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ノストイ〜帰還物語〜第4部 作者:紫苑璃苑

第12回   XIV-3
□□□

「子供」
膝に埋めていた顔を勢い良く上げました。驚いたことに、いつの間にか男の方が目の前に居たのです。
「あ……あなたは、闇の精霊さんでしょうか」
「そうだ」
異様に白い無表情な顔を崩さず、彼は答えました。何者なのかわかっただけなのですが、私はこの空間に独りぼっちではないとわかると、無性にうれしくなりました。
「あの、お尋ねしてもよろしいでしょうか。セリナ――私の友人は何処にいるのかご存知ですか?私、彼女とワグナー・ケイを集める旅をしていて、それで――」
「アルケモロスならここにいる」
「彼女に会わせてください」
「そのうち」
「本当ですか!?」
「そこでじっとしていろ」
闇の精霊さんはすっと闇に溶け込んでいかれました。



○○○


 陰気な蝋人形な精霊が姿を消してからしばらくして、ふと思いついた。ディスティニーと連絡はつかないだろうか。
 耳飾を二度叩き、応答を待つ。――やっぱダメか。精霊に近付くとダメだって言ってたっけ。
「誰か構って〜」
また一人ぼっちになった事が寂しくて仕方がない。
 ディムロスがいたらどうにかしてくれたのかな……。
 ああ……ここにいない人に頼ってもだめだ。意味がない。
 けど、暗闇だという事に変りはないが、心情的にさっきまでとは違っていた。闇の精霊がまた来るような事を言っていた。たったそれだけのことなのに、この闇に耐えられるんだ。それに、少しだけど、闇が薄くなったのも助けてくれてる。
「――あっ」
すうっと、無明の闇から溶け出すかのように精霊が姿を現す。
「お帰り!」
言った途端、人形の表情が崩れた。初めて人間らしい表情を見せる。けれども、それはすぐに消えてしまった。
「子供、目的は」
「あなたと光の精霊が持つワグナー・ケイをもらって世界の崩壊を止める」
今度はちゃんと言えた。説明すれば彼から何か条件を――
「あの詠(うた)か。……興味ない」
「………はい?」
「興味がないと言った。人間が死のうがこの世界がなくなろうが、私には関係ない」
「なっなんで!?なんでそんな……」
「私は、かの“力”に従うのみ。世界の破滅が望みならば、それに従う」
ロボットみたいな精霊とは逆に、
「“声の人”がそう望んでいるっていうの!?そんなの――だったら、どうして私たちに崩壊をくい止める方法を教えてくれたの!?」
我ながら感情を露(あらわ)に反論した。
「彼らの意図は掴めない。又、彼の事を教える事はできない」
「だからなんで!!」
「お前達はすでに深く関わりすぎている。我ら精霊はかの“力”について語らない。語ることができない。――これ以上この件に関して質問することを禁ずる」
禁じられてしまえばもう何も聞けない。ここは云わば、精霊のテリトリーなんだから、わたしを閉じ込めるなりなんなりできるだろう。
「じゃあさ、ナギに会わせてよ。この中に入ったはずなのに、いないんだけど?」
「……そのうち」
「ええ!?――あっちょっと!逃げないでよー!!」
また消えられてしまった。

 それから、何度か精霊は消えたり現れたりしながら、何気に話し相手をしてくれた。この闇は人間が長時間耐えられるものではないから、闇の精霊はわたしとナギの間を行ったり来たりしてるみたい。だったら、二人一緒にいさせる方が楽じゃないかって思うんだけど……どうも、そうもいかない理由があるらしい。
 そして、
「ね〜ぇ〜、お願いだからさぁ、いいかげんケイ譲ってよ!ナギに会わせてよ!!」
何度目かに再び姿を現した闇の精霊にダダをこねる。いい加減、飽きた。
「……そんなに欲しいか」
「あったり前でしょ!?それ集めなきゃ、わたしのせいで世界がなくなっちゃうんだよ!?そんなの嫌だ!」
淡々とした問いに、即座に答えた。すると彼はしばらく考え込み、
「本心か」
「もちろん」
「何があろうと、我らのケイを集めると?」
「今までもそうしてきた」
「ならば―――」



















『ならば、お前達を試す』





























 「った!」 「きゃあ!」



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Novel Editor by BS CGI Rental
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