―――?
何が起こったんだろう? 巨大な刃は足元で鐘のような音を奏でている。 カツン……石畳を鳴らして、群集からひとりの人物が姿を現した。それは―――
「オルコン!?」 「オルコンさん!」 停止していた脳が急速に回転し始める。住人の方は逆に止まったようだ。口が開きっぱ。 「ったく、な〜んで来ちまったんだか……」 ブツブツ言いながらもオルコンは、わたしの手枷(てかせ)足枷(あしかせ)を外してくれた。 「そっちの嬢ちゃんを助けてやれ」 くぎ抜きのようなものを渡され、素早くわたしはナギの救出に向かった。 「オルコン貴様!!」 「よっ、長。今日はよく会う日だな」 「貴様、町の掟を無視するだけに飽き足らず、我らが神にまで背を向けるのか!!」 「従ってたつもりもねぇがな。――どうした?来るなら来いよ。俺が何言おうが制裁するつもりだろう?」 オルコンの挑発に乗って、死刑執行人が斧を持ち上げた。その目は、闘志に燃えている。 「へっ!そーこなくっちゃな!!鍛冶屋の腕前、とくと御覧あれ!」 戒めから開放されたナギの強張った体を支えながら、わたしは刃の間合いから充分に外れた。
ギィィィィン……と、擦過音をさせながら、大剣と斧がぶつかり合う。
刃が合わさる度に、ひやりとして身を竦(すく)ませてしまう。
右へ左へと攻撃を仕掛けながら、オルコンは徐々に相手を追い詰めていく。分は彼にあるようだ。
「ちィッ!」
しかし、断続的に続いていた攻防が、突然止んでしまった。 「一対一の勝負に水を差すなんざ、野暮のやる事だぞ」 オルコンの背中には、小さな短剣が突き立っていた。 「神に背きし者は、その全てを罰する」 「へっ、問答は無用ってか」 「やれ!!」 長が合図すると、鬨(とき)の声が地を揺らした。皆武術の心得があるのか、がむしゃらに突っ込む事はせず、数人がさっと出てオルコンを囲う。他の人達は期を窺い、隙を見る。そこそこ手練な住人たくさんVS鍛冶屋ひとり。誰が見ても形勢不利だ。実際、オルコンは押され始めていて―――
「オルコン!!」
大剣がはじかれた。 彼の鼻先にたくさんの切っ先が突きつけられる。 「悪いな嬢ちゃん。流石にこの人数は無理だ」 ジリジリと退いてきた彼は、背中に私たちを庇(かば)いながら自嘲的な笑みを見せた。 「鍛冶屋の腕前も、所詮そんなものか。―――裁きを下せ!!」
操り人形のように住人達は一斉に凶器を振りかざし――――
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