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WEISSE 作者:紫苑璃苑

第21回   嚆矢ーV

×××

 男ホムラ、花の25歳。
 まあそれなりにデンジャラスでスウィーチーな人生を送ってきた俺だけど・・・只今、今世紀最大の絶体絶命大☆ピンチです♡
 なんでかって?そりゃあ―――――

「どどどど、どう、どどうしようフェイ!!」
『わ、ワシに言われても・・・ワシだって、どうすればよいのか・・・』

 ガタガタガタガタ

     カリカリカリカリカリカリ

 必死で押さえる扉が、絶え間なく揺れてる。
 鉄扉の部屋に入って数時間。空っぽの檻しかない部屋に閉じ込められちまって、出るに出られなくなって落ち込んでたら、扉が破られそうになってきた。こんな感じのピンチな状況だ!

 一応急いで鉄檻壊して鍵代わりにしたけど、不安でしょうがない。
「なあ、どっか出られそうな所、ない?」
『そう言うても・・・この部屋には窓すらないじゃろうが』
「この城仕掛けだらけだから、なんかあるかもしれねぇぜ?探してみよう!」
『むぅ・・・そうじゃのぅ。ルレイのように突然穴が現れる事も――』
「何だこれ?」
『――って、話を聞かんか!!\(*`Д´)ノ』
カチッ
俺が部屋の隅にあったビー玉を取ろうとすると、逆に押し込まれた。
『にゅああぁぁぁぁぁぁぁ!!!?』
「ん?―――――あれ?フェイ!?」
猫みてーな叫び声がして振り返ると、フェイがいなくなってた。慌てて駆け寄ると、ポッカリ穴が空いてる。
「フェ――――イ!!」
・・・返事ねぇ。これはもう、行くっきゃないっしょ!!
「今行くからな!フェイ!!」
俺は威勢良く穴に飛び込んだ。

×××

 (とにかくここから脱出する方法を見つけなければ)
 幸いというか、いつも持ち歩く癖の付いている鞄に研究書を押し込んだ。【P】という人物の手掛かりを探すにしても、まずこの城から生還しなければ。
 再び目に神経を集中し、部屋を透視しようとしたその時、

『ぁぁぁあぁあああああ!!』
(・・・?どこからだ?)
叫び声がして、辺りを伺う。と、
『にゃあ!!』
突然現れた天井の穴から、フェイが降ってきた。そしてそのままころころ転がり、足下で止まる。
「・・・・何を遊んでいるんだ?」
『ぅぅ・・・あ、遊んでいるじゃと!?ワシは―――』
「あ!何か見え――――うわあっ!?」
『ぎゃふっ!?』
「・・・・遊んではいないのか?」
今度はホムラが降ってきた。しかも、フェイと同じ軌跡を辿り、見事リスネコの小さな体を潰した。
「いって〜ぇ・・・あ!ルレイだ!なあなあ、フェイ見なかったか?あいつ穴に落ちちまって―――」
私は無言でホムラの腹の下を指した。
馬鹿は一瞬キョトンとしたが、すぐにハッとして体を持ち上げた。
「うぉっΣ(◎Д◎;)フェイ、そんな所で何やってんだよ!?」
『それは・・・こっちの、セリフ、じゃ・・・ぼけぇ・・・』
息も絶え絶えなフェイを救出し、とりあえず手当をする。
「そんぐらいの傷、自分で治せばいいじゃん」
『己の傷は治せんのじゃ!じゃからもっとワシを労らにゃあ!?〜〜〜ルレイィィ、もうちっと優しくしてくれぬか?』
「難しい」
見た目が特殊なフェイだが、その能力も特異で、彼は人の怪我をある程度治せる。いわゆる治癒能力を持っている。戦力には鳴らないが、貴重な人材だ。
「―――で?」
『うむ。鉄扉の部屋には空の檻と白骨しかなかった。半ば追い込まれてあの部屋に入ったからのぅ。閉じ込められてしまって・・・。それで、この馬鹿が仕掛けを作動させてここに落ちてきた訳じゃ』
「俺様のおかげで抜け出せたんだよなっ!?」
『それよりルレイ』
「ちょっΣ(0Д0;)華麗に無視!?」
『ここは何なのじゃ?』
フェイの小さな前足に包帯を巻き終え、荷物から先程の研究書を取り出し、開いた。
『これは・・・?』
「え?何なに?」
「50年程前の物らしい」
『では、あ奴らはそれからずっと・・・?』
「なあ、何なんだよそれ」
「おそらく」
『ふうむ・・・だとしたら・・・いや、しかし・・・』
「俺も会話に混ぜてくださーい!!!」




べちゃっ





「「『!!?』」」
ホムラが叫んだ瞬間、我々の足下に人の手が落ちてきた。
「げっ!Σ(◎Д◎;)」
『まずい!扉を破られたぞ!!』
「これが形態模写する人工ティエッフェか・・・」
『それどころではないわ!!ルレイ!脱出路はっ!?』
「うわわ!どんどん降って来る!?」
どうやらタイムリミットらしい。もう少し観察していたかったのだが・・・。仕込み刀を抜き放ち、致し方なく私は通路のすぐ左にある棚を指した。透視するまでもなかった。フェイの手当をしている間に、通路と部屋の境目に何かを引きずった跡があったのだ。
「ホムラ。その棚で道を塞げ」
「えっ!?――お、おう!」
ホムラと交代し、ティエッフェを斬り伏せる。後ろでうるさい歓声が上がった。
「ルレイ!!」
叫び声に応じて踵を返した。
延々と続く階段を必死に駆け上がる。ティエッフェのせいもあるが、背後でガラガラと崩れる音が迫り来ている――という理由の方が当てはまるだろう。逼迫感に圧迫されて圧死してしまいそうだ。
冗談抜きに。
「ルレイ早く!!」
遅れていた私に、先に脱出したホムラが手を差し出す。酸欠で朦朧とする意識の中、私はなんとかその手を掴み―――

「それえ!!」




――――空中に投げ飛ばされた。













「ルレイ〜?生きてるー?」
(見ればわかるだろうが)
肩で息をしながら、横から覗き込む体力馬鹿を睨みつける。
「んな睨むなよー。助かったんだからさぁ、な?」
なぜこの男は、顔の半分も隠れている私の表情を読み取る事ができるのか・・・。不思議に思うのと同時に、腹立たしい。
「・・・うるさい黙れ・・・」
「ひっひでぇ!(´□`;)」
深く溜め息を吐いて、青く晴れ渡った空を仰ぐ。
城の裏手の林から、心地よい風が吹いて来た。
足の先では、ガラガラと城が崩れて行く。なんだかひどく滑稽に思えた。あの青は、どこまでも静かだというのに・・・。

(・・・“P”・・・)

ふわりと浮かぶ真っ白な雲に手を伸ばす。
届きそうで届かない。
見えてはいるのに・・・

(お前は・・・誰だ・・・)


空高く舞う鳥が、嘲笑うかのように高く鳴き、飛び去った。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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