■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

ノストイ〜帰還物語〜第4部 作者:紫苑璃苑

第22回   XIV-12

聞き覚えのある声がした。こんな所にいるはずのない声。




「……レーミル」




そう、テンペレットで私たちのケイを狙ってきたあの男。しかも、周りに凶暴そうな男達を連れていた。
「ああ、覚えていてくれてうれしいよ」
「あの爆発はあなたの仕業?」
「君達が隠れたりするからいけないんだよ。言っておくけれど、僕も好きでこんな事をしている訳じゃあないんだ。君達が素直に聖なる石を渡してくれれば、それですむ事なんだよ」
あくまで表情は穏やかに、内面は激しく攻撃してくる。
「何だァ?あいつらは」
早くも慣れたのか、オルコンは目を細めながらも相手を認識したようだ。
「私たちが集めたケイを奪おうとしてる奴。かなりしつこいね」
「いったい、どのようにしてここが……?」
ナギが不安そうにわたしの服の裾を掴んでいる。脅えた視線だ。
「簡単だよ。ウィズダムに見張りを置いておけばいい。君達を見失ったのはキーリス辺りだったからね。高い確率でそこへ行くことが考えられる。そして、君達が乗った小舟を追け、愉快な僕の友人達を呼んだ。―――ね?簡単だろう?」
「ずいぶんと物々しい“愉快な友人”だな、おい」
「本当はリビールも呼びたかったんだけど……敗者が来るべきところではないしね。―――され、そろそろ本題に入ろうか。いい加減、僕に石を渡してくれないかなぁ」
リビールって……ウィズダムで襲ってきたアイツだよね?アイツもレーミルの手下だったってこと?
「嫌だって言ってるでしょ?いい加減、諦めてくれないかなぁ」
「―――残念。交渉決裂だね」
 どこが交渉なんだか。
 レーミルは大袈裟な動作で左手を真っ直ぐ天に向ける。すると、二人の手下が誰かを引きずってきた。
「シアさん!?」
ナギが口元を押さえて悲痛な叫び声を上げた。わたしも、傷だらけの体に息を呑む。
「彼を殺してほしいのなら、僕の頼みを断りたまえ」
「卑怯者!」
「何とでも言うがいいさ。“目的のためには手段を選ぶな”昔から行われてきた行為だ。―――さあ、どうする?」
ぐっと、奥歯をかみ締める。ケイを渡す訳にはいかない。かと言って、シアさんの命を貰ってしまう訳にはいかない。
 わたしは強く目を瞑って手を―――










「待てよ」

ポケットに延びた腕を止められた。オルコンがしっかりとレーミルを睨みつけて不適な笑みを浮かべている。もう陽は顔を隠そうとしている。彼らの好む闇が訪れようとしている。
「話はよくわかんねーけど、お前らにとっちゃアイツは悪者なんだな?」
「そう、だけど……」
「なら、アイツの言いなりになることはない」
「おやおや。新しい騎士ができたようだね。けれども、止めさせるような事をしたら、彼女達の友人を殺す事になるよ?」
レーミルは腰の剣を鞘走りさせ、シアさんの喉元に突きつけた。
「やめて!!――オルコン、気持ちはうれしいけど……」
「そんなんでいいのか!?嬢ちゃんには嬢ちゃんのやるべき事があんだろ!?なら、助けた命を存分に使いやがれ!」
「オルコンさん、何を―――」
『道がきた。早く昇れ』
ハーディスが姿を見せずに急かす。振り返ると、すっかり暗くなった空に浮かぶ月から、光りでできた階段が地上へ降りていた。
「行かなきゃなんねーんだろ?行けよ。後は俺らに任せな」
いつの間にか、武器を持っていた地下住人達が集まっていた。
「……ありがと、皆。まだ慣れてないんだから、無理しないでね!」
「わかってるよ。嬢ちゃんよりは無理できないさ」
明るい月明かりに照らされて、武器を手にした人々に背を向けた。
「ハーディス」
階段を上りながら、虚空に声をかけた。
『何だ』
答えは意外と近くから返ってきた。姿は見えない。
「これ、どこに続いているの?」
『ウーラノス』
「そこに、光りの精霊さんが?」
『行けばわかる。これはくれてやる』
と、突然目の前にケイが現れて、落ちるそれを慌てて受け止めた。
「……………」
「……?どうしたの?」
掌でケイの感触を確かめながら、頭の中でいろんな考えが目まぐるしく回転する。
「セリナ?」



「先に行ってて」



「ええ!?」
「助けなきゃ。このまま、任せる訳にはいかないよ。まだ地上に慣れてないのに……」
「でもセリナ、私たちに何ができるの?殺されてしまったら?捕まってしまったら?それこそ彼らに申し訳ないわ」
「それでも……行かなきゃ!」


先に行ってて、と再び言い置いて階段を駆け下りた。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections