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i n f u s e 作者:さくらみなこ

第6回   < 5、闇夜 〜回想〜  >

【蓮は泥より出て泥に染まらず】
代々受け継がれてきた緑色王家の訓戒である。

「儀式は滞ることなく行うべし・・・今となっては困難でもあるが、
必ずや蓮の水を、大いなる湖の中、五つの地から探し出せ」
先代ウス王からの遺言だ。

緑色地の地形は円錐状で、民たちが住む裾野が広くない。

大いなる森で覆われているその地に、湧き水はあっても
海へと流れ出てしまうために、年々溜池が減少し、
現在では蓮が生息する池が無い。

よって神聖なる蓮といわれるものが、自生しないのだ。

蓮は、緑色地と青色地との象徴で、泥から生え、気高く咲く花。

まっすぐに大きく広がり、水を弾く凛とした葉の姿が、
俗世の欲にまみれず、清らかに生きることの
象徴のようにとらえられている。

その沼の原水に浸かることによって、身体と精神が
清められるという代々王位継承を、
受け継がれる者の儀式だ。

現王は青色地の情けで、青色地の蓮池で
儀式を行ったが、閉鎖されてしまったリオンの代では、
近隣の五つの地から探し出すしかない。

緑色地の王家と民たちは、理想郷を手に入れるために、
この言葉を忠実に守ってきた。

リオンとアルテの最初の仕事がそこから始まるのだ。

五つの地とは、広大な湖の上に浮かぶ、
五つの色で彩られている地。

緑色地、青色地、赤色地(せきしょくち)、
黒色地(こくしょくち)、銀色地(ぎんしょくち)。

青色地との間を閉鎖して数十年間、緑色地では
常に蓮の水を探し続けて、すでに黒色地には生物が
存在しないことがわかっていた。

期待ができる二つの残る地、それが赤色地と銀色地である。

船内の中で、二人は期待に胸を膨らませ、
子供のようにはしゃぎ、時が過ぎてゆく。

「さすがだね! リオン一人でペガサスを操縦できるなんて!」
「さほど難しいことはないんだよ」リオンは得意顔だ。
「すごいなぁ〜!尊敬する!」
リオンの首に腕をからませ頬を寄せるアルテ。

にっこり笑いながらアルテをみつめるリオン。

照れるアルテはリオンの頭をぐちゃぐちゃにする。

「なにするんだぁ〜!」
今度はアルテに仕返しするリオン。

髪の乱れを見て大笑いする二人。

ところが、さっきまで静まり返っていた海上が
いきなりざわめきだした。
と感じた瞬間に波が怒涛のように打ち寄せてきた。

その直後、バァーンという騒音とともに船は大きく揺れる!
ペガサスは荒れ狂った波の中へと流されてしまった!

あまりに急な衝撃にリオンは対応仕切れない!

ペガサスの起動は物凄いスピードで
開始されてしまったのだ!

張り詰めた空気が、二人の心臓の
音までも聞こえそうなくらいの緊張感が漂った。

その緊張感はどれくらいたったのだろう・・・。

しばらくして運航が緩やかになり、リオンは「フーッ」と息をはいた。

「大丈夫だ。青色地の境界線は避けたし、戻れるよ」

胸を撫で下ろした直後、突然、高い所から
急激に落ちるような衝動がはしった!

ペガサスは、うなるように左右へと小刻みに揺れ動く。

そうかと思うと一直線に吸い込まれるような速さで前へ進む。
あまりの圧迫感に耳がキィーンとなる。

そしてペガサスが大きく旋回した瞬間、船内の機動が止まった!

あまりあわてる事のないリオンが声を張り上げた!
「何かに引き寄せられている!」

みるみるうちに顔が青ざめていくリオン。
アルテはただ呆然とするばかりだった。

「だめだ!」
リオンが叫ぶと同時に旋回し始め、
ペガサスは闇夜の中へと消えて行った。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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