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WEISSE 作者:紫苑璃苑

第17回   嚆矢
「ぎりぎりセーフ!!」
伊達眼鏡を掛けた黒髪、長身の男が重厚な扉を蹴破る勢いで開け放った。
『ホムラがあそこで馬鹿食いさえしなければ無事に着けたものを・・・』
小言を言いながら、小さなリスネコがホムラに続いた。完全に中へ入ってから、ブルブルと水滴を飛ばす。なぜ動物が喋るのかは・・・今は言わないでおこう。
「うるせーんだよ、フェイの分際で!食わぬは一生の恥tっつうだろ!?食える時に食わなくていつ食うんだよ!!」
『お前はいつでも食っとるじゃろうが!』
(またか・・・)
二人のやり取りにうんざりしながら、私も豪奢な造りの扉を抜ける。ざっと見渡す限り、百年ほど前に建てられた城のようだ。
「んなことねぇよ!この頃は1日5食で我慢してるんだぜ!?なっ、ルレイ?」
『それのどぉーこが我慢じゃ!?普通の人間は1日3食じゃろうが!ルレイに至っては、1食で済ます日もあるのじゃぞ!?のう、ルレイ?』
「・・・・・・・・・」
思考回路が食欲を満たすためだけに使われているホムラと、動物のくせによく回る舌を持つフェイを無視して、私は中央から左上へ伸びる階段を上がっていった。
「って、ちょっと!Σ(0Д0;)」
『ナチュラルにスルーするでない!!』
さて、忘れないうちに紹介しておこう。
大きめの帽子を目深に被り、双眸に包帯を巻いた盲目。そして――
「馬鹿やってないでさっさと安全確保してこいボンクラーズ」
「『こいつと一緒にするな!!』」
この二人のツッコミ役。それが私だ。

 雨は本格的に降り始めたようだ。
 静まり返った城の窓に、大粒の雫が激しく打ち付ける。
 この先にある国へ依頼を受けに行く途中だったのだが、この雨では当分動けそうにない。屋根があるだけましだが。
 水煙で霞む窓から、荒れ果てた町並みが見える。城下町だったのだろう。区画が今でもハッキリと区別できる。これだけ整備の行き届いた町だ。それなりに繁栄していたのだろうが・・・。
(壊れ方に違和感を覚えるな・・・)
 大きな戦でもあったのだろうか。石造りの壁には焦げ後が見られたし、明らかに人為的に壊された箇所が目立つ。そんな街の状況に対して、この城は無傷に近かった。年月分のホコリは積っていたが、少し手を入れれば今でも十分に住める環境だ。
 そう、そこが懸念すべき要因の一つだ。もしかしたら、先客がいるかもしれない。

ピルルルルル

 ひとつひとつ部屋を確認していると、携帯が鳴った。ホムラの着信音だ。
「なんだ」
『ルレイ、何か変な気配がするんだ』
「どこにいる」
『今?え――っとぉ・・・』
「・・・迷ったのか」
『いや、そのぅ・・・あ、あっははははははは・・は・・・』
「そこから一歩も動くな」
『えっ!?Σ(○Д○;)便所行きたくなったらど――――』
電源を落としてやった。
(フェイがいながら、何故迷う)
また喧嘩でもしていたのだろうかと予測しつつ、反対側の棟へ急いだ。

