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i n f u s e 作者:さくらみなこ

第2回   < 1、 両性体 >

昔、あるところに
結ばれぬ運命と知りながらも、愛し合う
異母きょうだいがいたました。

そのきょうだいは
国を守る王の子たちだった為に、二人の子に付き添う家臣たちの間で
王位継承争いが起きてしまいました。

やむをえず一人の子は身をひき、母とともに
母の故郷へと去って行きました。

「いつか、かならず二人の想いを共にしよう」
という誓いを残して・・・。

「母さまぁ〜、そのお話のつづきは?」

「そのお話の続きはあなたが作るのよ」と優しく微笑む母。

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ここはどこだろう?
どれくらいの時間がたったのだろう・・・。

海上船ペガサスは機動が止まったまま、青々とした
海原をゆっくりと浮遊している。

船内に差し込む日の光はやけにまぶしい。

横に伏している体がだるい・・・手をかざすのもおっくうだ。

ギシッ・・・ギシッと一定になり響く、船がきしむ音。

重いまぶたをゆっくりあけ、瞳にうつるものは・・・一つの小島?
どこなんだ?

おぼろげに見えた島がまた消えてなくなる。
幻?

モニターに映し出される海上の薄れ往く風景が、頭の中で、ぐるぐるまわる・・・
うっすら見えるのは、どこまでも続く地平線。

はっ?
手に温もりが感じられ、ふっと横を見ると、女でもなく、そして
男でもない両性体アルテが横たわっている。

この手をしっかり握りしめ、その体は疲れ果てて眠ってしまったのだ。

その手を離さず、そっと体をひき寄せる。

アルテの暖かさを自分の心に染み込ませるように
胸へと包み込み、頭をゆっくりなで、さらに抱きしめ、ひとりではないことの
安堵感をかみしめた。


両性体とは・・・成人を過ぎた頃から
異性の愛情によって、体が男と女に変化する。

そもそも緑色地と青色地は、男と女と
両性体で形成され、子孫を繁栄していた。
男を愛すると子供を産む体になり、女を愛した場合、
男の体に変化する。
両性体の子供はだいたいが、両性体の遺伝子を受け継ぐが、
まれに男女を産むこともある。
異性を愛することが出来ない場合、女とも男ともつかない
少年のような体のままだ。
子孫を繁栄出来なくとも、両性体どうしの愛情を重視して
暮らすこともある。
両性体の性質には体と同時に、心にも枠が無いのだ。


アルテを抱きかかえたまま、思考力のない頭で
目に写るモニターをながめる。

緑色地からの音信は不通。

何十回?
いや何百回と旋回する船舶ペガサスでの疲れが、それから
幾度も眠りにつかせた。

放心状態の中で、またもくりかえして見える遠くの小島が、
太陽の光で照らされている。

「えっ!」
ぼんやりと見ていたその島は青色地?

肉眼での大きさは、涙ほどのものだが光るような青い色は
確かに青色地そっくりだ!

のけぞるように起き上がり、くいいるように見た。
いや違う?

地形は?規模は?

モニターには次から次へとうつし出されるコンピューターの情報。

キーボードを打つ手がふるえる。

けれど・・・距離的に考えれば境界線を越えているはずだ。

それに青色地だとすれば、既に攻撃されているに違いない。

期待が一気に落胆へと変わる。

帰れるのだろうか?

頭をもたげ、力の抜けた体はくずれるように伏した。

どうしてこんなことになったのだろう・・・緑色地から
どんどん離れて行くようでならない。

民たちの歓声と宴。

王の威厳。

静まりかえった森・・・。

頭の中で、次々と被写体のように、緑色地のことが写し出されていく。

みんなで駆けずりまわったあの森の、映像がぼやけていく。

薄れ往くことのない記憶の中で、木の影からうっすら
美しい女の顔が・・・メテルの笑顔が・・・悲しげなメテルが・・・。

懐かしいもののように思い出されていった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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