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WEISSE 作者:紫苑璃苑

第4回   無題ーI

 そこは、多くの人々が自由に出歩く事のできない、閉ざされた世界。
 人々は外から来るものを恐れ、国に、街に厚く高い塀を築き上げた。
 そんな人々の中に、危険を顧(かえり)みず国々を自由に行き来する者達がいる。
人々は彼らを、羨望と畏怖を込めて―――

 《アストラ》と呼ぶ。




時は春。厳しい冬を乗り越えた生き物たちが蠢きだす季節。そして・・・
「ルレイ、ルレイ!これ、食えるよな!?」
年間を通じて活動しまくる男。黒髪にスカイブルーの瞳を持つ伊達眼鏡の男は、冬に備えるわけでもなく飢えていた。
「・・・ああ」
『ナマで食うでないぞ、ホムラ』
山菜を山ほど抱えた男、ホムラに少し低めの声が私の後を継いだ。
「んな事すんのはフェイぐらいだろ〜?」
ホムラは私の肩でくつろいでいたリスネコに、デコピンを喰らわす。途端にネコパンチをお返しされた。――そう、低い声の正体は、この動物だ。何故動物が喋るのかは・・・またの機会に。
 さて、喋るリスネコと万年大食らいの二人がじゃれ始めたところで、紹介しておこう。
 私の名前はルレイ。大きめの帽子を目深に被り、細身の杖を持った男だ。先の二人と共にアストラとして生活している。フェイとホムラの喧嘩を止める役。それが私だ。

 「なあルレイ。晩飯なんにする?あそこの店、うまそうじゃね?」
街に着くなり、ホムラが寝言を言い始めた。
『あ奴の胃袋はブラックホールか?』
肩の上でフェイが耳打ちする。妙に納得できたので、そうかもしれないと答えた。
「な〜あ〜。どーすんの〜?」
「先に宿を探せ」
「ぶー( ̄ε ̄)」

「二名様と一匹ごあんなーい!」
案内された良くも悪くもない部屋に荷物を放り出し、久し振りの清潔なベッドに酔いしれる。
「お前がギャーギャー騒ぐからバレたじゃねえか!」
『うるさい!お前が無理矢理臭いカバンに押し込むからじゃろ!結果的にルレイが治めてくれたのじゃからよいではないか!』
人がせっかく、つかの間の休息を堪能しているというのに・・・
「・・・今日は金も少ないし、夕食はなくてもいいな」
「『煤i`д´;)!!』」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
『すまぬ!ワシらが悪かったから見捨てんでくれ!』
呆れた。今は反省していても、きっと彼らはまた同じ事を繰り返すだろう。今のうちに懲らしめてもいいが・・・今回は見逃してやるか。
「話し変わるけどさ、あの噂って、本当なのか?」
『巨大蝶々か?まだ現物を見てないでのう。何とも言えんが、襲われているとするとやはり・・・』
そう、我々は夜な夜な空を飛び回って家畜や人間を連れ去り、喰らう蝶がいるとの報告を受けてこの街に来たのだ。
「十中八九、ティエッフェだろう」
『何故そう思う?』
「・・・勘」
「勘かよ・・・。ってかさ、そんな《深き者達》なんているのか?」
『可能性としてはアリじゃろ』
「ふぅん」
先程から話に出てきている《深き者達》又は、ティエッフェ(外から来るモノ)とは、今や生態系の頂点に立たんとする生物だ。大まかに下級・中級・上級に分けられており、その中で更に力の差がある。数で言えば下級が最も多く、上級にいたっては存在を確認したという報告は一桁(けた)。形態は動物だったり植物だったりと様々だが、彼らは一目でそれと見分けることができる。それは―――

