そうこうしているうちに、一本の線だった城壁がどんどん背を伸ばして、天まで届きそうな高さになっていた。バックにはファスト山脈がそびえているはずだけど、今はもう端っこさえ見えない。 エバパレイトの入り口は馬車やら人やらでごった返していた。 「取り敢えず昼食を取ろう。お腹すいただろ?」 厚さが三メートルはありそうな門をくぐって、入り乱れる色の通りを呆然と眺めていた私たちに、ウェーアは喧騒に負けないよう声を大きめに言った。 わたしは、ウェーアの言葉なんて聞いてなかった。あ、一応聞こえていたけど、頷く暇さえなかった。それはエバパレイトと言う町に目が釘付けだったからだ。 目がいくつあってもたりない。不思議な形をした食べ物や、動植物、色、家。中でも一番面白いのが人だ。露店で物を売っている人達は大抵色黒で、通りを行き交う人達は、透き通るような肌だったり、赤ら顔だったりと、いろんな人種が住んでいるアメリカのようだ。地球と違う所は、髪や目の色が一人として同じ人がいないこと。同じ系統の色でも、薄かったり濃かったり、一部分だけ違う色が混ざっている人もいる。けれど、わたしのように真っ黒な髪を持つ人はいなかった。 エバパレイトは猛烈に暑かった。蒸される、と言うより乾いた熱さで私たちの体力を奪ってく。だが、町にいる人々はそんな暑さになんかにめげずに活気に溢れていた。 そんな中から逃げるように一軒のお店に入った。中にもたくさん人がいたけど、外より格段に涼しい。冷たい水を飲んでほっと一息ついた。 ウェーアのお勧めと言うことで頼んでみた料理は、見た目は全然辛そうじゃなかったのに、口から火が出そうなくらい辛かった。水を飲んだら余計に辛くて、付いてきた甘い飲み物でやっと落ち着いた。 「そんなに辛いか?」 「わたし甘党なの〜」 平気な顔で黙々と食べるウェーアを横目に、わたしは熱くなった口を手であおいで一生懸命冷ました。何にも言わないナギもやけに水が進んでいた。
店を出た後、泊まる所がなくなると困るから先に宿探しをした。けど、何軒探してもいっこうに空き部屋が見つからない。 やっと見つけた小さな宿でも、 「すまへんなあ。二人部屋の一つしか空いてないんですわー」 だ、そうだ。なんでも、この時期は商人の人たちが長く滞在するようで、宿はどこもいっぱいになるんだとか。 野宿よりましなので、仕方なくその部屋を借りて、日没前まで解散する事にした。もちろんエバパレイトを見て回る事もそうだけど、情報収集も一つの目的だ。
宿を出るとウェーアはすぐに姿を消し、わたしはナギとはぐれないように手をつなぎながらいろんな所を見て回った。ついでに、日保ちしそうな食料も買い込んだ。ナギが粘り強く値切ったおかげでルーブルがかなり浮いた。
楽しい時は時間の経つのが早いもので、あっという間に日が傾いた。 宿への帰り道の途中にある大きな広間にさしかかると、なにやら人が集ってガヤガヤ騒いでいた。くぼち窪地となっている噴水の近くには、二人の男の人がその中心にいた。
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