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i n f u s e 作者:さくらみなこ

第4回   < 3、母さま 〜追憶〜 >

「リオ−ン!」
城の裏山に響く、アルテの声がこだまする。

空を仰ぎ、一人寝転ぶリオンの側に、アルテは息を切らし、
眩しいほどの笑顔で駆け寄ってきた。

「ほら!」

合わせていた幼い小さな両手を、ゆっくりひろげると、
手のひらの中から、たくさんの花びらが
風にのって舞い上がる。

「からだがしずむほど、たっくさんあるんだよ!」
アルテのくったくのない笑顔をまえにして
微かな微笑をかえすリオン。

「どうしたの?」

からだを起こし、唇をかみしめ、
いまにも泣きそうなリオンが、伏しめがちになる。

「母さまが・・・僕を母さまの部屋に入れてくれない・・・」
リオンの肩に顔をおしあてるアルテ。

「アロンはいつも母さまの膝の上なのに・・・
いつも抱かれているのに・・・
僕には母さまに抱かれた記憶がない!」
うつむくリオンの頬には、一滴の涙がこぼれ、
それを見せまいとすぐさま手で拭う。

「家臣たちが、リオンは王位継承者だから、
それなりのふるまいが必要だって言ってたよ」

「それは・・・わかっている・・・けど・・・
思うんだ・・・僕は亡くなった
妃の子じゃないのかな・・・って・・・」

かつてルディア王には、密かに愛したとされる側室がいた。
けれど妃は病弱で、
今の后がくると同時に亡くなってしまったのだ。

リオンの肩に押しあてていた顔を、拭うように押し付けるアルテ。

「アルテがリオンの母さまになってあげる!
私たちは結婚するから、ずぅ〜っと一緒! 
今は無理だけど大人になればリオンを膝の上にのせて
抱っこすることもできるよ!」
ちゃめっけたっぷりに言うとリオンの顔を覗き込む。

「大人になれば僕だって大きくなるんだから・・・」
嬉しそうな顔を隠すようにクルっと背を向けるリオン。

アルテはその背中に抱きついた。
「こうやってね!」

抱きつきながら、体をゆらゆら揺らし、
二人は寝転がり、ケタケタ笑いだす。

抱きついたままの二人はゴロゴロ転がって、
笑い声は空高く、さっきの花びらを追うように
舞い上がって響いていく声。

アルテの笑顔はいつもリオンの側にあった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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