ったことがなかった。友達に会えないことが、こんなにも辛い事だとは思ってもみなかった。 どうすれば帰れる? 問い掛けてみても返ってくるのは重い沈黙ばかりで、答えは得られない。 気を紛らわすように首を巡らすと、今更ながらに町の美しさに見惚(みと)れた。いくつもの川が道を横切っていて、その上に掛けられた橋からは小さなボートでゆったりと流れを行き来している人達が見て取れた。川土手に花を咲かせている草花達は優雅に葉を揺らし、人々はそれにつられるように憩(いこ)いを交わしたり、店の準備をしたりしている。 「さ、着いたよ」 景色と同じようにゆったりとした声に誘われて顔を正面に戻すと、わたしは我が目を疑った。 「…えっっと…あれが、家?本当に?」 やっとのことで搾り出した声は震えていた。さっきまで悩んでいたわたしがバカみたいだ。 「え〜ぇ、そうだよ。驚いたかい?」 「すごい!こんなの初めて見た!!」 大きな湖。そこに立ち並ぶ横に広がる巨大な樹木。その太い枝一本一本に小さな一階建ての家が建てられている。家に行くには、岸辺まで伸びている巨木の根が一役買っていた。根元まで伝って行くと、リフトのような乗り物で上へと上昇するようになっている。 「あの一軒一軒が部屋?」 「そうだよ。後で孫に案内してもらいましょうかねぇ」 お婆さんは穏やかに微笑むと、下から二番目にある黄色い壁の家の前で立ち止まった。 「――お帰りなさい、エナお婆ちゃん」 エナと呼ばれたお婆さんが取っ手に手を掛ける前に、若い声が中から迎え入れてくれた。 「ただいまナギ。お客様だよ。ええっと…そういえばまだ聞いてなかったねぇ」 「あ。わ、わたし、セリナ…です」 「セリナさん?私はナギ・セイムです。よろしく」 銀髪碧眼(へきがん)の同じ年頃くらいの女の子、ナギは温かく微笑んでわたしも迎え入れてくれた。
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