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「きゃ――――――――!!!!!」
「!!?」
昼間。のどかな林の中で、悲鳴が響き渡った。ディムロスと共に調査へ向かっていたわたしは、あまりにも唐突な悲鳴に心臓が飛び上がった。びっくりして振り返ると――
「「セリナー!!」」
「――うっ」
……一瞬、お花畑が見えた。 なぜって、大人二人にラリアットまがいのタックルを喰らわされたから。 「きゃー!セリナが白目むいてるわ!どうしましょう、あなたっ!」 「何!?それは大変だ!早く病院へ!」 「酷いわっ!誰がこんな事を……」 (いやいやいや……あんたらだから) 「うー……」 「大丈夫かセリナ?」 ギャーギャー騒ぎまくる二人をかき分けて、ディムロスが助けに来てくれた。わたしをヒョイと抱えて、安全圏に座らせてくれる。 「怪我は?クラクラするか?」 「ちょっと……。大丈夫、慣れてるから」 その会話がやっと耳に入ったのか、騒いでいた二人がバッと振り返った。ディムロスがわたしを庇うように対峙する。 (やばっ!) 「どういうつもりだ!怪我をさせておいて謝りもしないのか!あなた達は――」 「あ、あの……ディムロス――」 「セリナ?いつの間にお兄さんができたんだい?」 「イヤだわあなた。私達の子供はセリナとナギだけよ」 「………ん?」 眉間にシワを寄せて、その(わたしにとって認めたくない)事実にハッとした瞬間、 「じゃあ――」 ディムロスは、背後に鬼の影が指す満面の笑みに頭を鷲掴みされた。 「この悪い虫はどこの馬の骨かなぁ〜?」 「ぼうや〜?お家はどこかしら?後でうちの研究所特製のプレゼントを送ってあげるわ」 「あ――」 「父さん母さんストップっ!」 ディムロスに詰め寄る二人は、きょとんとした顔で止まった。
「いやあ〜申し訳ない!まさかあなたがあのリーズさんだとは思わなくって!――だからと言って娘との仲を許す訳にはいきませんが」 「ほーんと!びっくりしたわぁ。まさか偶然こんな所でお会いできるなんて!――セリナと別々にお会いしていれば、もっと歓迎できましたのに」 「は、はあ……」
とりあえず場を治めるために喫茶店に入った。 わたしは両親に挟まれ、ディムロスは一人反対側で戸惑っている。無理ないよね。こんな人達が両親だなんて。 「――で?なんでここにいるの?」 わたしはふてくされた顔で、なるべく嫌そうに二親に尋ねる。確か、勤務地はソイルじゃなかったはずだ。 「あぁ、愛しの娘よ。父さん達はちょっとした出張でソイルまで来たんだよ」 「そういうセリナは何故ここへ?ナギはどうしたの?」 うーん………ここは、下手に嘘をつくとヤバそうだなぁ。 正直に話したほうがよさそう。 「わたし、ラービニで会ったディムロスにスカウトされて、彼の協力者になったの。今日がその初仕事」
「「…………………」」
あれ?反応がない。 チラリと両親を盗み見ると、笑顔でディムロスを威嚇してた。 「申し訳ありませんでし―」 「セリナ?お父さん達明日には仕事が一段落つくから、一緒に帰ろうか。久しぶりにおばあちゃんの顔も見たいしね」 「お土産をたくさん買っていきましょうよ!きっと喜ぶわ!」 世界のエウノミアルを完全に無視した。あぁ、なんて親バカなんだろう。 「「ね?セリナ」」
「行かない」
「「!!?」」 はっきり言ってやった。大切に思われてるのはわかるけど、そろそろ独り立ちしてもいいじゃない。 「何を言っているんだいセリナ!この男に変なことを吹き込まれたのかい!?」 「違うよ」 「あぁ!セリナが不良になってしまったわ!ちょっと前まであんなに素直で可愛らしい笑顔を見せてくれたのに!」 「それ、いつの話?」 「目を覚ますんだセリナ!こんな男にたぶらかされてはいけないよ!」 「そうよ!寂しいなら、お父さんとお母さん、ラービニに戻って来てもいいのよ?」 「結構です!わたしももう子供じゃないんだから、ディムロスが良い人かそうでないかぐらい判断つくし、わたしにだってやりたいことはあるの!もうほっといて!!」 ガタンと立ち上がると、テーブルを乗り越えてディムロスの手を取り、そのまま全速力で逃げ出した。
「……よかったのか?」 「何がっ!?」 スピードを緩めて一息着いた途端、申し訳なさそうに言われたので、思わずキッと睨みつけてしまった。ディムロスは被害者なのに……。彼の傷つく顔が見たくなくて、わたしはすぐに顔を背ける。 「すまなかった」 「なんでディムロスが謝るの?」 「俺の勝手で君の両親に断りもいれず、半ば無理矢理連れてきてしまったから……」 「そんな事……ないよ。確かに、ちょっと強引だったけど……。わたし、後悔はしてない。ディムロスの協力者になれて良かったって思ってる」 真っ直ぐに、彼の目を見た。本心だったから。嘘じゃないよって、少しでも伝えたかった。 「…………」 ディムロスは、今まで見せたことのないフワリとした笑顔になって…… 「――ありがとう」 ぎゅってハグしてくれた。 すごく暖かくて、わたしは何でか知らないけど、涙を流していた。
気を取り直して調査を始めたけど……これがなかなか進まない。 脱牢の犯行現場を見た人なんてそうそういない。バレてないんだから増えてるんだし。 それにしても……どうやってあの屈強な牢番人達の警備をくぐり抜けたんだろ? ディムロスにそう尋ねてみると、しばらく彼は考え込んだ。 「考えられるのは、外部からの手引きだ。どうやったのかは定かではないが、牢番人達はしばらく眠らされていた。その隙に逃がしたのだろう」 「殴られて気絶?」 「いや。違うらしい」 「じゃあ、どうやって……?」 「それを調べるために科学技術研究所へ――――」 「……………………」 「……………………」 「行けない、よな」 「行けないね」 そうだ。今行けるはずがないんだった。わたしの両親は科学者だ。しかも、今仕事で来てるって言ってたし…… 「トルバに代わってもらうか」 「そ、そうだね……」 逃げるように――っていうか、実際逃げ出したその日の内にまた顔を合わせるのはあまりにも気まずすぎる。
「で、ノコノコ戻って来たんかい。自分ら、情けのぅ思わんのかいな」 丁度中間報告の時間だったので、私たちはアシュレイさんのお店に戻った。 事情を話すと、トルバはチクチク楽しそうに私たちを苛める。ムカツク…… 「うるさい黙れいいからさっさと行ってこい」 ディムロスもカチンときたのか早口に言うと、トルバを外へ放り出した。
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