「来たぞ―――!!!」

「おっ?早速出やがったな!?」
次々と沸き起こる悲鳴に、ホムラは不敵な笑みを浮かべて窓を開け放つ。
「おーおー、いるいる♪やり甲斐あるぜ〜。こんだけいりゃあ」
人々が危機にさらされているという時に、この男はずいぶんとうれしそうな声をあげる。
「待ってろよ〜、俺達の金のなる木〜♪」
不謹慎極まりない言葉を吐いて、ホムラは窓から飛び出した。しかし、彼の言うことには一理ある。ティエッフェを倒した報酬で我々は生活しているのだから。
『まったく・・・あ奴は待てもできんのか?――お主はどうする?』
窓枠にいたフェイが差し出した腕に飛び移った。つぶらな瞳には、帽子の下に包帯を巻いている私の顔が映っている。
「行かないわけにはいかないだろう」
『猪突猛進はあ奴の代名詞だからのう』
「そうだな」
私はちゃんとドアから退室した。
 町中は逃げ惑う人々で一杯―――ではなかった。
 噂が他国まで広まっていた程だ。それだけ頻繁に出ていたという事になる。流石に対応に慣れたのだろう。住民は素早く建物の中に逃げ込んでいた。
『ホムラめ・・・どこまで行きおった?』
見渡す限りは人影は見られない。が、奇声と聞き慣れた雄叫びは届く。そう遠くないようだ。しかし、建物に反響して方向が定められない。
「―――いた」
とりあえず前方を“見る”と、小ぶりなビルと民家の向こうで大剣を振るう男を見つけた。
『やはり便利じゃのぅ。お主の透視能力は』
「別に・・・」
私は盲目だ。だが、何年か前にある人物によってこの“見る”力を授けられた。元は五体満足で目も見えていたので、この能力に助けられたが、コントロールのできなかった頃は、見たくないものまで“見て”しまったので大変だった。と、まあその能力のおかげで素早くターゲットを捕捉できた私は現場に到着するなり、
「めちゃくちゃ・・・だな」
思わず口にしてしまった。それは、足元に転がる数多の死骸に対してでもあり、型のない連れの剣捌(けんさば)きに対してでもある。
『ひい、ふう、みい、よー、ここのたり、っと・・・。相当おるのう。いくらになるじゃろうか?』
「下級だ。安い」
戦闘の様子を窺っていると、街灯の光に反射してキラキラと光る何かが振ってきた。反射的に口と鼻を覆う。
「うわ!?なんだよこりゃ!?」
屋上にいたホムラが落ちてきた。体勢を崩していたのにもかかわらず、難なく着地してみせる。
『毒かもしれん。吸うでないぞ』
フェイは素早く私の上着の中に滑り込んだ。こういう時、小動物は便利だ。
「へ!こんなん効くかよ!!」
アフガンストールを鼻まで持ち上げたホムラは、ティエッフェが飛び回る建物の壁を信じられないスピードでよじ登った。カサカサと、音が聞こえそうだ。
『・・・ゴキブリのようじゃな』
「ゴキブリ、だな」
あちらは任せて、私は足元に転がっているティエッフェの体を調べた。噂通りの大きな蝶だ。羽一枚が大人一人分ある。本来の蝶が蜜を吸うためのストローは、他の生物の体液や血を吸い上げるものになっている。そして、ティエッフェであるという確たる証拠。それは―――
『また、目がチカチカする色だのう』
体全体を覆う極彩色の模様。それがティエッフェだという証拠だ。この巨大蝶の場合は、緑と赤の、ごちゃごちゃした模様だった。
「色も模様も品がない。下の下だ」
模様や色合いが美しければ美しいほどレベルは上がる。その分我々アストラの報酬も増える。
『むぅ・・・。ホムラがより多くを倒す事に賭けるかのう』
「あぁ」
実際、ホムラは我々の期待を裏切らなかった。空中を旋回していたティエッフェのほとんど撃退し、すっきりした表情で飛び降りてきた。
「どぉどぉ?俺の勇姿、見てくれた!?」
「めちゃくちゃだ」
「はぁ!?Σ(0д0;)」
『おお!警官隊のお出ましじゃぞ』
喚き声で住民から苦情が来る前に駆け付けてくれて、大いに助かった。遅ればせながら到着した警官隊は、ティエッフェの残骸を目にしてどよめく。見慣れていない訳はないので、この量に対してだろう。あえて言わせてもらうが、連れは、戦闘能力だけは高い。
「ご苦労様です。アハリアハルに連絡をしたいのですが、お願いしてもよろしいでしょうか」
「はっはい!ご協力感謝しますです!!」
まだ若い警官は、ビシッと敬礼して無線を手に取る。
 “アハリアハル”とは、ティエッフェを排除した折に報酬を出してくれる組織だ。我々はフリーなので関わりはあまりないが、本部に所属しているアストラは、支部などを拠点として各地へ飛ぶ。組織の中では、一応階級が存在するらしいが、詳しくは知らない。
「連絡取れました!係りの方がもうすぐ到着するとの事でござります!!」
到着した審議員にティエッフェのランクと数を調べてもらい、妙に力の入った警官と共に支部へ赴(おもむ)く。
 手続きを済ませ、外で待っていたホムラとフェイに合流した。
「いくら入ったー?」
「一体、一万五千で三十四体。計算してみろ」
「えっ煤i・д・) えっとぉ・・・」
『五十一万じゃ。安いのう・・・』
「ホムラの食費を削るか」
「そ、そんなっΣ(0д0;)」
いくら報酬が入っても、この男のせいでいつまでたっても貯金が貯まらない。
「俺、もっと頑張るからさ、そんな事言わないでくれよ〜(oωo`;) ほら、取り逃がした奴等倒せばもっと増えるだろ〜?」
「再び現れるまで待つのか?根絶やしにすることはできないぞ」
「へ?なんで?」
『あ奴等は生け捕った獲物を連れ去っているのじゃぞ?巣があって狩りに行かぬ奴もいる可能性があるじゃろうが』
「あーそっかー。じゃあ・・・あいつらの巣を見つけりゃいいじゃん。んで、奇襲攻撃!!」
言い出したホムラを止めるにはとても労力がいる。ここは、乗った方が得策だろうか。
「なら、まずは情報を集めろ」
「何の?」
『《深き者達》の住家のじゃ!言われんでもわかるじゃろ、話の流れで!イラつくのぅ(*―_―)』
「あー。・・・でも、そんなの必要ねぇだろ」
「何故」
「俺の勘とフェイの鼻があるから!(+・`ω・´)b☆」
「『( ̄д ̄;)』」

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Novel Editor by BS CGI Rental
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