「誰だ。姿を現せ」
ディムロスが私たちを背中に庇い、闇に向かって敵意を飛ばす。と、 「これは失礼いたしました。ワタクシ、ここの守人を勤めさせていただきます、ダグラスと申します」 さっきは闇全体から聞こえる声だったのが、急に収縮されたかのように、一箇所に集まった。ディムロスの背中から顔を出して正面を見ると、真っ白な服に身を包んだオールバックの男が忽然と姿を現していた。右の頬と額に曲線の模様が刻まれており、切れ長の目は左右色が違う。 「お待ちしておりました。歓迎いたします、ナギ様、ディムロス様、そしてセリナ様」 ダグラスは水色と黒色の目を細め、完璧な笑みを浮かべた。つまり、理想のハリウッド・スマイルってやつ。 「な、なぜ、私たちの名前をご存知なのですか?」 「さて……残念ながらワタクシには答えられません。答えることができないのです。たった今、与えられた情報をそのまま口にしただけなのですから」 「“与えられた”?誰からなんだ。ここにいるのか」 ディムロスはなおも警戒したまま問う。 「彼は、どこにでもいてどこにもいない存在です」 「……“声の人”?」 諭すようにゆっくりと答えたダグラスに確認した。すると、 「申し訳ございませんが、それにもお答えすることができません」 取って付けたような笑顔が、苦笑いの仮面とすり替わった。こういう表情も彼の言う“たった今与えられた情報”から来るものなのかな。ぎこちなくはあるけれども、妙に生々しく人間っぽい。 「じゃあ、あれなの?精霊さん達が言ってた“巨大な力”と同じように、言ってはいけない存在なの?それとも……“声の人”と“巨大な力”は同じなの?」 ダグラスは押し黙った。声と一緒に表情まで消されたので、わたしに答えを得ることはできそうにない。 「……沈黙は肯定と取るぞ」 「お好きなように解釈して下さって結構ですよ」 仮面の表情を取り戻したダグラスは、恭(うやうや)しく一礼した。 「――ところで、あなた方がここまで来られた理由はお忘れではありませんよね?」 「あっ……。ええ、そうでした。闇と光の精霊についてです。どこにいらっしゃるのか、ご存知ですか?」 頷いたダグラスは、パチンと指を鳴らした。ディスティニーと同じ仕種だ。そして、同じように何もない空間から画面が現れた。そこには黒い塊が空と海に挟まれた映像が映し出されている。 「暗黒島―――ハージース、か……」 眉をひそめ呟いたディムロスは、心配そうな顔つきで肩越しに振り返った。 「何?ヤバイのその島」 「いや、実際どうなのかは知らないんだが……。聞いた話によるとその島に行った者は何人たりとも戻って来た者はいないとか。何しろ、島中が黒いからな。悪い噂も立つんだろ。まあ……実際誰も近付きたがらないんだか……」 青くなっていたナギは、急に慌てた様子で本当ですか?とダグラスにすがり付くように聞いた。 「申し訳ございません。わかりかねます」 「でもさ、ここに行けば光と闇の精霊がいるんでしょ?」 「精霊方の居場所は存じません。ワタクシはただ、この島へあなた方を導くようにと仰せつかっただけですから。おそらく――そこの主に聞けばわかるのではないでしょうか」 結構アバウトだ。やっぱりダグラスって―――
「ディスティニーに似てるね」
「「は?」」 ナギとディムロスが突然何?って顔で聞き返した。思考が飛んでたかな? 「ディスティニー……?」 「ラービニのタイレイム・イザーに住んでいらっしゃる方です。見た目はお若く見えますが、とても長生きしていらっしゃるようで……」 オウム返しに呟いたダグラスに、ナギが説明を加えた。すると、思い当たった様子で、 「ああ、ワタクシの兄にあたる方ですね」 「ほう、兄に……ぃ?いや、ちょっと待て!」 「いくら似てるからって、ディスティニーがあなたのお兄さんな訳ないよ!って言うか、ダグラスの方がお兄ちゃんっぽい」 「そうなのですか?あちらの方のほうがワタクシよりも早く“起きて”いらっしゃるのでしょう?でしたら、『兄』になると思うのですが」 「はぁ……そうなのですが、あまりにも落ち着きようが違うものでして」 私たちがどうしても納得いかない様子だったので、ダグラスは当たり前のようにお呼びしましょうか?と言った。 「どーやって?」 「さて?よくわかりませんが、とにかく彼をここへ呼ぶことができるようです」 彼はそのまま目を閉じ、口も閉ざした。 数秒後―――
