私が水浴びをしていると、なにやら外でセリナとウェーアさんが騒いでいるようでした。きっと、喧嘩でもしているのでしょう。あの二人はとても仲がよろしいですから。まるで、父と母のように…。
「…どうしているのかしら」
私の父と母は、遠くの方で難しいお仕事をしています。あまり家には帰って来られませんが、毎月仕送りをしてくれますし、年の終わりには必ず帰ってきてくれます。そして、たくさんのお土産を持って来て、「元気だった?」って毎回聞いてくれます。 今回は、会えるかどうかはわかりませんが……。 私が体を拭き、服を着て外へ出ると、 「まあ」 ウェーアさんとセリナがまだ言い争っていました。 「まだお取り込み中だったようですね。それではもう少し入っていますので、終わったら呼んで下さい。――あ、どうぞごゆっくり」 と、私は一応断っておいて、また浴室へ戻りました。 湯船にもう一度浸かっていますと、すぐにウェーアさんが呼びに来ました。 「もう出てきていいぞ」 あら?なんだか怒っているようですね。私が邪魔をしてしまったからでしょうか。 ゆっくりと浴室から出て、セリナとすれ違う時に、 「もういいの?別に気を使わなくてもよかったのに」 と、声をかけたのですが、むすっとした顔で何も言わずに乱暴に扉を閉めました。
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「――町の人たち――――・・・・・ですが―――」 ナギの言葉が右耳から左耳へと素通りしていく。 何故だ?らしくない。あんな些細な事で何故、本気で怒った?トルバに対してならいくらでもある。だが、付き合いの短い彼女に対して何故あんなにも…
「聞いていらっしゃいますか?」
「―――っ!」 目の前で手を振られてはっとなった。 「あ。ああ、すまない」 ニコニコと細められたナギの目を見て、何故か背筋に悪寒が走る。 「人が話しているときに考え事をするのはよくありませんよ?」 変わらぬ笑みで彼女は言った。どうやら怒っていたらしい。…末恐ろしい子だな。 「ああ、気をつけるよ」 それが出来ればの話だが。
「…セリナの事ですか?」 ナギの笑みが軟らかいものに変わり、とりあえずほっとした俺だったが、彼女の言葉に眉を寄せた。 「は?」 「今、考え事をされていたのでしょう?先程喧嘩をしていたセリナの事ではありませんか?」
「違う」
そう答えた俺の声が、どこか他人のものに聞こえた。 「本当にそうですか?」 ナギは執拗に聞いてくる。 「何が言いたいんだ?」 「ですから〜、―――」 「そんな事はない」 受け答えの声は、何故かぎこちなかった。 「そうですか?そうは見えませんけど?」 ナギがくすくすと笑う。どうもこういう子は苦手だ。 「気のせいだろう」 「そうでしょうか」 「ああ」 「そうですか。では、彼女にも聞いてみましょうか」 「そ、そんなことする必要はない!」 また、ナギが笑う。 しまった。いや、焦る必要はない。言わせておけばいい。聞きたければ勝手に聞けばいい。俺には関係のない事だ。 「ふふふ。冗談ですよ」
「……言うなよ」
気が付いたときにはそう口走っていた。 「え?」 「だから、セリナには言うなよ」
「―何を?」
上から掛かる怒りの治まりきらない声に、俺の体は硬直してしまった。
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