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(こんなものか) 一人通りに立つ私は、ティエッフェの残骸を数えていた。 空間を満たす、むっとした匂い。 手に残る殺戮の感触・・・ (消えない) 嫌なものだ。これだけは、ひとつの命を奪った後の感触だけはどうしても慣れない。 (女々しい、な) そんな自分を嘲笑いながら、見計らったように駆け付けてきた警官隊を迎えた。 「―――?ああっ!!」 警官隊に事情を話していると、輪の中の一人が小さな叫び声を上げた。彼が見上げている方向に目を向けると、何か大きなものが空を飛んで来る。 (取り逃がしたな) 刻々とその姿を鮮明にしていくそれは、まさに今しがた私が葬ったティエッフェの仲間だった。 「連れがしくじったようです。あなた方は安全な場所へ避難していて下さい」 カクカクと小刻みに頷いた警官隊は、脱兎のごとく近くの建物に逃げ込んだ。 (仕事が増えた) ホムラとフェイが戻ってきたら何をしてもらおうかと考えながら、迎え撃つためにそこそこ高いビルの非常階段を駆け上った。 (・・・?動きがおかしい) 近付くティエッフェを見上げ、疑問を抱く。大きな傷は見られないが・・・。と、森の方で煙が上がっているのを見た。 (フェイか) 少しはやりやすくなった事に感謝しつつ、剣先に力を込めて振り下ろした。
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「ぜーったい、ぜーったい怒ってるって!マジやべぇよ。なぁ、どうすれば許してくれると思う?フェイ。・・・・フェイ?」 森ん中を疾走中、俺は一人で喋ってる事に気付いた。 「・・・・・・・」 後ろを振り向いても、木の枝を見ても、それらしい影は見えないし気配もない。 「あー・・・・ま、後で追いつくよな」 とりあえず急いだ。フェイよりルレイの方が怖えし。 「ルレイ!!」 逃がしちまった《深き者達》が群がってるところに到着して、俺は信じられねぇ光景を目にした。 いつもはチョチョイのチョイで片しちまうルレイが、下級相手に手間取ってんだ。《深き者達》はやけに凶暴になってるし、なんか糸吐き出してやがるし。しかも、ルレイはその糸に絡まれてて、両手が使えなくなってた。 「ルレイ!今行くぞ!!」 「来るな馬鹿!!」 「はぁ!?―――ぅわっ!?」 ルレイに駆け寄ろうとした瞬間、何かが目に入った。こすっても、霞(かす)んでよく見えねぇ。 「早く洗い流せ。失明する」 「わーったよ!」 ルレイは盲目だ。元々見えねぇからこの攻撃は効かねぇし、目にいつも包帯巻いてるから意味ない。じゃあ、どうしてルレイは捕まっちまったんだ? なんとか水場を見つけた俺は、ちょっとずつ見えてきた目で更にヤバイ状況になってるのを確認した。《深き者達》は、ルレイを完全に動けなくしちまってた。つまり、がんじがらめの繭(まゆ)人間の出来上がりだ。いくらルレイでも、こりゃーどうにもならねぇだろ。 けど、俺も迂闊(うかつ)に近寄れねぇし・・・どーしよ? って考えてるうちに、ルレイを捕らえてる二匹以外が襲ってきた。目が霞む粉出しながらだから、ちとやべぇ。どーやって対処すりゃぁいいんだよぅ(ノд<)・...。* 「くっそー!!」
『右上じゃ!!』
反射的に声に従った。 重い手応えが相手に傷を付けたことを教えてくれた。 「フェイ!その調子で教えてちょ!(+・`ω・´)b☆」 『承知した!――後ろ!』 振り向きざまに剣を振り下ろす。まったまた当たり☆ 『左上!そのまま振り下げろ!右旋回で跳べ!』 フェイが俺の癖を良く知った上で先読みしてくれるおかげで、俺の攻撃はほとんど当たってくれた。 「フェイ!俺ら何気にすごくね!?」 『黙って剣を振り回さんか!―――しゃがめ!Bダッシュ!!』 「って、わかんねーよ!!」 コントってる場合じゃねーし!ルレイを助けなきゃいけねぇのに〜(゜д゜;Ξ;゜д゜) ―――って、パニクってる時、俺から少し離れた場所で《深き者達》の悲鳴がした。思わず目を開けて振り返ると、《深き者達》がボーボー燃えてた。踊る炎の中に見慣れた痩躯の影が浮かび上がる。 「『ルレイ!!』」 アイツ、体が動かせない状況でどうやって火をつけたんだ?火の中から出てきたのに、どこもゴゲてねぇし・・・ 「ルレイ。おま―――っ」 (なっ!?) ルレイの姿を見た途端、背筋が凍った。何でかわかんねぇけど、そん時はめっちゃ怖かった。 「――――――」 ルレイが口を動かした。目の前で残りの《深き者達》が燃え落ちて、やっとあいつが何か言葉を言ったんだってわかった。 「・・・・・・・・」 「・・・・ルレイ?」 灰になった《深き者達》の中で、ルレイは俯いたまま動かない。 フェイが俺の肩に飛び移って、もう一度呼びかけると、ルレイはゆっくりと倒れた。
