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「子供」 膝に埋めていた顔を勢い良く上げました。驚いたことに、いつの間にか男の方が目の前に居たのです。 「あ……あなたは、闇の精霊さんでしょうか」 「そうだ」 異様に白い無表情な顔を崩さず、彼は答えました。何者なのかわかっただけなのですが、私はこの空間に独りぼっちではないとわかると、無性にうれしくなりました。 「あの、お尋ねしてもよろしいでしょうか。セリナ――私の友人は何処にいるのかご存知ですか?私、彼女とワグナー・ケイを集める旅をしていて、それで――」 「アルケモロスならここにいる」 「彼女に会わせてください」 「そのうち」 「本当ですか!?」 「そこでじっとしていろ」 闇の精霊さんはすっと闇に溶け込んでいかれました。
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陰気な蝋人形な精霊が姿を消してからしばらくして、ふと思いついた。ディスティニーと連絡はつかないだろうか。 耳飾を二度叩き、応答を待つ。――やっぱダメか。精霊に近付くとダメだって言ってたっけ。 「誰か構って〜」 また一人ぼっちになった事が寂しくて仕方がない。 ディムロスがいたらどうにかしてくれたのかな……。 ああ……ここにいない人に頼ってもだめだ。意味がない。 けど、暗闇だという事に変りはないが、心情的にさっきまでとは違っていた。闇の精霊がまた来るような事を言っていた。たったそれだけのことなのに、この闇に耐えられるんだ。それに、少しだけど、闇が薄くなったのも助けてくれてる。 「――あっ」 すうっと、無明の闇から溶け出すかのように精霊が姿を現す。 「お帰り!」 言った途端、人形の表情が崩れた。初めて人間らしい表情を見せる。けれども、それはすぐに消えてしまった。 「子供、目的は」 「あなたと光の精霊が持つワグナー・ケイをもらって世界の崩壊を止める」 今度はちゃんと言えた。説明すれば彼から何か条件を―― 「あの詠(うた)か。……興味ない」 「………はい?」 「興味がないと言った。人間が死のうがこの世界がなくなろうが、私には関係ない」 「なっなんで!?なんでそんな……」 「私は、かの“力”に従うのみ。世界の破滅が望みならば、それに従う」 ロボットみたいな精霊とは逆に、 「“声の人”がそう望んでいるっていうの!?そんなの――だったら、どうして私たちに崩壊をくい止める方法を教えてくれたの!?」 我ながら感情を露(あらわ)に反論した。 「彼らの意図は掴めない。又、彼の事を教える事はできない」 「だからなんで!!」 「お前達はすでに深く関わりすぎている。我ら精霊はかの“力”について語らない。語ることができない。――これ以上この件に関して質問することを禁ずる」 禁じられてしまえばもう何も聞けない。ここは云わば、精霊のテリトリーなんだから、わたしを閉じ込めるなりなんなりできるだろう。 「じゃあさ、ナギに会わせてよ。この中に入ったはずなのに、いないんだけど?」 「……そのうち」 「ええ!?――あっちょっと!逃げないでよー!!」 また消えられてしまった。
それから、何度か精霊は消えたり現れたりしながら、何気に話し相手をしてくれた。この闇は人間が長時間耐えられるものではないから、闇の精霊はわたしとナギの間を行ったり来たりしてるみたい。だったら、二人一緒にいさせる方が楽じゃないかって思うんだけど……どうも、そうもいかない理由があるらしい。 そして、 「ね〜ぇ〜、お願いだからさぁ、いいかげんケイ譲ってよ!ナギに会わせてよ!!」 何度目かに再び姿を現した闇の精霊にダダをこねる。いい加減、飽きた。 「……そんなに欲しいか」 「あったり前でしょ!?それ集めなきゃ、わたしのせいで世界がなくなっちゃうんだよ!?そんなの嫌だ!」 淡々とした問いに、即座に答えた。すると彼はしばらく考え込み、 「本心か」 「もちろん」 「何があろうと、我らのケイを集めると?」 「今までもそうしてきた」 「ならば―――」
『ならば、お前達を試す』
「った!」 「きゃあ!」
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