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まだ辺りは暗かった。 雨は止んだらしい。青白い月明かりで時計を確認すると、まだ夜中の3時だった。何故このような時間に目を覚ましてしまったのか・・・。 (・・・?) ホムラとフェイの姿が見えない。荷物もないのだから、少し出かけたという程度ではないようだ。また寝直そうかと考えていると、重い地響きが城を揺らす。 (地震・・・いや、違うな) 微かにホムラの叫び声が聞こえた気がした。 (まさか・・・あの扉を開けたのか?) 危険な気配がするから二度と近寄るなと言ったはずだ。・・・あのホムラが聞く訳がないか。 (何が起こっている?) とにかく、様子を見ようと廊下へ出る。 「―――――!!」 何かが空を裂く音がして、咄嗟に身を屈めた。 (矢?どこからだ?気配がしなかった) 矢が飛んできた方向を探るが、そこには壁しかない。その隣の窓も、割れた形跡がなかった。と、いうことは・・・ (罠、か) 城に入った時は何ともなかった。時差式だとしても、ホムラ達が出歩いているのだからタイミングがおかしい。この館に誰かが居て、我々を分裂させようとしているのなら、話は別だが。それとも・・・ (あいつらが鉄扉を開けたから、か?考えすぎならばいいのだが・・・) とにかく原因を究明する事が先決だ。あいつらと合流して問いたださなければ。 他に仕掛けがないかと慎重に進む。透視能力で“見て”移動すればどこに作動スイッチがあるのかわかる。しかし、ホムラ達のいる向かいの棟まではかなり距離がある。行き着くまでに何が起きるか想定できないため、無闇に力を使う事はできない。普段から常人と同じように物事を見るため能力を使ってはいるが、壁の中を透視したり、となると事情が変わってくる。通常より数倍の疲労が襲って来るため、ティエッフェが現れたりしたら素早く反応できなくなってしまう。 今の状態で先へ行けるのかと不安ではあったが、罠は比較的わかりやすかった。今までどこに隠れていたのかと思う程びっしりと仕掛けられていたが、一つひとつ剣先でわざと作動させて行けばいいのだ。 (最初は不意を突かれたが、案外簡単に―――) 飛んで来る矢を避け、丸太を躱し、網を切り裂きながら進むうち、棟と棟を結ぶ渡り廊下まで来た。左右に窓が張られているだけの、何の変哲もないただのろうかだったはずだが・・・。 (完全にトラップだな。しかし・・・これは・・・) 思わず絶句した。 一面の壁と成り果てた窓に床、天井と、四面全てに丸い模様が描かれていた。脚の踏み場もないほどに。 暗闇も昼間と同じ明るさで見えるようにしておいてよかったと、つくづく自分の能力に感謝する。もし、気付かず進んでいたならば、今頃完全に罠に掛かっていただろう。 (どう突破したものか・・・) 石組みの欠片を拾い、適当に投げてみるものの、作動しない箇所はなさそうだ。さらに、飛んで来るものは今までのように矢や槍ではなく、小指の爪程の鉄球。それが無数に、壁にめり込む勢いで飛んで来るのだ。至近距離で銃撃を喰らうのと同じだが、どこから射出されるのかわからないため、避けようがない。 しかし、ホムラ達の所へ行くにはこの道しかないのだ。こうなったら外から侵入してみるかと踵を返したその時、 「―――ぃ・・・たーすーけーてぇぇぇルーレーイぃぃぃぃ!!!」 低く鳴り響く地響きと共に、ホムラ達が姿を現した。その背後には―― 「・・・何故こっちに来た・・・」 巨大な岩の球体が、猛スピードで迫ってきていた。 「ルーレーイー!!!」 「馬鹿!仕掛けが――!!」 全速力で走っているのだ。警告を言い終える前に、ホムラは渡り廊下へと脚を踏み入れてしまった。 (死んだな) 確信した私は、とにかく止まりそうにない球体から逃れるために踵を―― 「うおぉぉぉぉぉ!?何だよこれぇぇぇぇ!!?」 (馬鹿な・・・) 信じられないモノを目にした。 ホムラは走りながら巧みに大剣を操り、打ち出された鉄球を全て弾き返しているのだ。人間の身体能力ではあり得ないほどの反射神経と動体視力がなければ成せない技だ。 (本当に人間か?) 大いに疑わしいが、今はそれどころではない。ホムラがたとえ花と散ろうとも、あの球体が止まる事はないのだ。逃げなければ私も、何とも情けない死に方をする羽目になる。 助けを求め、叫びまくるホムラに背を向け、来た道を戻った。 少し戻った所に部屋があったは――――――
ない。
扉の“戸”の字もない。
「何故・・・」 どういう仕掛けなのかわからないが、ひとつだけ言える事がある。――この罠を仕掛けた人物は、確実に我々を殺す気だ。 「おっ先〜♪」 「あ」 そうだ。考えに没頭している場合でもない。この状況をどうにかしなければ。 「貴様ら、何をした」 「え〜?何だと思うー?」 『鉄扉の鍵を見つけたので開けに行ったんじゃ!!』 「あっΣ(○Д○;)フェイてめぇ!裏切ったな!?」 『この状況下で隠し立てしても意味がなかろうが!』 「でも、怒られんじゃん!!」 「その通りだ」 「『ひぃ!!((( ◎△◎;;)))』」 「貴様ら・・・」 「おおおおおち、落ち着いてくださいませ!どうかそのお怒りを鎮めて下さいルレイ様!!」 『そ、そそ、そうじゃ!今怒っても、体力の無駄じゃぞ?なっ?』 「・・・言葉が出ない程呆れるとは、この事をいうのだな・・・」
ガッ
口ではそう言ったものの、どうしても腹の虫が収まらなかったので、仕込み杖をホムラの脚の間に入れてやった。ベシャリと、面白いほど簡単に転ぶ。 「ってぇな!何すんだよぉ!?」 『ほ、ホムラぁ!!』 「ンげっ!?―――っのやろおおお!!!」 体勢を立て直したホムラは、剣を握り直し、巨大な岩を一丁両断にした。やはり、人間業ではない。 が、 「って、意味ねーしぃ!!!」 スッパリと切れたものの、球体は廊下の幅ギリギリの大きさだ。綺麗にに切りすぎて、倒れる事なく転がり続ける。 ホムラが岩を切り、一瞬止まった鋤に私は、唯一の窓を見つけて蹴り破っていた。縁に足を掛け、飛び降りようと・・・ 「あっ!ズリィぞ自分だけ!!」 『ゆけいホムラ!』 「言われなくたって!!――ぅわ!?・・・な、なんだよ、あれ」 こっちが聞きたい。 窓の下には小さな生き物がうぞうぞと蠢いていた。飛び降りて切り伏せてもいいが、あの数では・・・想像もしたくない。 とにかく我々は、窓枠にしがみついて岩が通り過ぎるのを待った。 「ふいー助かったー(´▽`)=3」 『それにしてもルレイ!お主本気でワシらを殺そうとしたなっ!?』 「自業自得だ」 「あそこまでしなくてもいいじゃねーかよぅ°・(ノД`)・°・」 『そうじゃそう・・・じゃ・・・』 「・・・?」 もし動物に顔色というものがあるとすれば、フェイは文字通り、青くなった。一点凝視で固まっている。すぐに尋常ではない様子に気付いた私は、暗がりを振り返る。 そしてそれは―――
「おい」
すぐに―――
『に・・・・に・・・・・・』
―――我々の恐怖をかき立てた。
「『逃げろ――――!!!(((>□<;;)))』」
それは・・・・
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