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i n f u s e 作者:さくらみなこ

第5回   < 4、夜の森 〜回想〜 >

王はリオンとアルテを信頼していた。

何より、子孫繁栄で国は守れると
実感していたのだ。

王の誇らしげな顔を見る事が、リオンにとっても
幸せであった。

ルディア王もまた、先代ウス王が恐れていた青色地の内乱、
そして病魔の繁殖を更に恐れていて、
魔の進入を防ぐ為に、今の緑色地に更なる発展を求め、
王子リオンにあらゆる最高の教育を与え、
主導権を握る祖先を完璧なものにさせようと、両性体の
健康体をアルテに求めているのだと、家臣や
民たちに公言していた。

家臣の一人、イストスが二人の下へひざまずき、満面の笑みで
リオンとアルテを見つめる。
「この時を・・・長い年月をかけて待っていました」
二人の手を握りしめ涙する家臣イストス。

「ありがとう」
家臣の涙で、この結婚が如何に重要であるかを
身に沁みて礼を言うリオン。

イストスはアルテに両腕を差し出し、アルテは優しく抱擁する。

優しいまなざしで、リオンは微笑みながら声をかけた。
「おまえはアルテが一人であった頃からの
世話役だった・・・イストス、これからは
私がアルテを守るから安心しなさい」

そんな三人の様子を、感慨深げに王は遠くから
見つめていた・・・。

そろそろ宴も終盤に入る頃、リオンとアルテは
こっそり夜の森に抜け出した。

二人が見る夜空と森の中は、いつになく
悲しげなほど美しく静かだった。

繋いだ手と手は、幼い頃からの互いの安心感。

アルテは握っていた手をさらに強く握りしめた。
「この手は君を助けられる?」

リオンは、きっぱりした口調で「君だから繋いでいる!」

二人が見つめる黒々とした夜空の彼方。

そして、月の光で照らされる遠くの水面を指差し
リオンは再度口を開いた。
「あの地は、両性体が減少した為に、
滅亡の危機を向かえている。僕たちの永遠の指名は、
この地を守る事だから!」

その言葉に胸が締めつけられるような
痛みを感じるアルテ。

リオンの幸せは自分の幸せ・・・と、
自分に言い聞かせたはずなのに・・・。

自分の存在は、この地だけのもの・・・。
そう、言い切られたような空しさはあったけど、
アルテにとって、リオンは特別な存在だっただけに、
自己中心的な感情はぶつけたくなかった。

想えば小さな頃から、そうしてきたかもしれない。

孤児だったアルテには、
周囲の暖かさがあったにも関わらず、リオンの温もりだけが
肉親の、愛情の変わりだったような気がする・・・その暖かさは、
自分には何故か、リオンだけのように思えていた。

だから臆病になっていたのかもしれない。

不安な気持ちを見せたくなくて、
この関係を断ち切りたくなかったから、
メテルとの関係もそ知らぬ振りをしていた。

いつも笑顔の耐えないアルテの横顔だから・・・。

淋しそうな顔は、一瞬にしてリオンに悟られまいと、
悲しげな瞳と共に暗い森に溶けていく・・・。

一変した笑顔でアルテが言う。
「皆を幸せにしてあげてよね」

うなずくリオン。

風もないのに草木がガサッとゆれる。
「何?」振り返るリオン。

「私たちをうらやましく思っている森の精たちだよ」
リオンにニッコリ微笑むアルテ。

自然に結ばれる手と手で、これからの希望を乗せ、
二人は森の中を飛ぶように駆け抜ける。

警備の目をかい潜り、息を切らし、
足を止めたその場所は、海岸に浮かぶひとつの船の前。

勢い良く船に乗り込む二人。

護衛の軍艦は付くものの、
二人が乗り込む海上船ペガサスで、
側近もいない二人だけの旅が数日後に始まる。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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