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ノストイ〜帰還物語〜第4部 作者:紫苑璃苑

第1回   XIII−13

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                 こ   こ            は・・・

 なにもない。
 
 色があるのかないのか、それすらわからないような空間にポツリと一人、いた。

  どうしてこんな所にいるんだろう

 あたりを見回す。
 本当になにもない。どこまでも続いていそうで、意外と狭いかも知れない空間。
  
  あぁ、そうか。わたし、アフェクを庇って……。
 
  じゃあ、わたし  死ぬのかな。  もしかしたらもう死んでるのかも。


『やあ』


 ふっと、唐突に光が現れた。男とも女とも取れない光の輪郭。

「えっと……声の人?」
光が頷いた。
「わたし、死んだの?」
『まだだよ。けれども……そうだね、いずれそうなる』
「……そっか」
不思議な感じ。もうすぐ死ぬって言われても、なんとも思わない。“ああ、そうなんだ〜”だけ。
「これもあなたの言う運命ってやつ?」
『そうだよ。そして世界は消滅するんだ。運命は変えられない。……今までの君を否定することになるけれど、ね』
「………」
声の人は、いつもと変らない穏やかな口調だった。始からずっとこうなる事を知っていたら、すんなり事を受け入れられるんだろうか。
『誰かに伝えたいことがあるのなら、私が伝えてあげるよ。ご両親とか、友達とか……』
「急に言われても……。あ、じゃあひとつだけ」
どうぞ、と声の人が促す。
「“ごめんなさい”って、いろんな人に。わたしが今までに関わった人達に。……大変かな?」
『問題ないよ。それだけでいいのかい?』
わたしはゆっくりと頷こうとし、思い留まった。さっきとは何か違う。なにか、霧が晴れたように思考がはっきりとしてきた。
「……って、言うかさ」
ナギの顔が浮かんだ。彼女の、泣きそうな顔。ウェーアの、ディムロスの怒ったような悲しそうな顔……。
「わたし、死ぬこと前提なんだ」
声の人は、まだ生きているって言ってた。けれども、今すぐに死ぬとは言っていない。
『運命は変えられない』
「そんなことない」
なぜか即答できた。さっきのは変化のせいだろうか。
『そう思いたい気持ちはわかるけれどね』
同じくゆっくりとだけど、キッパリ返された。少し哀れっぽく。
「けど、まだ死んでないんでしょ?いずれって、いつなの?」
『……君の体は今、意識が戻るかどうかもわからない状況だよ?助かる可能性はごくわずかだ』
「運命って、そんなにハッキリわかるもんなの?」
『私から見ればね』
「本当に?」
『何が言いたいんだい?』
挑むように声の人のぼやける姿を睨んだ。
「運命は決められたものじゃない」
『………………』
「生きるも死ぬも、諦めるも頑張るも、自分で選ぶものだ。決定されている物事なんて何一つない。道があったとしても、どれを選ぶのかはその時にならないとわからない。どんな結果になるのかわからない。――違う?」
声の人は何も答えない。わたしは構わずに続けた。
「“運命は全て決まってる”って思ってるんだから、答えられないか。けど、少なくともわたしは、まだ死ぬなんて決まってないと思う」
『では、逆に聞くけれども、どうして君はそこまで言い切れるんだい?確たる根拠でもあるのかい?』
「それは……よくわからないけど。けど、まだ死んじゃあいけないって気がするの。手が……右手がすごく暖かくて……。それが――ここが生と死の間(はざま)だって言うのなら、この温もりがわたしを生かしてくれてる。それが理由だよ」
『……アライオスか……』
初めて、声の人のイラついた声を聞いた。まるで、思い通りにならなくて腹を立ててるレーミルみたいだ。
『無理だよ。君は死ぬんだ』
「決め付けないで!わたしはまだ死なない、まだ死ねない!!―――戻るんだ。戻って、皆のいるこの世界を守る。わたしは……わたしは、アルケモロスなんだから」



『そうだね』



  「――――っ!?」

急に、声の人の輪郭がボロボロと崩れて――――






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Novel Editor by BS CGI Rental
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