×××
「どーするのよぅ!硬くて切れないんじゃどーしよーもないじゃなーい!傷つけるようなことしたら怒るんだろうしぃ」 「・・・・・・」 一人近付き、なんとか無事に帰ってこられた。しかし、花弁は岩のように硬く、まるで岩盤でできているようだった。無論、ホムラを救出するためにこじ開ける事など不可能だ。 (水脈があるな) 私は地面を透視した。 私は盲目だ。しかし、ある人物によってこの透視能力を授かることとなった。目は機能していないが、この能力のおかげで他の人間と同じようにモノを見ることもできる。さらに、操作する事によって物体を透過してその向こうの物を見ることができるのだ。それ相応の集中力を要し、時には大きな疲労が伴うが。 必要な要素のひとつは見つけた。もうひとつをどうするか・・・。あれば余計な体力を使わずにすむ。なければ他の手を考えるまでだ。しかし、こんな所に―― 「強力な火力などあるはずが―――」 「はいはいはーい!アミーちゃん火炎放射器持ってまーす!!」 女は私の呟きに反応して、さっと取り出した。 (なぜ持っている・・・) 『どこにしまっておったんじゃ?』 フェイが小振りなショルダーバッグ一つしか持っていない女にツッコミを入れる。しかし、彼が言葉を解し、話せる事を明かしていないため無意味だ。 「ね、ね、これあっちゃうと助かる?助かっちゃう?アミーちゃん大活躍的な?」 (面倒な女だ) 「借りる」 返事を聞く前に、女の手から取り上げた。 (水脈までの深さはそうなかった。これならいけるだろう。問題だ・・・) 火炎放射器を構え、深呼吸。息を止め、無駄のない動きで花に近づき――
「ルレイちゃん!!」
咄嗟にしゃがんだ。頭上を何かが通り過ぎる。 (やはりか) 「――っく」 息が苦しい。 花を取り巻くツタが鎌首を持ち上げて蠢いている。このままでは・・・ 「えーい!」 緊張感のない掛け声と共に、視界一杯に炎が広がった。 「お助けアミーちゃん参☆上!!」 (二丁も持っていたのか) さすがに驚きを隠せなかった。フェイではないが、どこに仕舞っていたんだ。 「ね、ね、今度こそ助かっちゃった?」 「ふざけている暇があるなら、花に向かって放て」 幸い、炎のおかげで眠りを誘う香りも消えたようだ。危険は増したが、存分に動ける。 二つの炎が蛇のようにうねる。ツタを避ける事はできても、岩のような肌を持つ花を燃やす事は出来ない。しかし―― 「退け」 地中に流れる水脈目掛けて刀を突き立て、引き抜くと同時に腰の袋から小さな爆薬を取り出した。 地面にできた傷に向かって火を付けながら放る。 背を向け、早々に後退したその後ろで、爆竹を十箱同時に引火させたような爆発音が背中を打つ。いや、そんな生易しいものではなかった。鼓膜を破る勢いでビリビリと肌にまで音の振動が伝わる。 「きゃーきゃー!!!!!」 女は、爆発音と沸き起こる地響きに負けず劣らず悲鳴を上げている。知ったところではないが、私は第二陣に備える。 『あ、あんな爆薬を持ち歩いておったのかお主は!』 「来るぞ。乗れ」 説明している暇はない。フェイを抱えると、垂直の岩壁から伸びる木に飛び移った。中々生命力の強いヒン品種だ。 と、図ったかのように低い地響きに続いて水が噴き出した。 「きゃあ!冷たーい!!(>_<)」 『地下水?そうか、その手があったのう』 炎に包まれ、熱を持ったティエッフェは冷たい地下水によって急激に冷やされ、その硬い体にヒビが入った。そう、硬ければ硬いほど、急激な温度変化にもろいものだ。 止めを刺すまでもなく、ティエッフェは自らの体の変化に気付かずにのたうち回ってくだけ散った。 「あっ!ホムラ君!!」 極彩色の破片の中に、紺色の頭が見えた。しとどに濡れた仲介屋と近寄る。意思に囲まれた熱風呂で焼け死んだかとも思ったが、そうでもなかった。おそらくティエッフェの胃袋だろう。半透明の膜に包まれている。救出し、頭を叩くが、苦しそうな表情のまま起きる気配はなかった。
×××
―――――――ホムラ・・・
光が射した。
あんなにどんより厚く掛かってた雲の隙間から、暖かい太陽の光が差し込んでくる。
なんて暖かいんだろう
なんて優しいんだろう
俺も、あんな風になれるかな・・・
――――――ホムラ
ああ・・・ 誰だっけ?
