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i n f u s e 作者:さくらみなこ

第15回   < 14、決意 >

夕暮れ時、蓮池で儀式を終えたリオンは
王位の資格を得て、ルディア王が
亡くなった今、緑色の王となった。

緑色では今頃、ルディア王を
殺された青色への怒りで、民たちは
混乱に陥っていることだろう。

王リオンは、亡きルディア王の死を、嘆き
悲しんでいる民たちの、その怒りを、
鎮めなければならない。

そのためにも儀式を終えたリオンを、一刻も早く
緑色に戻すために、ロイはメテルの船で
緑色地に戻ることをすすめた。

「新たにメテルさまとの成婚で、緑色の国を
守っていかれて方が・・・」

うつむき、いったん口を開き、ためらい、
そしてまた口を開くリオン。
「もう・・・アルテのことは忘れろ・・・と?」
「はい・・・」

ロイの言うことは正しいのかもしれない。

けれど、リオンは自分自身の気持ちに
気づいてしまった以上、メテルに
嘘をつけないことがわかっていた。

しかし、そう思いながらも、王という称号が
体にのしかかってくる。

そして心と体の行動は裏腹で、ロイの言われるまま、
蓮のかたくを片手にメテルの船へと戻った。

気がすすまないメテルの船。

ドアを前にして何気に振り返るリオン。
アルテ?
一瞬、岩陰に人の気はいを感じた。

船のドアは開けられ、メテルが両手をひろげ、
リオンにかけより、抱きしめる。

リオンは抜け殻のように
ただ立っていて、体を気遣うメテルに
手を引かれ、船内に入り、ベッドに寝かされる。

その体はあやつり人形のようだった。

メテルに優しく頭を撫でられ、
頬を寄せられても何も感じない。

それは・・・わかっている・・・
アルテがいないから・・・アルテではないから。

体をひとつに重ね、あんなに愛したメテルなのに・・・
心とは一瞬にして変化する。
なごりのカケラさえも無い。

メテルの顔をみつめるリオンの目からは
一粒の涙がこぼれ落ちた。

リオンの唇にそっとキスをするメテル。

そうだった・・・
アルテにはくちづけさえしたことがない。

昨日まで、あんなにアルテの
暖かさを、柔らかさを、この頬で
確かめていたのに・・・

もう一度触れたいという想いは
もうかなえられないのだろうか?

アルテが側にいない・・・。
こんなにも体が寒い。

自分のからだを両腕で抱き、
メテルに背を向けるリオン。

島を出るこの船の波をかき分ける音は、
心のむなしさで、からだ全体に
痛みをともなわせていた。

眠っているのか・・・いないのか・・・
まぶたを開くと、緑色地が見えるまでは
さほど時間がかからなかった。

それは・・・
実はあの島は、青色地が密かに
隠していた離れ小島だったからだ。

あの婚儀の夜から、すべてがアルテの
罠だったと知らされても、憎むことや、まして
罵ることさえ出来ない。

リオンの心は尚もアルテへの愛おしさで
胸が張り裂けそうだった。

緑色の領域内に入る直前、
アロンが青色地に捕らわれたという
知らせが緑色から入った。

ルディア王が亡くなった今、動揺する間もなく
リオンの決断は迫られていた。

王は私の何を信頼していたのか?

「おまえの学びをより高めなさい」
とだけ言い残した王の言葉。

それは私自信への信頼。

自分で考え、自分が決断することを
認めているということ。

それなら今、緑色と青色には何が必要なのか?

ルディア王は二つの国が
ひとつになることを望んでいた。

しかし、少なくとも青色の民たちは
緑色の裏切りで、それを望んではいないのだ。

思考は必ずしも投合しなくて良い。
相違は認めるべきだ。
必要性を考え、心豊かにして
生きることが大切だ。
相手の人格を尊重し、自ら駆け寄る勇気が必要で、
正しいか、正しく無いかは
自ら思ったところに有るのだから・・・。

決して交わることの出来ないのが
何億もの魂なのだ。

緑色の先頭にたち、自分が
やらなければいけない立場ではあるけれど、
アロンが勇気をもって示したくれたように、
私は一人ではない!

アロンは緑色のために
自分の命をかけている! 

微笑むアロンが私とともに
行動するという言葉は生きているのだ!

そして、幼い頃から喜びも悲しみも、
ともにしたアルテが・・・

あの年月は確実に体に沁み込んで、
絆となっていることを確信し、
緑色にいたあの頃のアルテがいると信じてみよう!

リオンは立ち上がった!
「青色地へ行こう!」

抜け殻のようだったリオンの顔つきは険しく、
決意の程をのぞかせていた。
「私一人で行く!
青色地が近づいたら私だけを陸地に下ろしてくれ!」

駆け寄るメテルがリオンの腕をひく。
「むちゃ言わないで! 今の青色は
獲物を捕らえようとしている人間の皮をかぶった
悪魔と化しているのよ!」

ふり返り、メテルを見つめるリオンは目を細める。
「だから一人で行くんだ」

わずかな笑を浮かべるリオンが再び口を開く。
「誰もがみんな国のために、民のために、
やろうとしていることを認めるんだ・・・」

腕をつかんでいるメテルの手をゆっくり離すリオン。

「国のために・・・」
その言葉はメテルの胸を熱くする。

自分がしようとしていることを
見透かされているようだった。

「そう、民たちのために!」
リオンの凛とした瞳は迷いのない意思がみえる。

いつからリオンは
こんなに成長したのだろう・・・
とメテルはもう何も言えなかった。

そして船は旋回し、青色地へと方向を変えた。

案の定、リオンを待つかのように、
境界線を越えても青色地は攻撃してこなかった。

しばらくしてブルーホールが見える浅瀬に
リオンたちの船は乗り上げた。

ブルーホールとは青の洞窟と称され、
浅瀬に穴が空いたように形成された地形である。

ホールの周囲は珊瑚礁で覆われ、
目を見張る美しさだが、ホールの中は青黒く、
その底は青色地にとって未知の世界であった。

青色地の人々の言い伝えで
《結ばれぬ恋は青の洞窟で身を結ぶ》
という言葉が残っているくらいに
神秘的な場所なのだ。

船のドアを開けると、ブルーホールの青が
眩しいほどに、目に突き刺さる。

リオンは一人で船を降り、蓮のかたくをにぎりしめ、
青色地へと踏み出した!

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Novel Editor by BS CGI Rental
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