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悲鳴が飛び交っている。 街は、殺戮の香りで満ちていた。 「―――ろ!」 少し年上の彼が私の手を強く引いた。いつもは澄み切っている空気が黒く淀(よど)み、熱を持っている。 「早く!」 (嫌だ。その先には行きたくない) 私の意に反して、体は彼の言葉に従った。 「ここにいるんだ」 私は暗い空間に入られた。 「―――?」 彼に何かを尋ねた。すると、彼はゆっくりと諭(さと)すように首を横に振る。 「君は――――。いいね?」 「――――!?」 「―――だ!――――」 すがるように伸ばした手は、閉ざされてしまった黒い壁に阻まれた。
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「なっかなか起きないな。大丈夫なのかなぁ」 『さあのぅ。医者に診せてやりたいのじゃが、前にも嫌がられたしの』 「なんであんなに嫌がるんだろうなー?注射が怖いのかな?」 『ふん。お前じゃあるまいし・・・』 宿のベッドで眠り続けてるルレイを、俺とフェイは覗き込みながら心配してた。あれから丸一日経ったけど、全然目ぇ覚まさねぇんだ。 「俺だって怖かねーよ!・・・なあフェイ。今の内にルレイの素顔、拝んでみねぇ?」 ルレイと相棒になってからずいぶんたつけど、まだルレイの素顔は一度も見たことない。一緒に風呂なんて入らないし、寝るときも包帯巻いたままだし・・・。今だって、いつも被ってる帽子取ったら、頭にも包帯巻いてやがった。髪の毛の一本すら見えない。 (火傷して、その痕を隠してるとか?でも・・・) 俺は手袋を外したその手を見て、その理由は当てはまりそうにないって思った。暗い宿の照明でもわかるくらい、血管がはっきり見えるような白さだったからだ。まるで人形みたいな細い手だった。 『見たいがのぅ。本人があれだけ拒絶しておるのだから、勝手に見たらどうなるか・・・』 「う、うん(((・ω・;))) けど、ぱっと見てぱっと戻せばバレないんじゃ―――」
「やめろ!!!」
「『Σ(0д0;)!?』」 今までピクリともしなかったルレイが突然叫んで飛び起きた。真っ直ぐに伸ばされた右腕は、何も掴む事もなく戻されて、その顔を覆った。 「・・・あー、ルレイ?」 「―――っ!」 らしくねぇ。びっくりした様子で俺の方を向いた。 「お・・・おはよぅ」 「あぁ・・・」 肩の力が抜けたルレイは、どこか虚ろな返事をした。 『体調はどうじゃ?かなり衰弱しておったが・・・』 「問題ない」 「じゃあさ、報酬も入った事だし、うまいモン食いに行こうぜ!(>ω<)」 「二人で行って来い」 「えぇー!!?なんでー?」 ほんっとうにらしくねぇ。いつもなら、俺の過食を止めるために嫌でもついてくるのに。 「いいから、行って来い」 「でも・・・!」 『ホムラ』 フェイが厳しい顔で俺を見上げる。俺は、仕方なくドアに向かう小さな背中に続いた。
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嫌な夢を見た。 はっきりと内容は覚えていないが、目覚めの悪さから言ってよいものではなかっただろう。 (大人気ない) せっかくホムラが、珍しく気を使ったというのに・・・。 酷く自分が情けなく思えた。だが、彼の誘いについて行ける状態ではなかった。私が行ったところで、余計に空気を重くしてしまうだけだ。 (あの風景は・・・) 夢に出てきた風景。はっきりと覚えていないただの夢のはずなのに、何故か懐かしく思えた。ただのデジャヴなのだろうか。だか、もしあれが失われた記憶ならば、唯一の手掛かりである“アレ”とつながるのかもしれない。・・・しかし、如何(いかん)せんぼんやりと霞んで掴めないのだから意味がなかった。 (いつになったら)
失った過去 追い求める記憶 深まる疑問・・・
取り戻せるのだろうか
行き着く事はできるのだろうか
(いつまで)
奥歯を噛み締め、強く目を閉じて立てた膝の上で頭を抱える。 傷のない体が、引き裂かれるように痛む。
私は、
「私 は・・・」
誰なんだ
〜前回の〜 「無題II」に、多くの誤字、脱字がありましたのでお詫び申し上げます。 ルレイが待機していたのはベッドの下ではなく、上です!!決して潜り込んでいたわけではありません!! そして、「無題」はこれにて修了!なに〜!?っで感じで終わります!次回をお楽しみに!!(⌒▽⌒)ノシ
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