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i n f u s e 作者:さくらみなこ

最終回   < 15、溶ける 〜最終章〜  >

足首まで水が浸る浅瀬。

一歩一歩青色地をかみしめるように歩くリオン。

数十メートル先の砂浜や岸壁には
青色地の人々でうめつくされている。

その中央には、両手を板に括られ、その板に
はり付けられたアロンの姿があった。

ゆっくり、ゆっくり歩くリオン。

その光景はどんどん近づいてくる。

後ろでは船のまえに、ロイとメテルが
心配そうな顔でリオンをみまもる。

また一歩、また一歩、近づくに連れ、
青色地の人々の顔がはっきり見えてくる。

アロンはリオンをまっすぐみつめている。

アロンの周りには、獲物を捕らえたかのような、
血気にはやる青色の人々の顔。

その中にはあの卑劣な男も見えた。

そして・・・リオンの足が止まる。

そう・・・憂えを隠したアルテの顔も。

リオンはそれらに向かって言葉を発した!
「私は蓮沼で儀式終え、緑色地の王になった!」

蓮のかたくを前に差し出し、
青色の人々に見せ、再び叫ぶリオン。
「だから私には国を動かす権限がある! 
緑色の答えは・・・武器を持たない! 
戦わない! 
私の命もアロンの命も青色地の人々の
好きにしていい! 
鎖国は解く! 
緑色の人々と共に営みを
分かち合ってくれれば、それでいい!」

青色地の人々がざわめき出す。
「だまされるな! そんなことで
私たちの恨みが晴らせると思っているのか!
 もともと病が流行るまえ、勢力争いを
終わらそうとした手立てが、青色同士の
政略結婚ではなく緑色の王の子と
すり替えたっていうのはわかっているんだ!
 緑色は青色を乗っ取ろうとしているんだ!」

「そうだ! そうだ!」同意する民たち。

「みんな! 思い出すんだ! 
我らが代表たちは、まさに、自らの命を
緑色に捧げ、閉鎖はしないで欲しいと願って
蓮の沼で命をかけた! 
それを緑色の王家は拒んだんだ!」

そこへ、どこからともなく、わって入るように
アルテの幼い頃からの、家臣イストスが現われた。

「まってくれー!」
イストスはアルテに駆け寄る。
「ルディア王は
二つの地だけのことを考えていました!」

アルテのまえに跪くイストス。
「誤解です! あなたの婚約者は
間違いなく青色の代表の子です!」

アルテの目をまっすぐみつめるイストス。
「緑色に流れて行った青色の両性体が
産んだ子なのです! 
その方はルディア王の妃とされていましたが、
緑色に流れ着いた時には、既に
身ごもっていました! 王の子ではないのです! 
緑色は青色を乗っ取ろうなどと
していませんでした!」

イストスは物乞いのように、アルテの衣服を握りしめる。
「私は、リオンさまとアルテさまの後を
ずっと追っていました! 
王から、このことは言うなと、何があっても
二人を信用するようにと、
ルディア王は言っておられました!
けれど、見守るのはもう限界です!」

ひきちぎらんばかりにアルテの衣服を
握り締めるイストス。
「アルテさま! 
あなたのお母さまは
ルディア王と母親の違う、きょうだいなのです!」
「えっ!」

幼い頃、母から昔話として
聞いていた話が、アルテの脳裏を過ぎる。

あの話は・・・確か・・・
「いつか、かならず二人の想いを共にしよう」
という誓いの話。

そして母は私に、つづきは私に作れと言った・・・。

〜追憶〜
昔、あるところに結ばれぬ運命と知りながらも、
愛し合う異母きょうだいがいたました。
そのきょうだいは国を守る王の子たちだった為に、
二人の子に付き添う家臣たちの間で
王位継承争いが起きてしまいました。
やむをえず一人の子は身をひき、母とともに
母の故郷へと去って行きました。
「いつか、かならず二人の想いを共にしよう」
という誓いを残して・・・。
「母さまぁ〜、そのお話のつづきは?」
「そのお話の続きはあなたが作るのよ」
と優しく微笑む母。

唾を飲み込むアルテ。

ルディア王の言葉が聞こえる。

【リオンと私が一つになれば
緑色と青色の理想郷が出来上がる】

震えるアルテの体。

後ろをふり返ると青色の人々の顔が見える。

彼らは私に何を期待している?