「あれぇ?」
あの独特な間の抜けた女のような声が、ダグラスの横から聞こえた。すると、徐々に闇の中から彼の白い上着が現れ、ついにおしゃべりな口のついた顔も現れた。 「まあ!」 「ふーん」 「へー」 「・・・なんでー!?」 「「いや、“何で”って言われても……」」 一人で騒ぐディスティニーに、ディムロスと溜息を吐いた。 「どうも初めまして、ディスティニー兄さん。弟のダグラスです」 「えっ……?あぁ、ダグラス君ね。どーも兄です」 「実は先ほど、あなたがワタクシの兄だと説明をしたのですが、どうにも納得のいかないようでして……」 「あー、そうなのかい?ダメだよぉ、人を疑っちゃ。ダグラス君の言ってることは本当だよ?――あ、そうだ。ダグラス君、起きたばっかりなんだよね?じゃあさぁ――――」 と、全く似ていない兄弟同士で情報交換を始めてしまい、私たちは何故か蚊帳の外に……。って、あれ?何しに来たんだっけ?私たちは? 「そうゆえばっ!」 変なイントネーションで予備動作なしにグリンッと振り返り、ディムロスを見つめた。そういえば、直接会ったことはないんだよね。 「君、誰さん?」 「……ディムロス・リーズ」 「ええ!?あの、ノインさんの息子さん?あ、そう言えば聞いたことのある声……あれ?えっと……うっそだぁ」 「何が嘘なんだ?」 「だーって、その声ウェーアさんじゃん。ウェーアさんだよね?ディムロスさんじゃあないよー」 「「「…………………」」」 「ねぇ?」 「いや、その……“ウェーア”という人物は、正確に言えば実在しないんだ。 「??なんでさ。僕の目の前にいるじゃないか」 「いえ、ですから―――」 「ディムロスが偽名を使っていたの」 「だから、この人はウェーアさんでしょ?」 「ああもう!!だーかーらー!」
面倒くさい説明を繰り返し、やっとのことで理解してもらえた。そのディスティニーにも、ハージースの事を尋ねてみた。しかし、彼にも詳しいことはわからないらしい。けれども、島の中心に何か大きなものがあるから、行ってみるといいかもしれないと教えれくれた。 舟はディムロスが手配してくれるし、島の地図はディスティニーが出してくれた。携帯食は行きがけに買っていけばいい。 いつにする?と問われたので、明日!と答えた。早すぎるって止められてしまったけど。まあ、支度ができ次第、ということで落ちついた。 「そろそろ戻るか。結構時間が経っているはずだ」 「そうですね。あっ、ですがどうやって上へ行けばよろしいのですか?」 「大丈夫ですよ。すぐにわかりますから」 「じゃあね、ナギ、セリナ、ディムロスさん」 「うん。お休み〜」 すぅっとディスティニーとダグラスの姿が消えたかと思うと、私たちはいつの間にか入り口の穴が塞がった暗い行き止まりに立っていた。
〜ドモ〜 そろそろ生きる気力が萎えてきた紫苑です。 秋ですね! 読書の季節ですね! 食欲をそそられる時期ですね!
帰りたい…煤iここ、家だから)
どこか、もうどこでもいいから今ある現状から逃れられる場所へ行きたくなる衝動に駆られたことはありませんか? 今!まさに!! そんな状態です(沈)
ああ、帰りたい……
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