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「ずいぶん早かったな」 追い出されて間もないわたしが書斎に赴(おもむ)くと、書類に埋もれていた彼は本当に驚いた顔をしていた。 「えへへ。考える時間が省けてよかったよ」 「本当。あんな目立つところにあったのに、どうして気が付かなかったのかしら」 「近きはより見えずって言うしな。―――それで本当にいいんだな?」 「「問題なし!」」 「ん。じゃあ夕食後にな」 「って、今からじゃないの!?」 「こちらの都合も考えてくれ」 机の上のものを指した彼に、再度追い出された。
「準備はいいか?」 「ええ。―――セリナ?」 「ちゃーんと持って来たよ」 わたしは手提げカバンから、テンペレットでお世話になったフーヌ・ネヨホを取り出した。 実は昨日カバンの整理をしていて、ネヨホがどこかへ飛んでいってしまわないように、カバンの肩紐にくくり付けていた。部屋に戻って来た時にそれを見つけたのだ。これがあれば、きっとどんなそよ風でも捕まえられる。 「ん。じゃあ開けるぞ?」 二人で頷くと、ディムロスは書斎の窓を開け放った。 ふわりと、冷たい風が体を撫でる。手から離れたネヨホは、反対側で開けられていたドアに吸い込まれていった。ほとんど重さのない不思議な種は、時折壁にぶつかり、時に落ちそうになりながらものろのろと私たちを導いた。 やがて、 「ここ、一階だよね?今どの辺?」 「……ちょうど家の中心辺りだな」 「先ほどは一番奥でしたよね?まさか、元へ戻っているということは……」 「いや、その心配はない」 ネヨホが直角に折れた。見失わないうちにさっと角を覗く――と、ゴォォっと強風が髪の毛を引き千切らんばかりに吹き付けた。 「ご到着〜か」 吹き戻されたと思われるネヨホを掴んだディムロスは、おどけた調子で作戦成功を告げた。 「本当にここでよろしいのでしょうか?」 ナギは不安そうに彼を振り仰ぐ。もし間違えていれば、また始めからやり直しなのかな……。 「おそらく。風はここで止まってるしな」 「じゃあ……どうするんだっけ?」 「ええっと……あの、赤い何かの行(くだり)じゃないかしら?――ほら、両角の上に何かあるわ」 ナギの指す方向に目を向けると、暗がりに黒い塊がある。近付くと、赤い三つ目のガーゴイルっぽい像だった。 “八つの絳が出会う時、重い扉は開かれる” 詩には確かそう書かれていたはずだ。 「かっこいいなー。あれ?けど、あと二つ足りない」 「何言ってるのセリナ。ここにいるじゃない」 さも当たり前のように言う彼女は、私たちの後ろに佇む彼に視線を送る。そっか。ディムロスの瞳も絳色だった。 「ディムロスさん、あの像と目の合う場所へ移動していただけませんか?」 彼は頷き、数歩下がった。この辺りだなと小さく呟くと―― 「――わっ!?」 何の前振りもなく、床に穴が開いた。現れた瞬間を目撃して飛び退いたからよかったものの、気が付かなかったら真っ逆さまだと思うとぞっとしない。 「重い扉は開かれたり、だな」 「……底、見えないね」 「ああ。相当深いようだな」 「まさか、ご自分の家にこのような仕掛けがあるとは思ってもみませんよね」 私たちは恐る恐る穴を覗き込み、口々に感想を漏らす。光も届かない、真っ黒で大きな穴だ。 「これ、降りなきゃいけないの?どうやって行く?」 「これには何も書かれてないな」 いつの間にか取り出した赤表紙本をめくるが、すぐに閉じてしまった。 「梯子のようなものは置いていませんか?」 「どれだけ深さがあるのかわからないんだぞ?それに、あまり時間もないようだ」 「え……?」 見ると、大きな口を開いていた穴が、段々と小さくなっている。 「まあ!どうしましょう!まさか、閉じてしまうと二度と開かないとは言いませんよね?」 「わかり兼ねる……が、とにかく今行かなければ開かなくなる可能性は――」
「じゃあ」
わたしは顔を上げて、すっと立ち上がった。その後を二人の視線が追う。 「こんなところでぐずぐずしてる場合じゃないよね」 わたしは笑みが込み上げるのを止められず、ナギとディムロスの手を掴んで立たせた。 「せ、セリナ?」 「おいちょっと待て。いくらなんでも――」 「――問答無用!」 大きくジャンプして穴に飛び込んだ。
〜お久し振りです〜 長らく音信不通で申し訳ありませんでした(謝) 理由は・・・まあ、いろいろありまして。何も聞かないで下さい(願) これからはなるべく・・・毎週更新を・・・・・・・トラブルがない限り・・・できたら・・・それっていいなぁ(望)
と、言うことで、ではまた!(逃)
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