俺になまえをくれた人
ほんの短い間だったけど、一緒にいてくれた人
ほんの短い間だったけど、俺に太陽と同じくらいの暖かさをくれた人
――――――――ホムラ!
こっちにも、暖かい何かがある。――ひかり? ふらふらとそっちに向かった。 血と、肉の海に足を取られる。 そこら中からヒトが恨みがましく手を伸ばしてきたけど、俺は必死にあの光に手を伸ばした。
ホムラ!!
ああ、なんだ ルレイとフェイの声じゃん・・・
×××
「―――はれ?」 打ちっぱなしのコンクリート天井が一番に目に飛び込んできた。次に、ルレイの背中とフェイの真ん丸い目。
っかしいなぁ?俺、さっきまで違う所にいたと思うんだけど・・・ 『混乱しとるようじゃの。ま、それも仕方がないか』 フェイはニヤニヤしながら俺のほっぺを突く。やたら楽しそうなのがムカつく〜! 小せぇ頭を引っ掴んでやろうと思ったけど、その前にうまそうな匂いがして、 ぐうぅぅぅぅ・・・
腹が鳴った。反射的に腹を触ると、指どころか体中に違和感を覚えた。 毛布から手を出すと、包帯がぐるぐる巻きにされてる。 「皮膚が溶かされていた。起きろ」 ルレイがでっけぇ鍋をヨロヨロ運んできてくれた。なんかすんげー似合わなくて、自然と笑えてきた。 「・・・貴様のせいだからな」 ボソってツッコまれるのもすごく久しぶりな感じだ。 それから、皆で豆のスープを食べながら、俺がいなくなってからの話を聞いた。 すっげー迷惑掛けたみてーだ。 『で?お前はどんな悪夢を見せられておったのじゃ?』 「んー?ただの昔話だよ。ってか、アミーは?俺の女の子成分は?」 「もういない。一足先に都市へ行った」 突き出した器を突き返された。まだ腹八分目なのに〜。 『その昔話とやらを聞かさんか。それでワシらに迷惑掛けた分をチャラにしてやるぞ?』
「んー・・・。ま、やっぱ仲間が一番でしょ!」 『いやいやいやいや・・・答えになっとらんじゃろ。(=_=;)やはり香りに当てられておかしくなったか?』 「なってねーよ!だーかーらー!ルレイとフェイは俺の太陽みたいな感じで、すっげーうれしいんだよ!」 「ネジが全部外れたな」 ガチャン!! フェイが突然舐めてた皿をひっくり返した。 「はい!そこで一匹動揺してるフェイ君!わかるんだろ?俺が言いたい事!!」 皿の下から這い出て、キョトキョトルレイと俺を見た。で、ゴホンッと咳払いすると、 『とにかく!ホムラは助けてくれたワシらに感謝しておるのじゃろ・・・?まったく、よぉそんな歯の浮くような台詞を・・・』 「うーん・・・ま、そんな感じ!ルレイだって黙ってっけど、本当はわかってんだろ〜?( ̄ー+ ̄)相棒だもんなっ☆」 「・・・誰が相棒だ」 「えっΣ(°A°)じゃあルレイにとって俺は何なんだよ!親友?第二の家族?」 『世話の焼ける同行人ではないか?』 「・・・意見する奴隷?」 「二人共ひでぇ・・・」 俺が文句をまき散らす部屋には、暖かい日の光が燦々と差し込んでいた。
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