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i n f u s e 作者:さくらみなこ

第7回   < 6、王位継承者 >

ここは広大な海原。
どれくらいの時間がたったのだろう?

目に見えるものは青い空に雲。

そして水面に光る無数の輝き。
それ以外は何一つ無い世界。

無気力な体でありながらリオンの指は無意味にカチカチと
距離数メーターを何度も何度も押してみる。

緑色地から現在の記録は、何度繰り返し見ても
零・・・ここはどこなのか見当もつかない。

絶望感だけが存在する事実の中で、不思議な事に
どうすれば帰れるのだろうか?
その言葉だけが先へ先へとでてくる。

いつも冷静で物事をしっかり組み立てられる
リオンの頭の中は真っ白だった。

そんな重々しい空気の中、息を吹き返したように
アルテが目を覚ました。
「リオン・・・」

細々とした声に気づく。

「目が覚めた?」

ゆっくり起き上がるアルテ。

壊れ物に触るように
疲れた体を気遣い、アルテを優しく抱いた。

リオンの腕の中で、覗き込むように
外の様子をモニターで見る。
「ここは?」

絞る様な声で言葉を滑らす。
「まったくわからないんだ・・・」

アルテは一点を見つめながら、魂の抜け殻のように問う。
「戻れないってこと?」

リオンの胸に顔を押し当て、微かに
涙を浮かべているアルテに絶望感を与えたくない。

幼い頃から、いつも一緒だったから、
あたりまえのような安心感は、あったけど、
あの暖かな大観衆から、いきなり闇夜に放り出されたのだから
不安と動揺が隠せない。

やっとのことで軌道を修正することだけは出来るのだが、
ペガサスの故障はまぎれも無い事実で、緑色地への通信は
不通のままだから・・・。

たとえば帰ることが可能だったとしても、
青色地に気づかれてしまったらどうなる?

その結果、二人は間違いなく殺されるだろう。

ましてや王位継承を受け継ぐ子と知られたら
緑色地を脅かす道具にもされ兼ねない。

そんなことになったら・・・あの満ち足りた国は・・・
今頃緑色地では何が起こっているのだろうか?・・・。

きっと家臣や民たちは私たちを心配しているだろう・・・。

だが・・・王は?

一身に期待をかけた私に失望しているかもしれない・・・。

私の後には第二王子アロンがいる。

決断の早い王の性格を、リオンは知っていた。
家臣の中にはアロンを、王位継承に推薦するものもいた。

ほんとうに望んでいる緑色の後継者は
自然と溶け込める人物ではないのだろうか?
とリオンは思っていた。

アロンは勉学より常に人や生き物に対して
愛情を注いでいたし、彼の周りには
森からの動物たちがいつも取り囲んでいた。

けれど、優しいアロンはリオンのことを慕って
「僕はいつでも兄さまと行動をともにするよ」
といってくれていたことが思い出される。

〜 追憶 〜
目ばかりが顔の半分以上ある小動物。

寝転がりなら、それを空に向けて抱き上げるアロンの
笑い声が城の中庭に響く。

遠くでみていたリオンがアロンの側に近寄る。

膝に手をあて腰をまげ、動物の顔を覗き込むリオン。
「これ、かわいいの?」

リオンに満面の笑みを返すアロン。
「この子に限らずみんな可愛いんだよ!」

その場にしゃがみ込むリオン。
「だから、この子たちはアロンのことが好きなんだ」
わずかな微笑を、今度はリオンがアロンに向けて返す。

「僕には無理なことだな・・・」
仕方がないといった風な面持ちで空を見上げるリオン。

寝転んでいたアロンが起き上がり、空を見上げて言う。
「僕にとって兄さまはいつも格好良いよ!ステキだよ!」

照れるように動物の頭を撫でるリオン。
「キー!」と威嚇する小動物。
「そう思ってくれるのは、やっぱりアロンだけみたいだ」

笑いながらアロンの頭をポンと叩くリオンにたいして、
満面の笑みをリオンに返すアロンだった。

もしかしたら母さまのことで、リオンを
哀れんでいたのかもしれない。

そんな優しい性質はアルテとも気が合い、
リオンがメテルと共に過ごす日々が続いた時期に
良く二人は、動物を囲んで遊んでいた。

その光景は光に満ちていて、笑いが絶えず、
植物さえも瑞々しく咲き誇り、自然な空気が漂う。
これこそ緑色地が求めている聖地のような
雰囲気を作り出す力を持っているアロンとアルテ。

血が繋がっていて、男でもあるアロンなのに、
リオンとは全く違った性質だった。

けれど王は微笑みを浮かべ
「おまえの学びをより高く活かしなさい」と小さな頃から
リオンにそう言ってきかす王だった。

そして王は家臣たちの前で、王位継承にと、
自分を認めてくれた。

王の最高の愛情を感じた瞬間だった。

だから今ここにいる自分が悔しくてたまらなかった。

ため息をつきながら地平線を眺めるアルテ。

そして視線が直視したその先に、
懐かしさを感じるものを目にした。
「あの島は?」

リオンも気になるあの島。

何度も見え隠れし日々近づく島。
たどり着いていいのだろうか?

青色地でないことは確かなのだけど、安住の地とは限らない。

アルテがリオンの背中に、隠れるようにして小島を覗き込む。
「察知されるんじゃない?」

「いや、気づかれていたらすでに攻撃してくるはずだ」

かなりの衝撃と長運行。

何よりペガサスの故障を直さなければ何も出来ない。
必然的にこの島に頼るしかないのだ。

「アルテ、これはチャンスかもしれない!」
「えっ?」
「蓮の水だよ! 護衛がついていないだけだ」「探すっていうの?」
リオンの瞳はキラキラ輝き始めていた。

そう、ついさっきまで帰ることだけを考えていたけれど、
もともと二人は蓮の水を探しにでるはずだったのだから、
ここで探検するのも不思議ではない。

ほんの少し早くなっただけだとリオンは思いたかった。

アルテの瞳は驚いていた。

その瞳をまっすぐ見つめるリオン。
「恐くない?」
未知の世界へ飛び込むのだから、覚悟がいることを
リオンは確認しておきたかった。

不安げなアルテの顔。

けれど何かしなければ死を待つだけ。
「行くよ!」

小さく頷くアルテがリオンの肩越しにしがみつく。

アルテの頭をポンポンと叩き「大丈夫!君を絶対守るから!」

リオンの笑顔にアルテも頷き、彼の胸に
すぐさま顔を押し当てた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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