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こ こ は・・・
なにもない。 色があるのかないのか、それすらわからないような空間にポツリと一人、いた。
どうしてこんな所にいるんだろう
あたりを見回す。 本当になにもない。どこまでも続いていそうで、意外と狭いかも知れない空間。 あぁ、そうか。わたし、アフェクを庇って……。 じゃあ、わたし 死ぬのかな。 もしかしたらもう死んでるのかも。
『やあ』
ふっと、唐突に光が現れた。男とも女とも取れない光の輪郭。
「えっと……声の人?」 光が頷いた。 「わたし、死んだの?」 『まだだよ。けれども……そうだね、いずれそうなる』 「……そっか」 不思議な感じ。もうすぐ死ぬって言われても、なんとも思わない。“ああ、そうなんだ〜”だけ。 「これもあなたの言う運命ってやつ?」 『そうだよ。そして世界は消滅するんだ。運命は変えられない。……今までの君を否定することになるけれど、ね』 「………」 声の人は、いつもと変らない穏やかな口調だった。始からずっとこうなる事を知っていたら、すんなり事を受け入れられるんだろうか。 『誰かに伝えたいことがあるのなら、私が伝えてあげるよ。ご両親とか、友達とか……』 「急に言われても……。あ、じゃあひとつだけ」 どうぞ、と声の人が促す。 「“ごめんなさい”って、いろんな人に。わたしが今までに関わった人達に。……大変かな?」 『問題ないよ。それだけでいいのかい?』 わたしはゆっくりと頷こうとし、思い留まった。さっきとは何か違う。なにか、霧が晴れたように思考がはっきりとしてきた。 「……って、言うかさ」 ナギの顔が浮かんだ。彼女の、泣きそうな顔。ウェーアの、ディムロスの怒ったような悲しそうな顔……。 「わたし、死ぬこと前提なんだ」 声の人は、まだ生きているって言ってた。けれども、今すぐに死ぬとは言っていない。 『運命は変えられない』 「そんなことない」 なぜか即答できた。さっきのは変化のせいだろうか。 『そう思いたい気持ちはわかるけれどね』 同じくゆっくりとだけど、キッパリ返された。少し哀れっぽく。 「けど、まだ死んでないんでしょ?いずれって、いつなの?」 『……君の体は今、意識が戻るかどうかもわからない状況だよ?助かる可能性はごくわずかだ』 「運命って、そんなにハッキリわかるもんなの?」 『私から見ればね』 「本当に?」 『何が言いたいんだい?』 挑むように声の人のぼやける姿を睨んだ。 「運命は決められたものじゃない」 『………………』 「生きるも死ぬも、諦めるも頑張るも、自分で選ぶものだ。決定されている物事なんて何一つない。道があったとしても、どれを選ぶのかはその時にならないとわからない。どんな結果になるのかわからない。――違う?」 声の人は何も答えない。わたしは構わずに続けた。 「“運命は全て決まってる”って思ってるんだから、答えられないか。けど、少なくともわたしは、まだ死ぬなんて決まってないと思う」 『では、逆に聞くけれども、どうして君はそこまで言い切れるんだい?確たる根拠でもあるのかい?』 「それは……よくわからないけど。けど、まだ死んじゃあいけないって気がするの。手が……右手がすごく暖かくて……。それが――ここが生と死の間(はざま)だって言うのなら、この温もりがわたしを生かしてくれてる。それが理由だよ」 『……アライオスか……』 初めて、声の人のイラついた声を聞いた。まるで、思い通りにならなくて腹を立ててるレーミルみたいだ。 『無理だよ。君は死ぬんだ』 「決め付けないで!わたしはまだ死なない、まだ死ねない!!―――戻るんだ。戻って、皆のいるこの世界を守る。わたしは……わたしは、アルケモロスなんだから」
『そうだね』
「――――っ!?」
急に、声の人の輪郭がボロボロと崩れて――――
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