ゆっくり前をみるアルテ。

アルテの持つ銃は・・・リオンに向けられた!

「もう、うんざりだ! 緑色と青色は一つになれない!
 恨んで死んで行ったものたちには、
緑色の血が混じることが・・・
溶け合うことが許されないんだ!」

静まり返っていた青色の民たちは
一声に「おー!」という声をあげる。

その声に、後押しされるように
アルテは両手で、銃の引き金をじりじりと引く。

跪き、泣きながらアルテをゆらすイストス。
「やめてくださいアルテさま!リオンさまは・・・」

「どけ!」
青色の民がイストスをアルテから
腕ずくで引き剥がす!

アルテが一歩前へ出る。

今度こそ、今度こそ、リオンとサヨナラだ!

周囲が静まり、波の音だけが聞こえる瞬間、
遠くの方で、ロイが手を伸ばし、
何かを叫びながら、走って来るのが見える。

その光景は
あわただしいものではなく、まるで
ゆっくりとした映像のようなさまで、その背景には
青色地を染める夕日が、まっかな炎となって
海原へと落ちていく。

それとともに早く、早く、
ブルーホールの中へと、せめて・・・
あの美しい青の中に葬らねば・・・。

だけど・・・直視する先が・・・
リオンの姿を・・・
リオンのピアスの光でじゃまをする。

アルテは下を向き、目をつむり、
握る銃の、両手のひとさし指に力を入れた!

そして、バーン!というけたたましい音が海岸に鳴り響く!

アルテの全身の力は抜けて、
両腕がダラリと下がる。

倒れたリオンを想像していたアルテの目に映ったのは、
ぶたれたように上半身だけが
後ろを向いて、よろけるリオンがそこにいる。

「死んで・・・いない・・・」
魂のぬけがらのように呟き、弾が
外れたと知ったアルテがまた
少しずつ、よろよろと前へ歩き出す。

そしてリオンも前を向き、ゆっくり近づいてくる。

手が届きそうなくらいの距離で、アルテは
またもリオンの胸に銃を突きつける。

感情を押し殺していたアルテ。

なのに、リオンをまえにして
唇が微かに震えてきた。

やっかいな絆がこころを締めつける。

涙を流してはいけない!
こころを鎮めなければ! 
と自分に言い聞かせるアルテの目には涙が溢れて
リオンの顔がぼやけていく。

アルテに向かって両手を広げるリオン。
「アルテ、けっして統合しなくても・・・
溶けさえすれば・・・
溶け合わなくてもいいんだ」

リオンの言葉が、声が、
アルテの溢れる涙を止めようもなく放つ。

目の前にいるのは、
あんなに恋しいと思ったリオンなのだ。

一夜離れただけなのに、もうずっと
触れていないような・・・

あの優しい微笑みに・・・
リオンの目、リオンの鼻、できれば銃を置き、
もう一度リオンに触れたいという衝動にかられるアルテ。

そしたら、わかっている・・・
リオンの暖かさが自分の中で溶けてゆくのが・・・

リオンの頬、リオンの唇、そして耳には
私たちの絆のピアスが・・・な・・・い・・・。

つい、さっきまで光を放っていたはずのピアスが・・・

耳には、カケラだけがわずかに残っていた。

そして・・・
そこには・・・。

アルテの全身の力が抜けて、手から銃が落ちる。

リオンのピアスのあとには、蓮の花のタトゥーが印されてあった。

〜追憶〜
私が見たその子たちは
同じベッドの上に寝かされて、偶然なのでしょうけど
抱き合うように手を繋ぎ合わせて眠る。
それはとても暖かな光景でした。
まるで青色地に光を与えるために産まれてきたかのように・・・。
< おわり >

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Novel Editor by BS CGI Rental
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