 彼らは5階にいた。
 廊下の半ばでヤンキーのようなしゃがみ体勢からピョンと飛び上がり、
「ルレイ〜!!心細かったよ〜!!(>□<;)」
「くっつくな気色悪い」
「ぐえっ!?ちょっ、ルレイルレイ!このままだと首がコーヒーカップみたくぐるぐるしちゃいまーす!!」
いきなり抱きつくホムラの顔を片手で押し戻しつつ、フェイに説明を求める。
『こ奴が何を言ってきても黙りを決め込んでやったんじゃ。それより、あの部屋なんじゃが・・・』
そう言って、廊下の先を指す。近付くと、大きな南京錠が掛けられている鉄扉があった。
「ずいぶんと厳重だな」
「そうなんだよ!ぜんっぜん開かねぇの。しかも、中でカサカサ物音するしよー・・・」
「お前がどんなに開けようとしても開かなかったんだな?」
「ん?そうだけど?」
『それがどうしたのじゃ?』
「外から鍵が掛けられている。かつ、馬鹿力のホムラでさえ壊せなかったのなら、中に何がいようとも出て来る事はできない」
『そう、じゃのう』
「ざっと見回ったが、危険要素はこの部屋だけだ。今夜はここに泊まらせていただこう」
「ええ!?Σ(○Д○;)こんな気味悪ィとこに泊まるのかよ!?嫌だよ!何か出たらどーすんだよ!!」
「“何か”とは何だ?」
『はっはーん・・・。お前、お化けが怖いのか?( ̄ー+ ̄)』
「ち、ちげーよ!そんな訳ねぇだろ!?俺様を誰だと思ってんだよ!ユーレイ!?んなもん、ソッコー・ゲンコでボコしてやるよ!!」
「頼もしい限りだ。―――向こうの棟に寝室があった。行くぞ」
『お主・・・ベッドがあるというのが本音じゃな?』
 携帯用ろ過装置で雨水をこし、飲み水を確保した。これだけ雨が降っていると、水には困らない。
「どこ行くんだルレイ?トランプしようぜー」
「体を洗ってくる」
「えっ!?風呂あんの?お湯出んの!?」
「水で拭くだけだ」
「なーんだ。・・・・なあ、こんだけ雨降ってんだし、ベランダで――」
「裸踊りなら独りでやっていろ。誰も見ていないのだから安心して踊れるぞ」
『おお!良い案じゃ!よし行けホムラ!!』
「誰がやるかよ!!\(*`Д´)ノ」

(包帯も洗わなければ) 
 先程余分に雨水をろ過しておいたため、存分に使える。
 隣の部屋ではまだ争う怒鳴り声が聞こえていた。飽きないものだなと関心しつつ、眼から頭部にかけて巻かれている包帯を解いていき――
「―――!!」
「ルレイルレイ!フェイがあう!!」
グワンッと小気味良い音がして、突然入ってきたホムラが倒れた。私は素早く帽子を被り、侵入者の顔面に直撃した空の容器を拾う。
「いきなり物投げる事ねーだろ!?」
「いきなり入って来るなと何度言ったらわかるんだ」
絶対に見られぬように帽子を押さえつつ、彼を立たせて外へ押し出した。
(見られたか?――いや、完璧なタイミングで投げつけたはずだ。おそらく・・・)
「・・・ルレイってさ・・・」
ドア越しの、いつになく真剣な声が私の心臓を跳ね上がらせた。――いや、何を動揺している。例え結果的に彼らが離れていこうとも、また元の生活に戻るだけではないか。
 何も変わらない。変わるはずが、ない。
「そのぅ・・・」
「・・・何だ。ハッキリ言え」
(何だ、今の声は。本当に私の声なのか・・・?)
自分でも驚くほど弱々しく震えていた。
「う、うん・・・その、ルレイって――」
鼓動が早鐘のように鳴り響く。手の平に、爪が食い込む。
(・・・言うな・・・)








「ルレイって、本当に男だったんだな」









バンッ!!!



「ぅおう!?」
思い切りドアを殴った。
「わっ悪ィ!いや、だっていつも長袖だし、ハイネックだし、華奢だからてっきり―――」
「馬鹿か貴様は!れっきとした男だ!何度言ったらわかる!?」
珍しく声を荒げる己がいた。怒りが沸いている。その反面、ほっとしてもいる。何なんだ、この感情は。
「だからゴメンって!ちゃんと確認したからもうこれから“女かも?”って思わねぇ!だから許してよルレイ〜°・(ノД`)・°。」
(確認・・・?)
「それにしてもお前、色白すぎ!体細すぎ!もっと飯食えよー」
「関係ないだろう」
(ああ、上は何も着ていなかったか)
どうでもいいことだ。
もう、何でもいい。今日はさっさと寝よう・・・

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Novel Editor by BS CGI Rental
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